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ホラァ

分水例

作者: 雪麻呂






 飼っている魚が、共食いを始めた。

 小型から中型まで二十匹以上いたのが、残ったのは一匹だけ。

 もちろん食用じゃない。観賞魚だよ。

 飢えさせた憶えはないし、混泳にも問題ない種類だったのに。


「餌が悪かったのかなぁ」


 特に安物ではないんだけどね。

 滋養が付くと思ったけど、駄目だったか。

 仕方ないので、ミナミヌマエビを与えることにした。

 これなら近所の水辺で採れるし、放っておいても簡単に増える。

 好物だったのか、もりもり食べた。

 そのせいかな。数日したら、脚が生えてきた。

 何本あるかわからない。なにせ大量だ。それで低床をうぞうぞと歩き回る。

 エビと言うより、これじゃ毛虫だ。


「エビは良くないな」


 貝をあげよう。シジミでいっか。

 せっかくだから産地直送。ちょっと奮発したよ。

 冷凍すれば保つし、良い物をね。なんなら僕だって食べたい。

 美味しかったのか、もりもり食べた。

 そうしたら、背中に殻が生えた。

 うん? 生えたっていうの? こういうの。

 とにかく、殻を背負ってる。カタツムリみたいに。

 それで水槽の壁面をぬらぬら這ってる。


「そうくるかぁ……」


 別に丸ごと放り込んだわけじゃないんだけど。

 ちゃんと中身だけ、解凍してあげたよね?

 まぁ仕方ない。いっそ逆の発想だ。

 カタツムリなら、卵の殻でもあげてみよう。

 なんか、もりもり食べた。

 数日して見ると、卵になっていた。

 魚卵じゃないよ。もちろんカタツムリの卵でもない。

 食卓の味方(最近高いけど)、煮ても焼いても美味しいあれ。

 まぁ、鶏卵だよね。鶏卵あげたしね。

 こうなったら当然、餌も食べない。


「どうすっかなぁ」


 調べたら、鶏卵の孵化には三十八度ほど必要らしい。

 ヒーターじゃ間に合わないな。ちょくちょくお湯を足すか。

 でもこれ、やってみたら、なかなか難しい。

 熱くなりすぎたら茹で卵だし、ほっといたら冷めちゃうし。

 ずっと抱いてるのと、どっちが楽かな?

 思ったけど、僕にも生活があるしね。

 落として割っちゃったら、それこそ水の泡。

 まぁ、子育てに根気は必要だよね。近道なしってことで。

 そんなこんなで、三週間。

 卵にヒビが入った。

 観察すると、中からコツコツ、健気に殻を叩く音がする。

 これは是非とも瞬間が見たいと、見守ること一昼夜。

 あるとき遂に殻が割れて――


「ありゃ」


 元気な地球外生命体が生まれた。

 いや会ったことはないけどさ。どう見てもそうだよ。

 形は歪なハート型で、全体的に黒みがかった緑色。

 タコでもない、イソギンチャクでもない。髪の毛めいた触手。

 鱗だか粘膜だか、脈絡もなく模様が散って、不規則に蠢く皮膚。

 おまけに、身体の中央に、やたらと大きな目玉が鎮座とくる。

 てんで出来損ないの内臓じゃないか。


「あぁ、そっか」


 ようやく合点がいった。


「水が悪かったのか」


 今、思い出した。

 そういえば、あそこ。UFOの目撃談が多かったっけ。

 僕が名水を探してたみたいに、彼等も良い水を探してたのかも。

 立ち入り禁止って書いてあったもんなぁ。

 アクアリウムって、余所の星でも流行ってるの?

 今頃、何処かの星で、僕みたいに試行錯誤してる誰かがいるのかな。

 まぁこうなったら、何星人だろうと、感想は同じだろうさ。


「やっぱり、変なところの水なんか使うもんじゃないね」
















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― 新着の感想 ―
猛暑の夏にぴったりな涼やかな作品でした。暑い日はエアコンの効いた部屋でアクアリウムを眺めているに限ります。 餌に含まれるDNAを取り込み(?)進化していく魚の不気味さはもちろん、観察する飼育主の冷静…
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