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相手の思うままに処刑された悪役令嬢は、やり直して悪役令息を想う  作者: あーちゃんぬ
二章 友人だった令嬢は、少し苦手だった
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22話 元親友との面会

 伯爵令嬢コミナの屋敷に行くと、通達を受けたのか額に汗を掻いている伯爵が満面の笑みで出迎えてくれた。


「本日は我が娘、コミナの誘いを受けて頂き、ありがとう存じます。カシラート公爵令嬢」

「いいえ伯爵。意見を求められたら、断る理由はございません」


 胸に手を添えながらミリカールアに伯爵は礼を言う。本当は断りたかったが、ループ前の罪悪感で今回断ればまた罪悪感を抱いてしまうと思ったため、誘いを受けたのだ。

 すると、伯爵は探るような目を向けてくる。


「それはそうと、カシラート公爵令嬢。貴女様はカシラート公爵によりますと、行方不明という扱いになっておられるようですが………。ですがこのように、カシラート公爵令嬢は我が屋敷に居られる。そこの辺りは、どうしたのですかな?」

「まぁ。世間では、そのように伝わっているのですね」

「? どういうことでしょう」


 ミリカールアはわざと驚いたように目を見開いた後、そう言った。伯爵の反応は予想通りで、ミリカールアは微笑みながら真実を話すような顔を作り、話す。だが、その心の中では冷静に状況を判断していた。


「実は、私は行方不明なのではなく、お父様の領地に流行病があるということで、お母様に命を出され暫し家を空けていたのですが………置き手紙も書いたのですけれど、お父様は発見なされていないのですね」


 流行病が我が領地内にあることは真実だ。そのため、伯爵も探るような目から納得しているように頷いていた。ミリカールアは社交に詳しい故に、誰が誰と関わりを持っていないか。それをも承知の上で嘘をついた。どこから取っても真実だと言い切れる嘘をつかなければ、いつか自滅をするからだ。伯爵はミリカールアの両親と関わりはない。ミリカールアは知っていた。だからこそ、この嘘をついたのだ。


「そうだったのですか……失言でした。申し訳ありません」

「いいえ。ご心配頂きありがとう存じます」


 ミリカールアは微笑みながら、冷静に考える。


(やっぱり、世間に私の家出が知られているみたいね。表向きは行方不明と告げられているみたいだけれど。………このまま隠し通すのも、難しいか)


 出来れば平民になり仕事を見付け自分らしく生きていきたいと思っていたが、深く考えれば父がミリカールアを貴族籍から抜ける書類にサインをしなければ平民にはなれないし、仕事と言っても服は令嬢らしいキンキラのドレスしかない。顔も化粧が施されており、正しい順序を踏まなければ雇い主は見付けられないだろう。


(でも、素直になって家へ帰るのも気が引ける……)


 何故なら、両親はさぞお怒りだろう。素直に家へ帰れば一年以上の軟禁、それか断食させられるかだ。一番最悪なのは、何も言葉を交わせずに政略的に婚約者を決められる始末。軟禁や断食は使用人の力を借りて何とかなるが、婚約者は決められたくない。元はと言えば、自分が感情のままに動き家出したのが問題なのだが、それでも何故かミリカールアは自分が悪いと思えなかった。


(お母様には色々な物を没収され、お父様とは何も話せずに淑女や紳士についてを語られ、社交界で婚約者を探すよう命令され、暇などなく社交界に出される。そんなの、疲労感で倒れるし家出したくもなるわ)


 言い訳など無用なことは分かっている。だが、思わずにはいられなかった。ミリカールアが家出して死に戻り前にミリカールアよりも早くに冤罪で断罪されたアルジュと再会出来て、そして初恋のアルジュの屋敷で過ごせるようになったのだ。こんなに素敵な家出は、他にないと思う。


「立ち話も何ですから、中へどうぞ。コミナ、案内して差し上げろ」

「もちろんです、お父様! どうぞミリカールア様。御案内します」


 興奮して伯爵に頷けば、ミリカールアを屋敷の応接室に案内してくれる。廊下や庭に繋がる回廊に行き来する使用人たちは皆が楽しく働いていて、うちの屋敷も健康に気を遣う者ばかりだったが、こんなふうに楽しそうで、自分の家族関係を心配してくれていたと、懐かしく感じた。


「素敵な応接室ですね。古本の良い匂いがします」

「ありがとうございます。両親に伝えておきますね。きっと喜びますもん」


 今回、コミナがミリカールアに新しく購入する皿はどのようなデザインの物が良いか、という意見を聞くために伯爵家に招き入れたのだ。そこに伯爵は必要ないと、判断したのだろう。


「どうぞ、お掛けください」

「ありがとうございます。コミナ様」


 コミナに促され、ミリカールアは御言葉に甘えて応接室の椅子に座る。コミナは反対側へ座り、使用人に何枚かの紙を渡されていた。コミナはその何枚かの紙を机に広げ、ミリカールアに見せた。


「こちらが、デザインの候補です。どれも素敵なので、悩んでしまって」

「確かに、とても素敵なお皿ですわね。でも、私は………この、鈴蘭(スズラン)の模様で、薄緑色のお皿が良いと思います」

「理由を聞いても宜しいですか?」


 ミリカールアは右から二枚目のデザイン紙を指差した。コミナが理由を問うたため、微笑んで理由を言った。ただ単に好みなだけだったのだが、その『好みだった』を具体的に言うと、こうだろう。ミリカールアは「私個人の意見なのですが……」と前置きして話した。


「鈴蘭とは、私の好きな花でもあるのです。その鈴蘭と薄緑色の色合いが合っていて、何よりもお皿の縁に二本の鈴蘭があるのが、とても素敵だなと思った、というのが理由です」

「確かに……そう言われると、共感を持てます」


 共感を持って貰えば話は早い。だが、これはミリカールアが選ぶべき物ではなくコミナが選択するべき物だ。ミリカールアはデザイン紙から向かい合わせに座るコミナに目を向けて、微笑んだ。コミナはそんなミリカールアの様子に不思議そうに首を傾げる。


「私は手伝いをしたまで。本当に決めるのは、コミナ様です」

「あ………は、はいっ」


 コミナはそこから真摯に紙一枚一枚に目を通し、時々二枚を手に取り見比べている。ミリカールアはその時間はただボゥっとしているのではなく、自分の家出を考えていた。もう世間に広まっていて、行方不明者ということで貴族社会では噂の的だろう。噂が落ち着いてから、屋敷に帰った方が良いかもしれない。


(それに、アルジュ様のお家……シアールシー公爵邸に入る時も周囲に気を付けなければいけなくなったわ。シアールシー公爵邸は貴族住宅街にある。だから、帰ろうとしても目撃情報が入ってしまう可能性が高いのよね)


 ミリカールアがどうするか不安に思っていると、コミナが顔を上げる。


「きっ、決まりました」

「まぁ。どれですか?」


 公爵令嬢ということもあり、コミナはまだミリカールアに対して緊張感があるようだ。そんなに緊張しなくとも良いのにとミリカールアが思うのは、コミナをまだ自分の親友だと思い違いをしているからだろうか。


「ミリカールア様がお選びくださった、こちらにしますわ」

「……ですが、私個人が選んだものであり………」

「悩んだ結果、ミリカールア様と同じ鈴蘭の皿が良いと思ったのです」


 胸に手を添え、目を伏せて大切そうに言うコミナ。そんな様子を見てミリカールアは彼女が本音を紡いでいると分かり、反論するのをやめた。そして、仕方ないというように笑う。


「分かりました。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。……ミリカールア様、お皿を一枚、差し上げます」

「……え? この、鈴蘭のお皿を?」


 鈴蘭模様の皿のデザインが描かれている紙に視線を移し、本当にそうかとコミナに問い掛ける。コミナはこくんと静かに頷き、「宜しいですか?」と少し圧のある笑みで尋ねた。願ってもないことだ。


「ありがとうございます。頂きますわ」

「はい。あの……もう一枚、出来たら差し上げるので、大切な方にあげてください」

「あ………ありがとう存じます。頂いてばかりで」

「良いんですって。公爵令嬢が子爵令嬢の私の相談に乗ってくれたんですから」


 それほど、身分は大切ということか。

 だが、ミリカールアが気になっているのは身分差の大切さではなかった。


「大切な方…………」

「あら。お相手がおりますの?」

「い、いいえ。ただ………親戚に、あげようかと」

「まぁ、そうでしたの」


 いつの間にかコミナは口元を押さえ、面白がるような令嬢にあるまじき表情をしてミリカールアを見ている。『相手』が居ると勘違いしてそんな表情になったのだろうが、ミリカールアの恋愛事情は、婚約者は居らずただの片想いという悲しい現状である。


(アルジュにあげる? ………喜んでくれたら良い、わね)


 頬が火照っているミリカールア。

 コミナはまだ、面白がるような悪戯をした後の子供のような表情をしていた。

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