19話 花瓶を売っている店にて
アルジュの歌声を暫く気付かれないよう聞いた後に、ミリカールアは付き添いである騎士二人と共に花瓶を売っている店を探した。
探している店はすぐに見付かり、入店する。その店の店名は『動物のしっぽの華』だ。場所は、城下街の広場を抜けた先にある通りだった。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ! ………お貴族様⁉︎」
そう言えば、ここに来るまでも目立っていた気がする。アルジュのように城下街の人々のような、素朴な服を着れば良かったのだが、残念ながらそんな服はミリカールアにはない。平民の服は着たいが、令嬢としてのプライドらしきものが、それを許さなかったのだ。
「………申し訳ありません。せめて、お忍び風で来れば良かったです、よね」
「いいえ、いいえ! 大丈夫ですよ!」
先程元気よく「いらっしゃいませ」と言ってくれた十代くらいの少女は、慌てて両手を振りながらも笑顔でそう答えてくれた。家庭教師に教わったのだが、この国の治安は他国より良いらしく、平民たちも素直に貴族を称えてくれているようだ。そう思っていない者も、一部居るだろうが。
「ありがとうございます。花瓶を買いに来たんだけど、ありますか?」
「ありますよ。………あの、宜しければお茶でも如何ですか………?」
恐る恐ると言うようにだが、少女がそう誘って来る。令嬢に憧れる年頃なのだろう。尤も、貴族令嬢は決して「キャッキャウフフ」しているだけじゃない。もっと大変だ、本当だ。
どうしたものかと悩んでいると、店の奥から慌てて出て来た店主らしい女性が、少女の頭に拳骨を落とす。華奢なのに意外とやる女性だ。
「コォラ! 一緒に茶なんて、不敬にも程があるでしょう!」
「いたぁ〜い。お姉ちゃん、酷いよ」
「相応しい罰よっ」
まさかの、姉だったか。母ではなく。
顔立ちも似ていて、二人とも愛嬌がある顔だ。身長も同じくらいだろうか。焦茶色の髪に、黒が混じった金色の瞳の姉と、同じ黒が混じった金色の瞳と漆黒の髪をした妹は、複雑な表情をしてミリカールアを見ていた。
「申し訳ございません。うちの妹が」
「…………ごめんなさい」
姉の方は素直に頭を下げ、妹の方は姉に強制的に頭を下げられている。その光景をミリカールアも複雑そうに見ながら、後ろに控える騎士に顔を向け、「どうしよう」と視線で訴えた。すると、騎士の一人が耳打ちをして来た。
「まずは、頭を上げさせるのが良いかと存じます。辛いでしょうから」
「…………そうですね。お二人とも」
「「はいっ」」
緊張した面持ちで二人は顔を上げる。簡単に顔を上げさせられた。
「私はミリカールア。突然ですが………お茶、しましょうか」
ポカンとした姉妹の姿に、ミリカールアは安心できる可愛らしい笑みを向けた。
〜〜*〜〜*〜〜
姉妹が用意してくれたガーデンテーブルに向かい合う形で、ミリカールアは姉妹とお茶をした。木で造られた椅子とその机は貴族ほどではないにしろ、とてもお洒落で清潔感のあるものだった。
「———それで、花瓶を買いに来たのです。………お二人とも?」
ミリカールアが用意された茶を飲みながら、これまでの経緯を話していると、ミリカールアは姉妹の様子が変なのに気付く。
「あっ、いえ。なんでもないです」
「お貴族様、流石だなぁって思いまして」
誤魔化す姉と、思ったことを言う妹。
「コラ!」
「いったぁい」
次は頬をつねり、離す。もう慣れたことなのか、妹は少し笑っていた。
「そう言えば、貴女たちのお名前を聞いてませんでしたね」
「あっ、紹介が遅れてごめんなさい! 私はユナ。妹は………」
「カリンです! 気軽に声掛けてください!」
またカリンの頭に拳骨を落とすユナを、ミリカールアはオロオロして見守った。




