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本屋は出会いの場

作者: イトー

 よく行っていた書店が少し前に閉店した。

 ロードサイドにあるチェーン店で立地は良く、品揃えも悪くなかったのだが。

 

 人生で常連の本屋の閉店を経験したのは4軒目。

 たまに行くショッピングモールにあるテナント店の撤退を含めればさらに2軒。

 最近は規模の大小に関わらず、書店が店をたたむ話をよく耳にする。


 読書以外の娯楽が増えたこと、配本のシステム、影響力の大きい通販サイトのせいだ。

 と言ったら身も蓋もない話なのだが、それ以外で1番の原因は紙の本の需要が減ったせいだろうか。

 商売敵は、モバイルの進歩とともに発展をとげた電子書籍。

 特に日本は電子コミックの伸びが大きいそうだ。


 身近で何人かに聞いてみると、大ファンの作品なら紙の本を買うが、それほどでもないなら電子で済ませる、また巻数が多いものはかさばるから電子で揃えてしまうという答えがあった。

 傾向とまで呼べないが、あくまで参考程度に。


 登場した初めのころは、

「紙じゃないんだから書籍じゃないだろ」

「携帯で本を読むなんて変な感じだな」

 などと馴染みの薄かった電子書籍も、今では漫画・活字を問わず、ごく当たり前になっている。

 フリックでページを進めて読書するスタイルは、今では珍しくもなんともない。


 一方、紙の本は以前何かで見かけたデータによれば、一定の需要は保っていてゆるやかに下がる横ばいだそうで。

 本の種類によってはまだまだシェアがあり、急激に消えるということは無いらしい。


 とはいえ。

 何年か前からの紙の高騰と、企業などでコストカットのためペーパーレス化が積極的に進む昨今。

 紙の値上がりに伴い、価格の上がった紙の本がいずれ減少の一途をたどるのではないかと、ただただ不安を覚える。


 電子書籍は印刷、在庫管理を必要とせず。

 データだけの存在なので、売る側も買う側もスペースを圧迫されることはない。


 数十巻と続く長期連載作品をスマホ1つで手元に置けるのだから、やはり紙に比べて利便性は圧倒的と言える。

 ただしバッテリー残量がある場合に限るが。


「紙とインクの香りが」とか「ページをめくる手触りが」とか。

 紙の本への思い入れはそう遠くない将来、

「年寄りのノスタルジックな感傷に過ぎない」

 とされてしまう日が来るかもしれない。



 前置きが長すぎた。

 データのソースも少し前ので曖昧だし。

 まあ、いろいろ気になることはあるけれど。


 個人レベルに話を戻すと、日常生活圏内に本屋がないのは実に困る。

 出会いの機会が減ってしまうから。


 出会いといっても本を口実に声をかけるナンパ紛いの行為ではなく、相手は本そのもの。

 本屋は本との出会いの場だ。


「出会いだなんてロマンチストか。欲しい本があれば、本屋じゃなくても通販サイトで頼めるだろ」


 そういったツッコミはごもっとも。

 目的の本を買うだけなら通販でこと足りる。

 よほどレアな限定本でもなければ、頼んだ翌日か翌々日にはポストに入っているはずだ。

 迅速丁寧な運送業者には頭が下がる。


 しかしこの「本との出会い」とは、単に欲しかった本を買うことではない。


 見えない(えん)に引き合わされたかのような、不意の出会い。

 面白そうな本との奇遇(きぐう)なる遭遇を指す。


 本好きなら1度はこんな経験はないだろうか。


 本屋をぶらついていると、たまたま1冊のタイトルが目に止まり、何の気なしに手を伸ばした。

 どうやら馴染みのないジャンルのようで、作者も聞いたことがない。


 が。

 インパクトにあふれた表紙のデザイン。

 興味をそそられる裏表紙のあらすじ。

 開くと、書き出しの1文から引き付けられ、最初の数ページで物語の世界に没入してしまう。


 鮮烈なファーストインプレッション!

 この続き、読まずにはいられない!

 と本来買う予定はなかったのに、突き動かされるようにレジに持っていってしまった──。



 こうした奇縁(きえん)と呼べそうな出会いから、未知だったジャンルと新たな作家が開拓されていく。

 読む本の選択肢、チョイスの幅が広がるのだ。


 中華後宮物の美麗な表紙にため息を漏らし。

 時代物の緊迫の剣戟(けんげき)描写に手に汗握り。

 陰うつなホラーに背すじと肝を冷やされ。

 ミステリーで作家の巧みな筆力にうならされる。


 それらの中から、読書観を一変させてくれるような運命の1冊との邂逅(かいこう)が待っているかもしれない。


 既刊を読みつくし、新刊を待つのがライフワークになる作家のシリーズを見つけたり。

 あるいは読む側ではなく、自らが書く側になってみたいと思ったり。


 人生に影響を与えかねない書籍と巡り合う。

 だから出会いってものは素晴らしい。


 私が1番影響を受けたのは京極夏彦だろう。

 詳細を書くときりがないので割愛するが。

 なんかレンガ本とかネタにはするのに実際は1度も読んでない奴とか結構いるよな(唐突なブチギレ)


 まあ、そんな豊かで実りある読書生活をもたらしてくれるのが本屋である。


 通販サイトでも試し読みや表紙の閲覧は可能だ。

 が、オススメ欄にあがってこない、まったく見ず知らずの本までチェックすることはきわめて(まれ)だろう。


 本屋は、偶然ではあるにしても、その見ず知らずの本を直接手に取る機会をもたらしてくれる貴重な場所だ。


 そこが次々に閉店していく。

 ということはつまり、そういうきっかけが失われていくということ。

 それはとてもとても悲しい損失だ。


 と嘆いたところで、時代の大きな流れに逆らうことはできない。

 音楽のサブスク配信、動画やゲームといったコンテンツのダウンロード販売が進むように。

 本もまた(しか)り、今後は電子での購入者が増えていくのだろう。


 それ自体にケチはつけない。

 そこに「電子などけしからん!」と文句や難癖を言い出したら、時代についていけない、こり固まった老害になってしまうから。


 でも、なるべく本屋には長く続いてほしい。


 だからせめて、できればでいいので。

 ファンの作家の新作が出るときだけでも、

「通販サイトでポチればいいや」

 と言わず、近場の本屋に予約をして行ってほしいと願っている。


 目の覚めるような、自分も知らない心の扉を開けてくれるような。

 そんな劇的な本との素敵な出会いをぜひ、本屋の本棚の前で、多くの人に経験してもらいたい。


 運命的な本との出会いは、人生においてホントの出会いだ。







 と、こんなふうに話を結ぼうと思っていたのだけれどね、途中で気付いてしまったんだ。


「本屋に限らず、図書館や古本屋、古本市イベントでも本との出会いはあるよなあ。そっちのほうが古い名作や珍本、思わぬ稀覯本(きこうぼん)の発見は多いし」

 と。


 でも今回は本屋を応援する意味で書いたエッセイだから、そこには目をつぶることにした。


 まあとにかく、本屋に幸あれ。

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