50話 覚悟
シャルム帝国 レイの故郷
ゲーグナ ファインの故郷
シャルム帝国のとある病院
ユウ「……っ」
ユウが遂に目を覚ます
アベル「!」
「ユウ!、ユウ!」
アベルはユウの名前を必死に叫んでいる
ユウ「うぅ……アベル…うるさい…」
アベル「…良かった…本当に良かった」
アベルは安堵の涙を流しながら、ユウの手を握るのだった
そしてアベルは、これまで起こったことをユウに話す
ユウ「え…どういう…」
当然だが、ユウは混乱している様子だ
アベル「ほら…外から声が聞こえるだろ?」
「魔法使いは我々の敵だーー!!」
「そうだー!!」
「奴らは我々の大切な物を奪った!!、奴らにその報いを受けさせるのだ!!」
「そうだー!!」
アベル「今回の出来事で…魔法使いと人間の溝はさらに大きくなった」
「もしかしたら…人間と魔法使いの内戦になるかもしれない」
ユウ「そんな…」
アベル「犠牲者が多すぎるんだ…」
「人間達だけでも…最低で7万人が亡くなってる」
ユウ「!」
アベル「行方不明者を除外してこれだ…」
「時間が経てば…この数もどんどん増えていく」
「もうこれは…どうしようもないかもしれない」
アベルは苦しそうに、絞り出すように呟く
ユウ「……」
(あれ?…)
「アベル…その腕…」
アベル「え…あぁ…そうだよ」
アベルは魔法戦で腕を失っており、完治するのはもっと先のはずだったが、
「レイに治してもらった」
ユウ「そっか!、良かった!、さすがレイ君……レイ君?」
「レイ君がどうやって腕を治したの?」
アベル「…そうだな」
「それも話さないとな」
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その頃、ゲーグナでは
レイ「久しぶり、ファイン」
ファイン「レイ…」
マナ「あれ?、お兄さんだぁれ?」
レイ「初めまして、マナちゃん」
「俺はレイ・ブルーメ」
「ファインの友達です」
マナ「え!?、ファインお兄ちゃんの友達!?」
「いいなー、お兄ちゃんばっかり!」
「私も友達ほしいのに!」
ファイン「ちょ!、マナ落ち着け!」
「僕を殴るなよ!」
マナ「うるさい!、私に内緒で友達つくってるのが悪いんだもん!」
ファインはなんとか妹のマナを宥め、レイと2人きりで話せるようになった
ファイン「ごめんな、うちの妹が」
レイ「大丈夫だよ」
「それより、妹さんが元気そうで本当によかった」
ファイン「……」
ファイン「にしても…案外ここに来るのが早かったな」
レイ「…そりゃそうさ」
「だって今の君は、罪人だから」
ファイン「…確かにな」
レイ「…」
ファイン「……僕の話、聞いてくれるか?」
レイ「あぁ、もちろん」
ファイン「僕はゲーグナの田舎町で、普通の人間として生まれた」
「両親が人間だから、当たり前の事ではあるけどね」
レイ「…」
ファイン「あの頃の暮らしは、とても幸せだった」
「特別裕福って訳じゃなかったけど、僕が笑ったら笑ってくれる、僕が泣いたら寄り添ってくれる、そんな両親がいたから」
「それだけで僕は満たされてた」
レイ「…いいご両親だね」
ファイン「あぁ」
ファイン「そして僕が8歳の時、妹のマナが生まれた」
「両親の幸せそうな顔、マナの純粋無垢な姿」
「僕はそれを見て、これからどんな生活が待っているのか、期待に胸が踊った」
「でも…」
「次に目を覚ました時には、僕は牢屋の中だった」
「まず気がついたのは、同じ牢に僕以外の人がいたこと」
「その人に話しかけたけど、俯くばかりで会話ができなかった」
「恐怖と不安でどうにかなりそうだったから、僕はひたすら叫んだ」
「母さん、父さん、マナ、どこにいるんだって」
「ずっとそんな事をしていたら…奴が来た」
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ナハト「やぁ、初めまして」
幼少期のファイン「…だれ?」
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ファイン「そこからは早かった」
「奴は僕を別の部屋に移動させて、僕に対して魔法を使った」
レイ「それが…」
ファイン「そう、人間を魔法使いにする魔法」
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あまりの苦痛に意識を失ったファインだったが、ナハトの声で目を覚ます
ファイン「うぅ…」
ナハト「遂に、遂にやった!」
「私はやりとげた!」
「人を魔法使いに進化させたんだ!」
ナハトはそう叫びながら、高らかに笑っている
しばらく笑い続けた後、ナハトは自分を落ち着かせるように深呼吸をしていた
「落ち着け、まだだ」
「この個体が特別だった可能性がある」
「別の個体でも検証をせねば」
ファイン「!」
その言葉に、ファインは寒気がした
「おい!」
ナハト「?」
ファイン「僕の家族に手を出したら、僕はここで死ぬ!」
ナハト「ふっ笑」
ファイン「なめるな!、僕は本気だ!」
バチッ!っと、ファインの手に電撃が走る
ナハト(もう魔法が使えるのか!)
(これは興味深い)
ファイン(こいつはきっと、僕に死なれたら困るはずだ)
ファインはナハトの先程の喜びようから、自身に価値を感じていると考え、自らを人質にした
ナハト「はは笑」
「なら、ついて来なさい」
ファイン「…」
ファインはナハトについて行く
そこには、両親の死体があった
ファインはただ、泣き叫ぶ事しかできなかった
しかしファインは、ここで諦めなかった
ファイン「…僕の妹はどうした?」
ナハト「安心しなさい、まだ生きている」
ファイン「なら…最後の忠告だ」
「僕の妹に手を出すな」
ナハト「はは笑、いい目だ」
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ファイン「そして僕は、奴の研究に協力する見返りに、妹を守る道を選んだ」
「そこから先はまぁ、だいたい分かるだろ?」
レイ「…そうだな」
ファイン「まぁ結局さ、何が言いたいかっていうと」
「ありがとう、レイ」
「マナを助けてくれて」
レイ「…」
ファイン「レイのおかけで僕はまた、マナと一緒に過ごすことができた」
「もう思い残すことはない」
レイ「ファイン…」
ファイン「…じゃあ、マナに別れの挨拶をしてくる」
レイ「ファイン!」
ファイン「…」
レイ「その事で、話があるんだ」
ファイン「は?……俺を捕まえない?」
「どういうことだ?」
レイ「そのままの意味だよ、俺は君を捕まえずに見逃す」
ファイン「…」
レイ「考えたんだ、どうすればこれ以上誰も悲しませず、事を収められるのか」
「ファイン、君はもうゲーグナで死んだことにする」
「そうすれば、ナハト達テロリストは全員死んだということで終わりにできる」
「もちろん、ファインは今後一切シャルムには入れないけど、ゲーグナで暮らすならそこまで問題にならない」
ファイン「…本気なのか?」
レイ「もちろん」
ファイン「…死者がいなかったとはいえ、戦いの場になったゲーグナがこの事件を無視するはずがない」
「犯人達の似顔絵や名前はすぐに新聞に載る」
「僕も例外じゃない」
「ゲーグナで生きる事も、いずれ難しくなる」
レイ「…」
ファイン「それに、シャルムの人達はそれで納得するのか?」
「テロリストは全員死亡」
「ならもう安心だ、って本気で世論がそうなると思ってるのか?」
レイ「…」
ファイン「ただでさえ今は、魔法使いへの信頼感が地に落ちているだろうに…」
レイ「なら……どうしろって言うんだよ」
ファイン「……」
レイ「どうしたらいいんだよ!、なぁ!」
ファイン「レイ…」
レイ「分かってるさ…自分が言ってる事が理想論だって…」
「でも……このままじゃ…ファインの極刑は免れない」
「そんなの…嫌だよ」
ファイン「…レイ、さっき言ってたよな?、誰も悲しませずにって」
レイ「…言ったよ」
ファイン「こうなってしまった以上、それは無理だ」
「誰かが罪を背負わなきゃいけない」
レイ「だから俺が!」
ファイン「1人じゃ無理だ!」
レイ「!?」
ファイン「レイだけじゃ背負いきれない」
「だから僕も、一緒に背負う」
レイ「それじゃあ…ファインが…」
ファイン「仕方ないさ」
「理由はどうあれ、僕は人の命を奪った」
レイ「そんなの…俺だって同じだ」
「俺もナハトを殺した」
ファイン「でもそれは、皆を守るためだろ?」
レイ「ファインだって…妹を守るためじゃないか」
ファイン「……それでも、僕は許されない」
レイ「どうして!?」
ファイン「それが世界だから」
レイ「……」
ファイン「それでも、そんな世界でも、家族や友人には幸せになってほしいんだ」
レイ「…」
ファイン「でも…僕1人では無理だ」
「だから頼みがあるんだ、レイ」
レイ「…何?」
ファイン「僕と一緒に、罪を背負ってほしい」
「その生き方は苦しいぞ」
レイ「…分かった」
ファイン「ありがとう」
「なら・・・」
ファインはレイに、1つ頼みごとをするのだった
ファイン「マナー」
マナ「どうしたの?」
家に帰って来たファインは、妹のマナと話をする
ファイン「僕、ちょっと用事があってしばらくシャルムに行かないといけなくなった」
マナ「え!?」
「折角また一緒になれたのに…またどっか行っちゃうの?」
ファイン「ごめんな」
マナ「はぁー…本当、手のかかるお兄ちゃんだなぁ」
ファイン「えぇ……そんな言葉どこで…」
マナ「いつ帰って来るの?」
ファイン「え…」
マナ「だ・か・ら!、いつ帰って来るの?」
ファイン「す…すぐだよ?」
マナ「それじゃ分かんない!、いつ?!」
ファイン「そうだな…一週間後位かな」
マナ「分かった、じゃあはい!」
マナは小指を前に出す
ファイン「…」
マナ「はい!、指切り!」
ファインはマナの小さな指に、そっと自分の指を絡める
マナ「約束ね!」
ファイン「あぁ…約束だ」
ファイン「レイ」
レイ「どうしたの?」
ファイン「ありがとう、僕の友達になってくれて」
レイ「…こちらこそ」
「ファインと友達になれて、本当によかった」
2人の間には、眩しい程の笑顔があった
1週間後
ファインは処刑された




