49話 再会
ナハト・シュレッケン 現在17歳
魔法学校に入学したナハトは、同級生達と平和な日々を過ごしていた
朝、ナハトは教室でひとり本を読んでいる
すると、
魔法使い1「おはよー!」
1人の魔法使いが、大声でナハトに話しかける
ナハト「おはよう、朝から元気だな」
ナハトはその声に驚きもせず、淡々と言葉を返す
魔法使い1「だって今日魔法の試験だぞ?」
「元気出さなきゃやってらんないぜ~」
ナハト「確かにそうだな」
ナハトは微笑みながら返答する
魔法使い1「さすが天才、余裕そうだぜ」
「羨ましいー!」
ナハト「はいはい、ありがと」
魔法使い2「よっ!」
魔法使い3「おはー」
魔法使い4「おはよう」
そこへ続々と同級生達が登校してくる
魔法使い4「ナハト君…改めて昨日はありがとう」
ナハト「こちらこそ」
「今日の試験、頑張ろうな」
魔法使い4「うん!、がんばろ!」
魔法使い1「なになに~、何の話?笑」
「もしかして~、デートでもした?笑」
魔法使い4「えっ!?そんなんじゃないよ!?」
彼女は頬を赤らめてている
ナハト「そうそう、昨日はただ今日の試験の為に魔法の練習をしてただけさ」
魔法使い1「へぇ~、まぁ、お前にとってはそうかもな笑」
「でも~」
ナハト「はい、そこまで」
「あんまり彼女を困らせるなよ?」
魔法使い1「……性格までいいんだよなー!!」
「羨ましいー!!」
ナハトは友人に囲まれ、幸せな学校生活を送っている
少なくとも、周囲はそう考えていた
ある日
魔法使い1「ナハトー、演劇って興味ある?」
ナハト「演劇?」
魔法使い1「そう、よかったら明日の休みに見に行かない?」
ナハト「珍しいな」
「別にいいけど、こんな直前に席取れるの?」
魔法使い1「そこは大丈夫、もう確保してるから」
ナハト「そうなのか」
「なら、行かせてもらおうかな」
魔法使い1「よし、決まりだな」
ナハト「席代いくら?」
魔法使い1「払わなくていいぞ、このチケットは貰い物だ」
ナハトは魔法使い1と演劇を見に行くことになった
翌日
2人は会場に向かい歩いている
ナハト「今日の演劇ってどんな話なんだ?」
魔法使い1「海に住んでいた人魚の姫が、人間の王子に恋する話らしい」
ナハト「へぇ、斬新だな」
魔法使い1「そう、だから結構人気でなかなか席が取れないらしい」
ナハト「なら俺達は幸運だな」
魔法使い1「そういうこと」
「いやそんなことより!、もっと大事な事があるんだ!」
ナハト「?」
魔法使い1「主演の女優が、めっちゃ可愛いらしい!」
「俺は今日、それを目当てにここに来た!」
ナハト「…相変わらずだな」
2人は最前席に座り、開演を待っている
魔法使い1「楽しみだな~、どれだけ可愛いんだろう~」
ナハト「頼むから劇中は騒ぐなよ」
そして、劇が始まった
舞台の中心に女性が座っている、下半身に尾びれの衣装を着ている
彼女が主演だろう
観客を魅了する美声、彫刻のように整った顔
この場にいる全員が、彼女の輝きに目を奪われている
しかし、ナハトの反応は少し違っていた
ナハト(…似ている)
舞台で輝く彼女に、ナハトはある人物の面影を感じていた
その時、
ナハトと彼女の目が合った
途端、彼女の顔色がわずかに変化したのだった
終演後
魔法使い1「いやー!、可愛いかったなー!」
「しかも歌も演技も上手いし、完璧じゃーん!」
ナハト「はしゃぎすぎだぞ」
魔法使い1「あぁ、ごめん」
「でも気分が上がっちゃってさ!」
ナハト「はいはい、感想は後でゆっくりな」
2人が会場から出ようとすると、
女性「っ…」
ナハト「おっと」
ナハトが1人の女性とぶつかった
女性「…ごめんなさい」
女性はそう言うと、走ってどこかへ行ってしまった
ナハト「……」
魔法使い1「どうした?」
ナハト「いや…なんでもない」
ナハトは家に帰り、上着を脱ぐ
そして上着のポケットから、1通の手紙を取り出す
先程の女性が、ナハトとぶつかった時にいれた物だ
そこには、
"2日後の夕日が沈む頃、ここでお待ちしています"
という文章と、どこかの住所が記されていた
2日後、ナハトは住所が示す場所へ向かった
そこは街の路地にある、何の変哲もない民家のようだった
ナハト「すいませーん」
ナハトが民家の扉を開ける
「!!」
「…来てくれたんだ」
ナハト「あぁ、もちろん」
「久しぶり、ルミエール」
ルミエール「え……本当にナハト?」
ナハト「そうだけど」
「何か変?」
ナハトは半笑いで質問する
ルミエール「いや……昔と雰囲気が変わりすぎてて…」
ナハト「そりゃあ、あれから9年も経ってるし」
「というかそれを言うなら、そっちもかなり変わってるぞ?」
「すごく綺麗になってる」
ルミエール「……私を蹴ったこと、覚えてる?」
ナハト「え?、僕そんなことした?」
「平手打ちなら記憶にあるけど」
ルミエール「合ってる…なら本当に…」
ナハト「うわ、試したな」
「性格悪いぞ」
ルミエール「……ごめん」
「でも流石に…変わりすぎてて…」
ナハト「まぁまぁ」
「立ち話も何だし、座ろうよ」
ルミエール「……」
この場所はルミエールの親戚のお店らしい
昼間は、紅茶やケーキをだしているそうだ
本来今は閉まっている時間だが、2人は特別に使わせてもらっている
テーブルに向かい合いながら、2人は言葉を交わしている
ナハト「正直、もう会えないと思ってたよ」
ルミエール「…ごめんなさい」
ナハト「あー違う違う、謝ってほしいわけじゃないよ」
「会えないと思ってたから、会えて嬉しいよって事」
ルミエール「……」
「ナハト…私の手紙って届いてた?」
ナハト「いいや、手紙をだしてくれてたの?」
ルミエール「うん…」
ナハト「そうか」
「それなら、謝るのは僕の方だな」
ルミエールの両親は誘拐事件に酷く動揺し、一家全員で町から出ていった
ナハトの家族も同時期に、町から出ていった
ナハトが逮捕された事で周囲から犯罪者の両親として扱われたからである
ナハト一家が引っ越したことで、ルミエールの手紙は届かなくなった
ルミエールの知っている場所に、もうナハト一家は住んでいないのだから
ルミエール「……かなりすれ違ってるね」
ナハト「だな」
「まぁでも、過ぎたことを考えてもしょうがない」
「大事なのは今だよ」
ルミエール「……そうだね」
ナハト「それよりさ、気になってる事があるんだけど」
ルミエール「…なに?」
ナハト「なんで俳優になったの?」
ルミエール「あぁ…そうだよね」
「理由は色々あるんだけど…」
「まずはお金を稼ぎたかったからかな」
「ママが病気になっちゃって…寝たきりなんだ」
「だからお金が欲しくてさ」
「力仕事じゃ男の人に適わないし、細かい作業も苦手だけど、演技には自信があったから」
「それに劇団は住み込みで働けて、色々都合がよかったんだ」
ナハト「そうか、大変だったな」
ルミエール「まぁ……そんなことないとは、言えないかな」
ルミエールは自虐的に笑う
「でも今は、ある程度お金にも生活にも余裕があるし、この道を選んで後悔はしてない」
「ナハトにも会えたしね」
ナハト「そんなに僕に会いたかったの?」
ナハトは冗談めかしで笑う
ルミエール「……当たり前でしょ」
「ナハトに会うためっていうのも、俳優になった理由の1つだよ」
「劇団は国内のいろんな所に行けるから、いろんな場所でナハトを探せる」
「それに、私が有名になって新聞にでも載れば、そっちから会いに来てくれかなぁ、なんて?」
ナハト「なるほど、本当に色々都合が良かったんだな」
ルミエール「…そういうこと」
ルミエール「というかナハトは…今何してるの?」
ナハト「そんなの決まってるだろ?、魔法軍に入るために魔法学校に行ってるよ」
この時代、魔法使いに職業選択の自由はなかった
魔法使いは全員、魔法軍か魔戦士になるしかなかった
ルミエール「そうだよね…」
「その…学校は楽しい?」
ナハト「まぁ、魔法は嫌いじゃないからな」
「悪くないよ」
ルミエール「そっか…なら良かった」
ルミエール「ねぇ…」
ナハト「なに?」
ルミエール「私も、これまであったこと話すからさ…」
「ナハトも…教えてくれない?、今までのこと…」
ナハト「もちろん、話そうよ」
「むしろ久しぶりに会ったんなら、それが醍醐味でしょ」
ルミエール「……ありがとう」
ナハト「引っ越し先では上手くやれてたの?」
ルミエール「…当然、だって私だよ?」
ナハト「なら駄目そうじゃん」
ルミエール「いやいや、上手くやってたから」
「すぐに友達も出来たし、男子にもいっぱい告白されたりしてたから」
ナハト「へぇー、楽しそうじゃん」
「それが本当ならね?」
ルミエール「嘘じゃないよ!、ナハトなら分かるでしょ?!」
「私が嘘付いてるかどうかくらい!」
ナハト「そうだね、楽しかったなら良かったよ」
ナハトは楽しそうに答える
ルミエール「……うん」
ルミエール「ナハトは…どんな感じだったの?」
ナハト「そうだな、俺も結構楽しかったよ」
「転校した学校でいい先生に出会えたんだ」
ルミエール「……そうなの?」
ナハト「あぁ」
「そこでも俺は、相変わらず1人だったんだけど…」
「ナハトは、皆といるのは嫌いか?」
「って、話しかけてくれてさ」
「そこから段々その先生と話していく内に、意外と他人と一緒にいるのも悪くないなって思えたんだ」
「そのおかげで、俺は今も生きていられる」
ルミエール「そっか……良い先生だね」
ナハト「あぁ、僕の恩人だよ」
ルミエール「……」
ルミエール「ならもう……人の事は嫌いじゃない?」
ナハト「…僕が人間を嫌いだった事はないよ」
「あの頃は嫌いというよりも、対等にみれないって感じだったんだ」
ルミエール「…」
ナハト「でも今は違う」
「僕は人間を、共に生きていくべき仲間だと思ってるよ」
ルミエール「……そっか、ありがとう」
そこから2人は数時間話し続けた
ナハト「もう夜も遅いし、そろそろ帰ろっか」
ルミエール「…そうだね」
ナハト「心配だから宿まで送るよ」
ルミエール「……ありがとう」
月明かりに照らされる夜道を、2人きりで歩く
ルミエール「今日は本当にありがとう、話せて嬉しかった」
ナハト「こちらこそ、凄く楽しかったよ」
ルミエール「……あのさ、また近い内に会えたりしないかな?」
ナハト「え?」
ルミエール「ごめんね」
「でも私がここにいられるのは、劇団がこの町にいる1週間の間だけなんだ」
「その間に、出来るだけナハトと一緒にいたい」
ナハト「…なんでそこまで」
ルミエール「…ナハトが好きだから」
ナハト「!?」
ルミエール「だから、一緒にいたい」
ナハト「……」
ルミエール「返事はいつでもいい、いつまでも待ってるから」
「じゃっ!、私はここで!」
「送ってくれてありがとー!」
ルミエールは宿に向かって走っていった
ナハト「はぁ…」
ナハトは溜め息をついた後、家に向かって歩きだした
ナハト「……まぁ、いいきっかけか」
ナハトの人間への感情は、あの頃から何も変わっていない
しかし、それが社会では受け入れられない価値観であるため、これまでそれを隠して生きてきた
だがナハト自身、その生き方に限界を感じていた
感情とは、抑えるほど強くなっていくもの
日を追う毎に強くなるそれは、いつか理性を乗り越え爆発する
その現実から目を背けるために、ナハトは1つの決心をした
ルミエールの告白から2日後、ナハトは再びあの場所へ赴く
ルミエール「お、来た来た」
「ナハトって紅茶飲める?、飲めるなら淹れようと思うんだけど」
ナハト「…」
ルミエール「どうしたの?、黙っちゃって」
ナハト「昨日の返事、伝えようと思って」
ルミエール「え…うん」
ナハト「僕で良ければ、お願いします」
ルミエール「!!」
「本当に?!」
「やったー!、ありがとう!」
ナハト「おっと!」
ルミエールがナハトの胸に飛び込んだ
ルミエール「絶対後悔させないから」
ナハト「…あぁ、僕も頑張るよ」
2人は紅茶を飲みながら向かい合う
ルミエール「ナハトの好きな食べ物って何なの?」
ナハト「そうだなぁ、ケーキとか甘いものが好きかな」
ルミエール「いいね、私も好き」
「蜂蜜系と果物系ならどっちが好き?」
ナハト「悩むなぁ、両方捨てがたい」
「けど、果物系かな」
「歳を重ねて果物の良さが分かってきた」
ルミエール「分かるよ、ただ甘いだけじゃない奥深さが果物にはあるよね」
ナハト「だね」
「でもそれだと、蜂蜜は薄っぺらいって事にならない?」
ルミエール「いやいや、そうじゃないよ」
「蜂蜜は甘さに特化した一点集中型」
「あの甘さの暴力には、誰も勝てないの」
ナハト「それは…確かに?」
ナハト「というか、僕達ってあんまりお互いの個人的な事知らないよね?」
ルミエール「うーん…まぁ、そう言えなくもないね」
ナハト「それなのに、僕の事好きなの?」
ルミエール「…言ってくれるねぇ」
ナハト「あ…いや…そんなつもりじゃ…」
ルミエール「えぇえぇ、そうですよ」
「どうせ私はナハトの事全然分かってませんよー」
ナハト「…ごめんね?」
ルミエール「……私もごめん」
そんなこんなで、2人は仲を深めていった
ルミエール「ごめんね…今日も送ってもらって」
「次からは明るい時間に会えるようにする」
ナハト「無理しなくてもいいんだよ」
「それに、こういう時間も悪くない」
ルミエール「…ありがとう」
ルミエール「じゃあまたね!」
ナハト「あぁ、また」
ルミエールは宿に入っていく
それを見届け、ナハトは帰路に着くのだった
ナハト(まぁ……徐々に慣れるだろう)
4日後、ルミエールが町を立つ日
ナハトはルミエールの見送りに来ていた
ルミエール「手紙書くね」
ナハト「あぁ、待ってる」
ルミエール「浮気したら怒るから」
ナハト「しないよ、大丈夫」
ルミエール「えっと…後は…えっとぉ…」
ナハト「そんなに無理して喋ろうとしなくても笑」
ルミエール「だってさぁ……嫌だから」
「また離れるの寂しいよ…」
ナハト「僕も」
「でも大丈夫、僕はもう何処にも行かないから」
ルミエール「…」
ナハト「?!」
ルミエールが、ナハトの唇をそっと奪う
触れたのは一瞬
しかしルミエールにとって、それは永遠にも感じられる幸福であった
ルミエール「じゃあまたね!」
ルミエールは馬車に乗り、劇団と共に次の町へ向かっていった
一方、ナハトは呆然と立ち尽くしている
ナハト「……」
ナハトは無言のまま、唇を手で拭う
ナハト(汚いな…)
2週間後、ルミエールから手紙が届いた
ナハト「手紙なんて久しぶりだな」
ナハトは封を開け、手紙を読み進んでいくのだった
「お久しぶりです
離れてから2週間しか経っていないけど、そう言いたくなるくらい思いが溢れてます
ナハトはどうですか?
もし、少しでも会いたいって、寂しいって思っていてくれたら嬉しいな
なんてね
この町は綿が有名らしいと聞いて、手拭いを買いました
凄く手触りが良くて、重宝しています
ナハトにもお土産で買っていくね
ナハトは、普段何をして過ごしていますか?
何を考えて生きていますか?
私はナハトの事なら、何でも知りたいです
だから、教えてくれたら嬉しいな
初めての手紙だし、重いって思われたくないからこの辺でおわりにします
本当にありがとう
あなたがいてくれるだけで、私は幸せです
体に気をつけて、無理しすぎないでね
」
ナハト「………」
「返事でも書くか」
「お久しぶりです、ナハトです
忙しい中、手紙を書いてくれてありがとう
凄く嬉しかったよ
僕にとって、ルミエールは大事な存在です
だからちゃんと、君と離れているのは寂しいよ
心配しないでね
僕は、ルミエール程器用じゃない
だから、自分の事を上手く伝えられるか分かりません
それでも、君が知りたいって言ってくれなら、伝えようと思い
ナハト「いや……やめよう」
ナハトはもう一度手紙を書き直す
「お久しぶりです、ナハトです
忙しい中、手紙を書いてくれてありがとう
凄く嬉しかったよ
僕にとって、ルミエールは大事な存在です
だからちゃんと、君と離れているのは寂しいよ
心配しないでね
また会える日を楽しみにしています
その時はまた、たくさん話そう
」
2人はその後も月に2 , 3通の頻度で、手紙を送りあうのだった
そして月日は流れ、半年後
年が明け、ナハトは18歳になっていた
その日、ナハトはとある人物に声をかけられた
モルテ「ナハト」
ナハト「モルテ先生、どうしました?」
魔法学校の教師であるモルテ
彼は優秀な命の魔法使いであり、ナハトの恩師でもある
モルテ「急ですまないが、私の仕事を手伝ってほしい」
「頼めるか?」
ナハト「もちろんです、僕で良ければ」
モルテは、ナハトに自分の仕事を手伝ってほしいとお願いをした
その内容は、病人の治療であった
シャルム帝国現国王、オール
彼は少し前から、病に侵されている
国中の医者に治療を頼むも、容態は悪化の一途を辿っている
そこで、藁にも縋るように魔法使いを頼ってきたのだ
ナハトは助手として、モルテに同行する
2人は城に招かれ、国王の治療を開始した
オール国王「どうだ?、治りそうか?」
オール国王はベッドで横になり、弱々しい声をだす
国王の症状は、吐血するほどの咳、及び呼吸困難である
モルテ「全力を尽くします」
【命】「リブ」
モルテが命の魔法で治療を試みる
しかし、効果は現れない
この時代の命の魔法は怪我はある程度治せても、病気の治療は難しかった
モルテ(やはり…私では無理か)
「ナハト…お主ならできるか?」
ナハト「はい、もちろんです」
「失礼いたします」
ナハトはそう言うと、国王の手に触れる
(…体内で何かが異常に増殖している)
(これらを全て排除すれば)
【命】「リブ」
オール国王の身体が光に包まれた
オール国王「!!」
ナハト「ご気分はいかがですか?」
オール国王「体が軽い、咳も止まった、呼吸も楽に…」
ナハト「病気は完治いたしました」
「もう心配ありません」
オール国王「本当か?!」
ナハト「素晴らしい!、これが魔法か!」
モルテ「助かったよ、流石じゃな」
ナハト「いえ」
オール国王「お主、名は何という」
ナハト「ナハト・シュレッケンと申します」
オール国王「ナハト、お礼にお主の望むものを何でも与えよう」
「何が望みだ?」
ナハト「…ならば、魔法使いの地位を向上させて頂きたい」
モルテ「…」
オール国王「ほう…」
ナハト「魔法使いは数千年、この国の発展に身を捧げてきました」
「しかし、我々の権利は未だ制限されたままです」
「奴隷制は廃止になりましたが、未だに参政権等の一部の権利は制限されています」
「私はこの現状に、納得がいかないのです」
オール国王「なるほど……良いだろう」
ナハト「!」
オール国王「要検討の上、魔法使いの権利拡大を目的とする法律を作ると約束しよう」
城からの帰り道
モルテ「ナハト、今日は助かった」
「ありがとう」
ナハト「いえそんな、感謝したいのはむしろ僕の方です」
「モルテ先生のおかげで、国王と直接話す事ができました」
「ありがとうございます」
モルテ「……」
「ナハトは強い子じゃな」
ナハト「?」
モルテ「魔法使いとしての力は勿論じゃが、何より心が強い」
ナハト「…」
モルテ「自分と相容れない存在に対しても、理性的に接する事ができる」
ナハト「…」
モルテ「ナハトよ」
「お主、人間が嫌いじゃろ?」
ナハト「!?」
モルテ「実はな、私もなんじゃ」
ナハト「……先生も?」
モルテ「あぁ、だからお主の生き苦しさは良く分かる」
ナハト「……」
モルテ「大丈夫じゃ、お主は1人じゃない」
ナハト「はい…ありがとうございます」
モルテ「では、気をつけてな」
ナハト「…先生」
モルテ「?」
ナハト「先生のお話、いつか聞かせてもらえませんか?」
「先生が今までどんな風に生きてきたのか、知りたいです」
モルテ「あぁ、私で良ければいつでも」
ナハト「はい!、ありがとうございます!」
「失礼します!」
後日、国王が死去した
死因は、国王の息子による毒殺である
権力に目がくらんだ故の犯行だ
さらに、不幸とは時に連鎖するもの
国王の死因は、治療を行った魔法使いが原因である
その偽りの情報が、真実として国中に伝聞された
そして、国王の死去から3日程経った頃
責任を取らされる形で、ナハトの恩師であったモルテが処刑された
国王の死去から1週間後
ルミエールがこの町へ戻ってきた、実に半年ぶりである
以前と同じ場所で、2人は合流することにした
ルミエール「久しぶりー!、会いたかったー!!」
ルミエールはナハトに飛び付く
「元気だった?」
ナハト「あぁ、元気だったよ」
「そっちこそ元気そうで良かった」
ルミエール「それならよかっ………ナハト?」
ナハト「どうしたの?」
ルミエール「…何かあったの?」
ナハト「え?、何もないけどな」
「なんで?」
ルミエール「……少しだけ…辛そうにみえる」
ナハト「あーー、最近学校が忙しくて寝不足なんだ」
「そのせいかも、ごめん」
ルミエール「………そっか」
「ちゃんと眠らなきゃダメだよ!、体に良くないから!」
ナハト「あぁ、気をつける」
ルミエール「……今日はもう無理してほしくないから、解散しよっか」
ナハト「いや、大丈夫だよ」
ルミエール「でも…」
ナハト「本当に大丈夫」
ルミエール「ならせめて…私には気を使わないで?」
「もう無理しなくてもいいんだよ」
ナハト「…なんの話?」
ルミエール「分かってたんだ…ナハトが無理してるって」
「再会した時からずっと…」
ナハト「……」
ルミエール「他人に優しく生きるって、立派な事だと思う」
「でも、ずっとそれじゃあ疲れちゃうよ」
ナハト「…?」
ルミエール「もっと楽に生きてもいいんだよ」
「…て言っても、ナハトは真面目だから、簡単にはやめられないよね」
ナハト「…」
ルミエール「だからせめて私の前では、ありのままでいいんだよ?」
「私はどんなナハトでも、大好きだから」
ナハト「………あぁ、そういうこと」
ルミエール「…?」
ナハト「お前は俺の事を何も分かっていないな」
ルミエール「え…」
ナハト「俺とお前は同じじゃない」
「勝手に俺に自分を重ねるな」
ルミエール「え……でも昔…」
ナハト「確かに昔は、その生き方に憧れもあった」
「だが今は、心の底からお前達を嫌悪している」
ルミエール「?!」
ナハト「俺の本質は、お前らとは絶対に相容れない」
「それでもお前は、俺を受け入れられるのか?」
ルミエール「………」
ルミエールは黙る事しかできなかった
ナハト「分かったなら、もう俺の前に現れるな」
ルミエール「…待って!」
ナハト「……」
その言葉にナハトが反応する事はなかった
翌日、新しい国王の戴冠式
城の中は国王の弟の招待客でごったがえしている
国王の弟「今日は私の為に集まってくれてありがとう」
「これからは私と、あなた達がこの国の中心となる」
「我々こそが、この国の正義どなる!」
国王の弟の宣言に、城は湧いている
そこへ
キィー
扉が軋む
しかし喧騒の中、誰も侵入者には気がついていない
ナハト(……)
ナハトの目には、彼らが酒池肉林を貪る獣にしかみえていなかった
【命操】「リブ・ロール・ディーネン」
それから、いったいどれだけの時間が経ったのだろう
城の中には、人の亡骸が辺り一面に散らばっている
ナハト「…次は外か」
ナハトは一瞬放心状態になっていたものの、すぐに次の目標に向かおうとする
その時、
ルミエール「ナハト!」
ナハト「……」
騒ぎを聞きつけたのか、ルミエールがナハトの前に姿を現す
ルミエールはナハトをみつけると、迷わず彼に向かって走っていく
ナハト【リブ】
ナハトはそんなルミエールを、魔法で攻撃する
ルミエールの身体に生傷が増えていく
結果、ルミエールの片腕が消失する
それでも、彼女の歩みは止まらなかった
ルミエール「ナハト!」
そして、ナハトを強く抱きしめるのだった
ナハト「放せ」
ルミエール「いや!」
ナハト「放せ!」
ルミエール「いやだ!!」
ナハト「……」
ルミエール「ごめんなさい…」
「私…ナハトの事を分かった気になってた」
「そのせいで…あなたを苦しめてしまった」
「本当にごめんなさい」
ナハト「……」
ルミエール「もう……遅いって分かってる」
「でも言わせて…」
「ナハトが…どれだけこの世界に否定されても」
「誰に何を言われたとしても、そんなの関係ない」
「ナハトが自分らしく生きていけるなら、それでいい」
「私はそれだけで、凄く幸せ」
「私はナハトと出会えて、一緒に過ごす事ができて、本当に幸せだった」
「生まれて来てくれてありがとう」
ナハト「…」
「本当は…分かっているんだ」
「俺の方が間違ってるって…」
「せめて…他にもっとやりようがあったんじゃないかって…」
「でも…どれだけ自分に言い聞かせても…どうしても消えてくれなかった」
「この、人に対する怒りの感情が」
「俺は、この感情に従う事でしか、幸せにはなれない」
「そういう生き物なんだ、俺は」
ルミエール「…」
ナハト「お前で2人目だ、こんな俺を肯定してくれたのは」
ルミエール「なんだ…私が初めてじゃないんだ」
「ちょっと…嫉妬する」
ナハト「はっ笑」
「安心しろ」
「そいつは男だし、もう死んでる」
ルミエール「…そっか」
そう言うとルミエールは、ふらつき床に座り込んでしまう
身体中に傷があり、片腕も失っている
それが原因だろう
ナハトはそっと膝をつき、ルミエールと目線を合わせる
ナハト「俺の方こそ、感謝しなくてはいけないな」
「ありがとう、ルミエール」
「俺を受け入れてくれて」
そう言うとナハトは、ルミエールに笑いかけた
ナハトには、殺した者達の返り血や体液、悲鳴や命乞い、憎しみや恨み、そんなおぞましい物がこべりついている
彼の全ては今、殺戮の中で汚れ、穢れてしまった
そんな彼がみせた、心からの笑顔
それは、ルミエールの人生の中で、
最も愛しい笑顔であった
その後、ナハトは1人でシャルム帝国と戦うも、力及ばず逃走を余儀なくされる
そしてナハトは隣国であるゲーグナに潜伏し、虎視眈々と力を蓄えていくのだった
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ナハトがレイに倒されてから、2週間が経過した
ゲーグナのとある場所
2人の兄妹が、山奥でひっそりと暮らしている
「お兄ちゃーん、水持ってきたよー」
「ありがとう、そこにおいといて」
「分かったー、薪割り手伝おっかー?」
「大丈夫、マナは休んどきな」
「はぁ~い」
そこへ、思わぬ来客がやってくる
レイ「久しぶり、ファイン」
ファイン「レイ…」




