47話 ナハトの人生①
レイとナハトの戦いは、レイの勝利で幕を閉じた
レイ「これが人殺しの……」
「いや…命を奪う感覚か…」
「こんなに…え?」
ナハトの身体が死に、体内に残っていた魔力が空気中に漂っている
だがそれが、空中のある一点に集まってきている
「いったい何が…」
なにか「私が魔力を回収してるんだ」
レイの脳に、"なにか"の声が響く
なにか「そこには私の身体の一部がある、目に見えないほど小さいけどね」
「それが魔力を回収してるんだ」
レイ「食べるため…ですか」
なにか「もちろん、魔力が無いと生きていけないからね」
レイ「…」
なにか「分かってほしい、私も生きるためなんだ」
レイ「…責めたい訳ではないです」
「あなたが魔力を溜め込んでいるおかげで、俺は過去の魔法使いの記憶を見ることができた」
「…ナハトの記憶から、ユウさんの解毒剤を作ることが出来るのは、あなたのおかげです」
そんな会話をしていると、
レイ「!」
遠くで、2つの魔力が衝突している
ファインと誰かが戦っているようだ
レイ「あの場所は……」
「急がないと」
レイは、高速でファイン達の元へ向かうのだった
ブラッド「あのガキ……よくもナハト様を」
ナハトの部下であるブラッド
レイに眠らされたはずだったが、意識を取り戻していた
「こうなったら…」
ブラッドは転送魔法でとある場所に向かう
そこは山奥にある、古びれた民家だった
ブラッドは扉を開け民家の奥へと進む、そこには
ベットで眠っているユウの姿があった
ブラッド「この女を殺してやる!」
ブラッドは懐からナイフを取り出し、振りかぶる
その時、
ファイン【雷】「トール」
ドンッ!
ファインの蹴りが、ブラッドの顔面を直撃する
ブラッドはその衝撃で民家の壁を突き破り、外へ放り出される
ブラッド「貴様!、ナハト様を裏切るのか!」
ファイン「あいつは死んだ、もう僕には関係ない」
ブラッド「実験体ごときが!」
「お前も!、お前の妹も!、全員まとめて殺してやる!」
【空間】「エスパース!」
ファイン「やってみろよ」
【雷】「トール」
【力】「ヴィゴーレ」
数分後、レイが到着する
そこには壁に大きな穴が空いた民家と、複数の血痕が残されていた
レイ「ファイン!、ユウさん!」
レイは叫びながら民家に入る
そこには、
レイ「ユウさん!」
ベッドに横たわるユウがいた
レイは急いで駆け寄り、脈を確かめる
レイ「生きてる!」
「よかった、間に合ったぁ」
「いや…まだだ」
「まずは、」
レイ【命】「リブ」
レイは命の魔法で、ユウの体内を探る
「あった」
ユウの体内には、植物の種のようなものが植え付けられている
その種はナハトの命令一つで発芽し、内側から対象を殺害するものである
レイはその種を、命の魔法で粉々に分解した
まだ、やるべき事はある
ナハトの記憶から、ユウの解毒剤を作るのである
レイ「…よし」
レイは第三の眼の力で、ナハトの記憶と邂逅する
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これはナハト・シュレッケン、彼の人生の軌跡である
彼は幼いころから人間を見下していた
理由は単純、違うからである
魔法が使える自分と、使えない人間
自身が当たり前にできることが、彼らにはできない
それがいつしか、人間を見下す心理に変化していった
今から110年前
ナハトは当時8歳
とある学校の教室
ナハトは1人で本を読んでいる
彼は基本的に、学校では誰とも関わらずに過ごしている
ナハトが学校に入学したのは1年前
当時、彼の周りには様々な人がいた
魔法使いに興味を示すもの、同級生として仲良くしたいと望むもの
そして、彼を虐めようとするもの
ナハトはその全てを無視した
彼にとって人間の声は、獣の鳴き声と大差ないものだった
すると次第に、彼の周りには誰も寄り付かなくなっていった
文字と見つめあっていたナハトの瞳に、オレンジ色の光が飛び込んできた
日が傾いてきたのだろう
ナハト(もうそんな時間か、帰ろ)
そう思い、ナハトは学校を後にする
しばらく歩いていると、
どこかから少女の泣き声が聞こえてきた
いつもなら気にもとめないが、今日のナハトは違っていた
ナハト(このまま帰っても暇だしなぁ)
(暇潰しでもするか)
そう考え、ナハトは声のする方へ歩いていった
少女a「お前さぁ、ちょっと顔がいいからって調子に乗るなよ?」
少女b「そうやってすぐに泣くの、ほんと気持ち悪い」
少女c「涙でつれるのは男子だけですよ~」
少女1「うぅ…」
3人の少女が1人を囲んでいる
ナハト(…思ったより面倒そうだな)
泣き声につられてきたナハトは、その光景を物陰に隠れて窺っていた
(帰るか)
ナハトが帰ろうと足を動かすと
パキッ
地面に落ちていた枝が折れた
ナハト(あっ…)
少女a、b、c「…」
少女1「…」
全員と目が合ってしまった
少女a「なんだお前…って、お前ナハトか?」
少女b「え…」
少女c「ほんとだ~、珍しい~」
ナハト「ん?、なぜ俺の名前を?」
少女c「ちょっと~、私達同級生でしょ~」
ナハト「あー、そうなのか」
少女b「…知らなかったの?」
ナハト「興味がない」
少女b「…きも」
少女a「興味ないならどっか行ってくれる?」
「今取り込み中なんだけど」
ナハト「最初からそのつもり」
そう言ってナハトは立ち去ろうとする
少女1「まっ!……」
そこで少女1が声を出そうとする
だが少女a、b、cに睨まれ、その声は萎縮していく
ナハト「…………その辺でやめておけ」
少女a「は?」
ナハト「いくら路地とはいえ、ここは町中だ」
「これ以上騒いだら、他の奴にも気づかれる」
少女a「そん時はそん時に考えればいいんだよ」
「なに?、こいつの味方するき?」
そう言って少女1を指さす
ナハト「…まぁそうだな」
「足下、注意しろよ」
少女a「足下?」
少女a、b、c「!!」
「ギャーーーーー」
3人の足に、ムカデのような生き物が絡み付いていた
それに驚き、全員が叫びながら走り去っていった
少女1「…」
ナハトは無言で、その場を後にしようとする
少女1「あのっ!」
少女1の声に反応し、ナハトが振り向く
少女1「どうして…助けてくれたの?」
ナハト「気に食わないだけだ、お前の思い通りに動くのが」
少女1「!」
それだけ言って、ナハトはまた歩きだすのだった
次の日
いつものように学校を終え、ナハトが1人で帰宅していると
少女1「ナハト君…あのぉ」
1人の少女が彼に話しかける
か弱く、庇護欲をくすぐられる声色だ
ナハト「…」
少女1「昨日は…ありがとう」
ナハト「…」
少女1「私…ルミエールっていいます」
ナハト「…」
ルミエール「あの…」
ナハト「…」
ルミエール「…」
ナハト「…」
ルミエール「ねぇ…いつまで無視するの?」
ナハト「少なくとも、今のお前と話す気はない」
ルミエール「…なら来て」
先程までの優しい声はどこえやら、今はドスの効いたものに変わっている
彼女はナハトの手を掴み、どこかへ連れていくのだった
ルミエールとナハト、2人は町の路地で向かい合っている
ルミエール「…誰かに言った?」
ナハト「何を?」
ルミエール「私のこと!」
「あいつ実は裏では…みたいな事言った?!」
ナハト「いいや」
ルミエール「本当に?」
ナハト「する理由がない」
ルミエール「まぁ…それもそうか」
ナハト「じゃ、俺は帰る」
ルミエール「ちょ、ちょっと待て!」
ナハト「待たない」
ルミエール「なんで?!」
ナハト「興味がない」
ルミエール「ならなんで昨日助けたの?!」
ナハト「ただの暇潰し」
「虫が引っくり返っていたら、たまに助けたくなるだろ?」
「それと同じ」
ルミエール「いや、分かんないよ!?」
ナハト「……」
ルミエール「分かった!、分かったから!、最後に1つだけ!」
ナハト「……」
ルミエール「そこは聞くところでしょー!」
結局ナハトは、そのまま家に帰った
次の日
ナハトの母「いってらっしゃーい」
ナハト「いってきます」
朝、ナハトが学校へ向かっていると
ナハト「……」
なぜか道中にルミエールがいた
ルミエール「おい!、昨日はよくも帰ったな!」
「あの流れなら普通私の話を聞くでしょ?!」
ナハト「物語の見すぎだ」
「もっと現実を見ろ」
ルミエール「それなら尚更、私の話は聞くでしょ!」
ナハト「なぜ」
ルミエール「だって私だよ?、この私だよ?」
「可愛くて、頭も良くて、運動もできる私だよ?」
「普通そんな子と話せるの嬉しいよね?」
ナハト「そうだな」
ルミエール「はい、生返事~」
「聞いてなかったでしょ?!」
ナハト「そうだな」
ルミエール「聞いてくれるまで話かけるから!」
その後、登下校中も学校内でも、ルミエールはナハトに話しかけた
そしてナハトは、それを無視し続けた
1週間後、
ナハトの母「いってらっしゃーい」
ナハト「いってきます」
母「ルミエールちゃん、今日も来てくれてありがとう」
ルミエール「い、いえ…」
ナハトは無言でルミエールの前を通る
母「こら!、ナハト!、挨拶は?」
ナハト「……」
母「ごめんね、うちの子が」
ルミエール「そんなそんな…大丈夫ですよ」
「全く気にしていないので」
母「ルミエールちゃん、毎日来るの大変じゃない?」
「大丈夫?」
ルミエール「全然大丈夫です…それに、」
「ナハト君といると…すごく楽しいので」
母「本当にありがとうね、良ければこれからもナハトと仲良くしてあげて」
ルミエール「もちろんです」
その後しばらく、ナハトとルミエールは2人きりで歩く
ルミエール「この服昨日ママが買ってきてくれたんだけど、あんまり私の趣味じゃなくてー」
「でも買ってきてくれたのに、文句言うのは違うじゃん?」
「だからねー、」
ナハト「はぁ…まぁいい」
「話を聞いてやる」
ルミエール「え…本当に?」
ナハト「あぁ」
ルミエール「本当に?!、やった!、ありがとう!」
「なら早速、」
ルミエール「なんで私の考えてる事、分かったの?」
ナハト「…分からないが?」
ルミエール「でもあの時言ってたよね?」
「私の思い通りに動くのが気に食わないって」
ナハト「あぁ、」
ルミエール「あの時ね、実はママをあそこに呼んでたんだ」
「ママに証人になってほしくてさ」
「そしたらあの3人を懲らしめられると思って」
「あの3人、流石に最近手に終えなくなってきてるから」
ナハト「証人?虐めの証人てことか?」
ルミエール「そう」
ナハト「そんなことしなくても、虐められてるって言えばいいだけじゃないのか?」
「お前外面はいいんだから、信じてもらえるだろ」
ルミエール「あの3人も私に負けず劣らずの猫被りだから」
「多分私だけだと信じてもらえない」
ナハト「へぇ、だから証人か」
ルミエール「そういうこと」
「ナハトがなってくれてもいいんだよ?」
ナハト「断る」
ルミエール「知ってた」
そう言いながら笑っている
ルミエール「まぁそんなことはどうでも良くて、」
「なんで私の考えてる事が分かったの?」
ナハト「考えてる事なんて分からない」
「俺が分かったのは、本心を隠してるってことだけ」
ルミエール「…なんで分かったの?」
ナハト「そういう顔をしてた」
ルミエール「顔…表情とかそういうこと?」
ナハト「そんなところ」
ルミエール「それだけで分かるって…すごいね」
「秘訣とかあるの?」
ナハト「さぁ?、俺はそういう顔を見慣れてるだけだからな」
ルミエール「…そっか」
ナハト「俺も1つ聞くが、なぜ俺に構う?」
「お前に何か利点があるのか?」
ルミエール「うーん…そうだねぇ…」
ルミエール「私はナハトみたいに、相手の感情を読むのは得意じゃないけどさ、」
「それでも、今日まで関わって確信した事がある」
ルミエール「ナハトは私のこと、何とも思ってない」
ナハト「…」
ルミエール「私と会った人は皆、私の事を好きか嫌いになる」
「良くも悪くも私は、相手の心に残っちゃう」
「でも、ナハトは違う」
「私の事なんて一切眼中に無い、生きようが死のうがどうでもいい、そんな風に見える」
ナハト「…」
ルミエール「そんな人に初めてあったから」
「だから、興味本位だよ」
「ナハトに話し掛けてるのは、それが理由」
ナハト「そうか」
ルミエール「うん」
そんなこんなで、2人は学校に到着した
ナハト「いい暇潰しだった」
ルミエール「私も」
ルミエールは笑顔でそう言った
その後もルミエールは、ナハトに積極的に話し掛けにいく
それをナハトは基本的に無視しながら、気が向いた時だけ相槌を打つ
端から見れば奇妙な関係だが、ルミエールは満足していた
そんな日が続いた、ある日の学校終わり
ナハトは、教室で1人本を読んでいる
そんなナハトに、ルミエールは一方的に話し掛けている
特に返事が返ってくる訳ではないが、それも慣れたもの
だかその日、ルミエールはちょっかいをかけたくなった
ルミエール「なーに読んでるの?」
ルミエールは、ナハトの読んでいた本をひょいっと取り上げる
ナハト「…」
ルミエール「ふむふむ、難しそうだね」
ナハト「返せ」
ナハトは真顔で言いはなつ
ルミエール「でも面白そう、読んでみたいな」
ルミエールはナハトを無視する
ナハト「はぁ…」
ルミエール「ねぇ、この本どこ・・・」
バチンッ!
ナハトが、ルミエールを殴った
平手打ちだ
ルミエール「え……」
ルミエールは驚き、本を床に落とす
ガタ
ナハトが椅子から立ち上がり、床に落ちた本を拾う
ルミエールは、ただそれを見つめている
本を拾いあげたナハトが、ルミエールの方を見る
そして、腕をあげる
まるで、もう一度やると言わんばかりの気迫
ルミエール「!!」
ルミエールは咄嗟に顔を腕で覆い、防御の姿勢をとる
すると、ナハトは腕を下げた
そのまま何もせず、本を鞄にしまう
そしてそのまま、教室を後にするのだった
ナハトの生き方は、何も変わっていない
ナハトは人間を見下している
それゆえの、寛容と無関心
自身にとって無害なら、生存を許す
ただし、害をなすなら容赦はしない
それが彼の、生きる指針である
それからルミエールは、ナハトと関わらなくなった




