42話 レーヴェンの過去
今から30年前
レーヴェン・ファイル 当時8歳
ここは学校
基本的に15歳までは、人間と魔法使いは同じ学校に通う
魔法使いが学年に1人しかいないのは、珍しい事では無かった
レーヴェンは花にあげる為、バケツに水を汲んでいる
他の子供達は外で遊んでいるが、レーヴェンはそれには目もくれない
レーヴェンが独り、バケツに入った水を運んでいると
生徒a「手伝うよ」
レーヴェン「え?」
生徒a「重いでしょ?、だから運ぶの手伝う」
レーヴェン「…大丈夫、1人で出来るから」
「じゃあね」
生徒a「まっ……」
そう言ってレーヴェンは、早足でその子から離れていった
次の日
いつものように、レーヴェンが水を汲んでいると、
生徒a「今日こそ私もやるから」
昨日の女の子がまた話しかけてくる
生徒a「1人でやるより、2人でやった方が楽だと思う」
「だから私も一緒にやる」
レーヴェン「昨日も言ったよ?、1人で大丈夫って」
生徒a「2人ならもっと大丈夫になると思う」
レーヴェン「…何が目的?」
生徒a「何もないよ笑」
レーヴェン「…」
生徒a「……そんなに…嫌?」
レーヴェン「…分かったよ、今日だけ手伝って」
生徒a「やった!」
レーヴェン「でも約束して、手伝うのは今日だけだって」
生徒a「うん!」
「ありがとう」
レーヴェン(何のお礼だ?)
レーヴェンはそんな事を考えているのだった
さらに次の日
生徒a「水は汲み終わってるから、早く花壇に行こ?」
レーヴェン「え?」
レーヴェン「約束したじゃん、手伝うのは昨日だけって」
生徒a「そうだね、"手伝う"のは昨日だけだって」
レーヴェン「…どうゆうこと?」
生徒a「先生に頼んで、花壇係もしていいって許可を貰ったの」
「だから水あげはもう、私の仕事」
レーヴェン「……」
レーヴェン「もし僕に気をつかってるなら、いらないよ」
「僕は自分から1人を選んでるから」
生徒a「…そんなんじゃないよ」
「私はただ…花が好きなだけ」
レーヴェン「…人間でも花を好きになるの?」
生徒a「え?、うん」
「なるよ」
レーヴェン「…そうなんだ」
生徒a「……」
生徒a「…休み時間終わっちゃうから!」
「早く行こ?」
レーヴェン「はぁ、分かったよ」
そして2人は一緒にバケツを運ぶ、その途中
生徒b「アイナー、遊ぼー」
生徒aは友人から声をかけられている
アイナ「ごめーん、私花壇に水をあげるから」
「また後でー」
レーヴェン「行かなくていいの?」
アイナ「これを投げ出す方が駄目でしょ?」
アイナはバケツを持ってそう言うのだった
水やりが終わり、アイナは友人のもとへ向かった
生徒b「あんな所で何してたの?」
アイナ「レーヴェン君と花に水をあげてたの」
生徒c「あの子魔法使いだよね?、危なくないの?」
生徒d「そうだよ、危ないよ?」
アイナ「あー…うん苦笑」
「次から気を付けるね……」
夕方
教師「さようならー」
生徒一同「さようならー」
レーヴェンは家に帰宅した
レーヴェン「ただいまー」
母「おかえりー、学校はどうだった?」
レーヴェン「別に、いつも通りだよ」
母「そう、よかったわ」
その後、父親も帰宅し3人で食卓を囲む
家族団欒の穏やかな時間が流れる
その時、
レーヴェン「花って、人間でも好きになるんだね」
レーヴェンはふと学校での出来事を思い出し、声を出した
両親「は?」
レーヴェン「っ!、いや……」
母「どういうこと?」
レーヴェン「何でもないよ…」
母「正直に言いなさい!!」
レーヴェン「!?」
「あの…」
父親「まぁまぁ、母さん」
「落ち着いて」
「レーヴェン、母さんは怒ってるんじゃないんだよ」
「心配してるんだよ」
「レーヴェンが、人間みたいな悪い奴になってしまうんじゃないかってね」
「正直に話なさい」
「嘘つきは人間の始まりだよ」
レーヴェン「…」
「僕が花に水をあげようとしたら…話かけられた」
「それだけだよ…」
母「はぁ、私達いつも言ってるよね」
「人間は全員悪い奴、だから関わっちゃダメだって」
レーヴェン「ごめんなさい」
父「まぁまぁ、レーヴェンも反省してるから」
「今回はこれで終わりにしよう」
母「はぁ、分かったわ」
「次から気を付けるように」
翌日、レーヴェンが水を汲みにいく
アイナ「手伝うよ」
レーヴェン「……」
「やめて」
アイナ「え…」
レーヴェン「1人でやるから」
アイナ「でも…」
レーヴェン「やめろよ!」
アイナ「!」
「ご…ごめんね」
アイナはその場から離れていった
レーヴェン「……」
その日の夜
レーヴェンは両親に突然連れ出され、夜の町を歩く
レーヴェン「どこに行くの?」
父「行けば分かる」
レーヴェン「綺麗だな」
道中、月明かりに照らされる花を見つけた
それはとても小さい花だが、鮮やかな青い花弁を持っている
その花達は乱雑に、しかし力強く、一面に咲き誇っていた
母「あんたは本当に花が好きだねぇ」
レーヴェン「うん、好き」
母「着いたわよ」
そこは町の外れにある、なんの変哲もない民家だった
父が民家の扉を、独特なリズムで叩く
レーヴェン(変な叩き方…)
レーヴェンは心の中でそう思った
扉が開き、中から住人が顔を出す
住人「どうぞ入って」
内装も何の変哲もない家だった
レーヴェン一家は、民家の奥に案内される
そこもごく普通の部屋だった、だが床下に扉が付いている
普段は絨毯でも敷いているのだろうか
その部分の床だけ色が違っていた
その扉を開けると、下へ続く階段があった
レーヴェン一家とその住人は、階段を降りていく
レーヴェン(どれだけ下に行くんだ?)
次第に下から声が聞こえてくる
大勢の話し声のようだった
階段を降りきった先には、とても広い空間があった
下手をすると、地上の民家よりも広い空間だろう
レーヴェン(広い…)
父「お久しぶりです」
母「久しぶり~」
「おぉ、来たか」
「久しぶり」
「元気だったか」
多くの人が両親に話しかけている、顔馴染みの様子だ
だがレーヴェンは、別の事に目を奪われ両親を見ていない
レーヴェン(なんだこれ…誰なんだ?)
地下の空間には、壁一面に肖像画が飾られている
魔法使いa「絵が気になるのかい?」
レーヴェン「えっ…はい」
魔法使いa「この絵に書かれているのはね、英雄達さ」
レーヴェン「英雄?」
魔法使いa「そう、我々魔法使いを解放するために戦った」
「偉大な英雄達なんだ」
その中の1つに、レーヴェンは目を引かれた
白髪、白と黒のオッドアイである若い男性の絵
レーヴェンはその絵の下にある名前を見る
レーヴェン「ナハト・シュレッケン」
カンカン
魔法使いaは、グラスをスプーンで叩き注目を集める
魔法使いa「お忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます」
「本日は特別なお客さんがいます」
「レーヴェン、こっちに」
レーヴェンは手招きをされる
魔法使いa「自己紹介を」
レーヴェン「え…あの…」
レーヴェンは困惑し両親の顔を見る
2人の顔は、期待するような目でこちらを見ていた
「…レーヴェン・ファイルです」
「よろしくお願いします」
拍手が起こる
魔法使いa「では初めてここに来た君に、少し話をしよう」
レーヴェン「話?」
魔法使いa「レーヴェン君、君は学校で魔法使いと人間の関係についどう聞かされてる?」
レーヴェン「…学校では、共に生きていく仲間だって」
魔法使いa「だろうね笑、でもそれは間違いだ」
「人間は、私達にとって仲間ではない」
「決して分かり合えない敵だ」
「その事を教えてあげる」
レーヴェンはそこで聞かされた
過去、魔法使いが人間からどんな扱いを受けてきたか
虐殺の歴史、奴隷の歴史、差別の歴史、
その不満を、その恨みを、
長い時間、聞かされた
魔法使いa「どう思った?」
レーヴェン「…酷いと思いました」
「でも…いえ、何でもないです」
魔法使いa「いいんだよ、正直に言っても」
レーヴェン「あの…それは昔の話ですよね?」
その発言を受け、部屋の空気が変わった
幼いレーヴェンにも感じられる程に
レーヴェン「!」
「ごめんなさい!」
魔法使いa「いいんだよ笑」
「君の言う事も間違ってない」
「実際、今私が話したようなあからさまな迫害は無くなっているからね」
「でもね、程度の話では無いんだよ」
「レーヴェン君、人間から悪口を言われたことは?」
レーヴェン「え?」
魔法使いa「人間から悪意を向けられた事は?」
「どうだい?」
レーヴェン「…あります」
自分を見る好奇の視線
時折聞こえる陰口
腫れ物を扱うような接し方
同級生である人間達から向けられる悪意の経験、それがレーヴェンの脳裏によぎる
魔法使い「では、魔法使いに傷つけられた事は?」
レーヴェンの学校に、他の魔法使いはいない
レーヴェンの周りにいる魔法使いは両親だけであった
その両親も、人間への態度さへ間違えなければ何もしてこない
むしろそれ以外は、普通の親であった
レーヴェン「魔法使いに傷つけられた事は…無いです」
魔法使いa「そうだろう?」
「君を傷つけるのは、いつだって人間なんだ」
レーヴェン「嫌いだな、人間なんて」
この時レーヴェンは、自分の中に微かな違和感があることに気付く
しかし彼は、その違和感に見て見ぬふりをした
レーヴェンはこの日から定期的に民家に通い、人間への憎悪を日に日に強くしていくのだった
翌日
アイナ「レーヴェン君…あの」
アイナはレーヴェンに話しかける
レーヴェン「 」
レーヴェンはアイナの声を無視し続けた
毎日毎日
そしていつしか、アイナは声をかけなくなった
そこから数週間が経ったある日
学校で同級生の教科書が無くなった
生徒d「先生ー、教科書がないでーす」
教師「忘れたんじゃないの?」
生徒d「いやー、休み時間が始まる前はあったんですよ」
「休み時間で運動場から帰ってきたら無くなってたんです」
生徒e「俺、レーヴェンが教科書盗んでるの見ましたー!笑」
レーヴェン「は?」
教師「レーヴェン君、本当?」
レーヴェン「いや、やってないです」
生徒e「じゃあ証拠を見せろー笑」
生徒f「そうだそうだ、盗んでないなら鞄の中を見せろー笑」
教師「レーヴェン君、見せてもらっていい?」
レーヴェン「…どうぞ」
教師「!」
「これは…」
そこには、盗まれた生徒の名前が入った教科書があった
教師「レーヴェン君、これは何?」
レーヴェン「知りません」
教師「嘘つかないで」
レーヴェン「付いてる訳ないだろ!」
「お前らと一緒にすんな!」
生徒e「うわー笑、俺達嫌われてんな笑」
生徒f「流石、魔法使い様だな笑」
レーヴェン「ふざけるなよ」
教師「レーヴェン君、謝りなさい」
レーヴェン「俺はやってない」
教師「謝らなかったらどうなるか・・・」
アイナ「先生!」
「レーヴェン君はやってないと思います!」
教師「アイナさん?」
アイナ「レーヴェン君は花壇の水やりを、休み時間が終わるまでやってました」
「なので、休み時間中に教科書を盗るのは無理です」
生徒e「なんだお前!、こいつの味方すんのか!」
生徒f「そうだそうだ!」
アイナ「私は本当の事を言ってるだけ」
生徒e「証拠はあんのかよ!」
アイナ「無いよ」
「でも、それはそっちも同じでしょ」
生徒e「は?」
アイナ「今はレーヴェン君の鞄に別の人の教科書が入ってただけ」
「それだけじゃ彼が盗ったとは言えないと思う」
生徒f「そんなの無茶苦茶だろ!」
アイナ「そう?」
「誰かがレーヴェン君を悪者にするためにやった事かもしれないじゃない」
生徒e「誰がそんな意味不明なことすんだよ!」
アイナ「それはレーヴェン君もでしょ」
「彼こそ教科書を盗む意味なんて全く無いと思うけど」
教師「…確かにそうね」
生徒e、f「!」
教師「これだけじゃ、犯人と決めつけるのは無理かもね」
「教科書は無傷みたいだし、今回はここで終わりにしましょう」
「疑ってごめんなさい、レーヴェン君」
レーヴェン「……いえ」
生徒e「なにお前…あいつの事好きなの?」
「あいつ魔法使いだぜ?」
アイナ「関係ある?」
レーヴェン「っ…」
アイナ「私はただ……優しい人に苦しんでほしくないだけ」
レーヴェン「…」
その日の夜、
今日もまた民家の中は、人間への憎悪で溢れている
昨日まで、レーヴェンはこの場所に居心地の良さを感じていた
だが今は、
レーヴェン(なんだろう…この違和感)
レーヴェンは居心地の悪さを感じていた
魔法使いb「大丈夫?、顔色悪いけど」
レーヴェン「え…あぁ…大丈夫です」
魔法使いb「そうかい?、なら良いけど」
そして帰り道、
その日は急な雨が降り、皆小走りで家に帰っていく
母「さっさと帰ってお風呂入りましょう」
父「そうだな、行くぞレーヴェン」
レーヴェン「うん」
レーヴェン「!」
道中に咲いていた花が、踏み荒らされている
考えれば当然だった
目を引くような美しさはない、ただの野生の花
しかしそれでも、レーヴェンにとって大切な物の1つだった
そこにあった花達が、無惨に踏みつけられている
泥と足跡だらけになり、力無く倒れている
レーヴェン(ここに来た時はまだ元気だったのなに…)
レーヴェンは呆然と立ち尽くす
母「レーヴェン?」
父「何してる、早く行くぞ」
両親はそう言うと、躊躇無く倒れている花達を踏みつけていく
「君を傷つけるのは、いつだって人間なんだ」
レーヴェン(あぁ、そっか)
レーヴェンはようやく、自身が持つ違和感の正体に気が付いた
翌日の学校
お昼休み
生徒達が各々休憩を始める
レーヴェンはおもむろに立ち上がり、アイナの席へ向かった
レーヴェン「アイナさん」
「昨日はありがとう、それと…ごめん」
アイナ「……」
「今日は水をあげに行くの?」
レーヴェン「え」
アイナ「水をあげに行くの?」
レーヴェン「行くけど…」
アイナ「なら一緒に行こう」
レーヴェン「…分かった」
2人きりで廊下を歩く
レーヴェン「あの…」
アイナ「なんで謝ったの?」
レーヴェン「え…あぁ」
「アイナさんのこと、一方的に無視したから」
「だから、ごめん」
アイナ「なんだ、そんな事気にしてたの?笑」
「大丈夫だよ、気にしてないから」
「それに私も、一方的にレーヴェン君に話しかけに行ったしね笑」
アイナ「レーヴェン君」
「聞いてもいい?」
レーヴェン「え…うん、何?」
アイナ「レーヴェン君は、人間が嫌い?」
レーヴェン「?!」
「………」
レーヴェン「……うん、嫌い」
アイナ「…」
レーヴェン「嫌いだった」
「でも今は…少し悩んでる」
アイナ「そっか…」
「私はね、人間が嫌い」
レーヴェン「!」
アイナ「人ってさ、自分が良ければ何でも良いって思ってるから」
「自分の為なら、どんな酷い事でもできる」
「だから私は、そんな人間が、」
「そんな自分が大嫌いなんだ」
レーヴェン「…」
アイナ「レーヴェン君、ごめんなさい」
「皆がレーヴェン君を悪く言ってるの、止めようとしなかった」
アイナはレーヴェンに頭を下げる
レーヴェン「そんな…大丈夫だよ」
アイナはそれでも頭を下げ続ける
レーヴェン「それを言うなら、魔法使いも同じだから」
アイナ「…」
レーヴェン「魔法使いだって、自分の為なら誰かの大切な物を平気で踏みつける」
「そんな奴らだよ」
アイナ「…そっか」
レーヴェン「うん」
アイナ「でも、レーヴェン君は違うでしょ?」
アイナ「レーヴェン君が自分の為に誰かを傷つけたりする所、見た事ないもん」
「レーヴェン君は、その魔法使いの人達とは同じじゃ無いよ」
レーヴェン「でも…アイナさんを傷つけた」
アイナ「だから大丈夫だって笑」
「…そうだとしても、謝ってくれたでしょ?」
「それが出来るレーヴェン君は、優しくて強い…魔法使いだと思うよ」
レーヴェン「…」
「それを言うなら、アイナさんこそだよ」
「アイナさんこそ、普通の人とは違う」
「何の得も無い、むしろ損をするのに、僕を庇ってくれた」
「アイナさんは優しくて、勇気ある人だと思う」
アイナ「ありがとう」
アイナは嬉しそうに、目を細めていた
その後2人は、一緒に花に水をあげるのだった
その日の夕方、レーヴェンは家に帰ると、
両親が逮捕されていた




