1/2023/4/1/1話 始まり
この物語は漫画で描こうと思ってます。
反響があればXの方で漫画を少し公開しようと思っています。
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時は遡り、2023年4月。
ここからやりなおせば、何かが変わったのだろうか。
高校に入学して5日目。
僕は制服を身にまとい、正門の前に立っていた。
桜の花びらがちらつく。
あぁ、またこうして何も無い日常が過ぎていくんだろう。
のうのうと日々を浪費して生産性のない消費生活を続け、いったい何が残るのだろう。
そんな人生、何を残せるんだろう。
自分の生きた証は何なんだろうか。
そんな人間が無数に存在するこの世界、何が楽しいのだろうか。
そんな世界なんて、つまらないな。
そうして僕は、こう呟いた。
「…つまんねー日常。」
これがなければ、何か変わったのかは分からない。
だが、これだけは言える。
この物語は、ここから始まる魔術師のやりなおしだ。
1/2023/4/1/1話 始まり
同刻、コンビニにて。
「なーんでこんなところにあるんですかね〜。」
青年が軽食を少し取るために寄ったコンビニを後にしなら、スマホに向かってそう呟く。
『知るか。目撃情報があるから、一応確認してみるしかないだろ。』
『いや〜、ごめんな。本当は、そっちに付いてあげないといけなかったんだけどね。まさか急用が入っちゃって、二人とも行けなくなるとは…。』
スマホ越しから、女性と男性の声が聞こえる。
「…てか、そもそもこの回収を授業の一環としてやること自体おかしくないですか?」
『…そういうのも将来やらないといけなくなるって考えたら…まぁやらんといけないでしょ。』
「『絶対今考えたやつだ…。』」
『…まぁ、そんな文句言わずに。回収するだけなんだしパパっと回収して帰ってきな。』
『またそんなてきとうな事言って…。ま、頼んだよ。』
「はぁ…。」
その青年は、深くため息をつく。
「りょ〜かい!」
そう言って、オレンジ色の髪をした青年は電話を切った。
「はい、じゃあ次の授業の予習出しときまーす。”lie”。この単語の意味調べてきてね〜。」
そう英語の先生が言い終わると、見計らったようにチャイムが鳴る。
「起立、礼。」
『ありがとうございました〜。』
(いつもの流れだ。)
一連の流れが終わると、先生は教室を後にした。
「ねーねー望、”ライ”だって。楽依ちゃんと一緒だね。」
赤い髪を揺らしながら、彼女は僕の隣に来てそう言った。
「んー…そうだな。」
僕は次の授業の準備をしながら、そう聞き流す。
「…それ絶対興味ないでしょ…。」
「やあやあお二人さん。今日も仲がよろしい様で。」
そんなことを華と話していると、彼がそう声をかけてくる。
「んだよ健太。」
「いやいや、何も。」
そう言うと、健太は何もないよと言わんばかりに手を横にふる。
「そうそう。それより望、今日の部活動見学どこ行くよ?俺は、まー…バスケとかサッカーの方見てみようかなって思うけど。」
「お!いいね〜、健太くんらしい!健太くんってそういうスポーツ系好きそうだよね。」
華が、そう明るく答える。
「まぁな。中学でバスケやって、小学校で少年サッカーやってたからな。高校のレベルがどんなものなのか気になるな〜って。で、望は?」
「う〜ん…俺は美術部を見てみようかなって思ってたけど…あと、この前勧誘された陸上部にも顔出してみようかなって。」
「あー…そっか。俺は今日で一通り回って決めたいから、望とは別行動しよっかな。」
「じゃあ私は、望くんと一緒に行動しよっかな。」
「…だからなんでお前は、いつも俺と一緒に行動するんだよ、華。お前もたまには、他の友だちと一緒に行ったらどうなんだ?」
「うーん。それもいいけど…今は望くんとでいいかな。もう少し、みんなと仲良くなってからとかでも悪くなさそう。」
「そ。…華がそれでいいんならいいけど。」
「…仲がよろしいようで。」
そんな事を華と言い合っていると、健太はにこやかに微笑みながらそう言った。
「…だから何だよそれ。」
「いや、気にしなくていいよ。」
「あそう。」
そんな事をしていると華がフフっと笑い出す。
「…なんだよ華も…。」
「…いや、二人がこの5日でよくそこまで仲良くなったよな〜って。」
そう華から言われてみれば、僕と健太はまだ出会ってから5日しか経っていないのであった。
「…。」
「…。」
「確かに、言われてみればそうだな。なぁ、望。」
「…確かに…不思議だな。」
「ハハハ。不思議だね〜。…男子ってそんなもんなのかな?」
「さぁ?」
「たまたまでしょ。」
そんな事を言っていた休み時間も過ぎ、授業もすべて終わった後の放課後。
僕と華で部活動見学に行ったその帰り道。
「いや〜、面白そうだったね。陸上部って聞くと走るだけに見えるけど、あんなに楽しそうにしてるのは以外だったかも。…仲がいいんだろうね。」
「…そうだな。」
僕達は今日行きたいと言っていたところは一通り回れたので、帰路を辿っていた。
「も〜、冷たいなー。」
そう言いながら、華は望に肩をぶつけてくる。
「おい、そんなにくっつくなよ。あらぬ噂が立ったらどうすんだよ。」
「え〜、何?照れるの?」
そう華は、ニヤニヤとしながらこちらを覗く。
「ま、望くんはツンデレのシスコンだもんね〜。こうして私と話してるより、早く楽依ちゃんの下に帰りたいんでしょ。」
「そんなんじゃないから!」
「ふふっ。まー…」
そう言うと、華は目を瞑りながら小さい声でそう続ける。
「私は別に、あらぬ噂が立っても困らないんだけどね。」
「…なんて?」
「…別にー。なーんでも。」
「…そう。」
そんなくだらないことを言っていたら、いつの間にか家へたどり着いていたのであった。
「ただいまー…。」
「あ、おかえりーお兄ちゃん。」
リビングへ行くと妹の楽依がテレビの前の机に突っ伏していた。
「あ、そうそう。真理おばさん今日帰るの遅くなるって置き手紙してあったよ。」
「あーそうなん。」
荷物を置き、テレビの前にあるソファに座る。
「あ、そうだ。お兄ちゃんって、最近ずっっと華姉ちゃんと帰ってきてるよね。…もしかして、そういうこと?」
「…なわけ。」
「ま、そうだよね〜。そんな事ないと思った。私のお兄ちゃんは、そんな度胸がある人じゃないもんね。私が知ってるお兄ちゃんはヘタレで、私のことが、すっっっごく大好きなシスコンだもんねぇ〜。」
「だから、何の事言ってんだよ。嘘を事実みたいに言うな。」
「シシシ、バレた?流石に盛ったか〜…まぁ、シスコン気味でヘタレなのには変わりないと思うけど。」
「んでだよ。」
この家には、僕と楽依と真理おばさんの三人が住んでいる。
真理おばさんは実の母親ではない。
僕達の実のお母さんは、すでに亡くなっている。
お父さんの方も、僕が5歳のときに亡くなった。
お父さんが亡くなったときに、僕達はお父さんの妹である真理おばさんに引き取ってもらって、今に至る。
(やばい…急に眠気が…。)
ソファに座ると、段々と瞼が重くなっていっていった。
俺はこの時、こんな日常が終わってしまうだなんて思ってもいなかった。
あの時、俺があんな事言わなければ、何かが変わったのだろうか。
だがそんな事は、神以外知る由もないのだった。
(…やばい、寝そう…)
そうして、望は気を失う様に眠ってしまった。
意識が深く深く沈んでいく中、ある光景が見える。
この世のものとは思えない生き物、こちらを庇うように前に立つ銀髪の女性、泣いている紫色の髪の女子、黒い痣が頬にある人間、なにかに立ち向かう金髪坊主の男性、セーラー服を着た人が何かと戦っている。
寒空の下、何故かビルの屋上にいる華。
何かを伝えようとする青い髪の女性、クレーターを見つめる僕、何故か桜色の髪の人と見つめ合っている、誰かを痛めつける黒い痣を持つ男。
みんなから手を差し伸べられている。
拳銃を構えられ怯える男、こちらを見つめる白い髪の女性、黒髪の男と戦う自分、誰かと一緒に強大ななにかに立ち向かう自分と怪我を負っている四人、船で何かと戦っている。
光り輝く空間で何かと戦う僕、同じ様な空間で誰かと話す僕。
血を流して倒れる華。
楽依の遺影を見つめる僕。
これは、なんだ…。
なんなんだ。
こんな世界、知らない、知りたくもない、見たくもない。
なんで…なにが…
「ハッ……れっ…」
そこで望は、目を覚ました。
「うおっ!!…え、急にどうした?」
驚く楽依の声が聞こえる。
「えっ…俺、どんぐらい寝てた…?」
「え…そんな寝てないと思うけど…10分ぐらい?…てか、なんでお兄ちゃん泣いてるの…?」
楽依にそう言われて気づく。
「は?…えっ、は…なんで俺…泣いてるんだ…?」
自分の目元を触ると、何故か泣いていた。
「えっ、ちょっ、大丈夫お兄ちゃん?」
そう楽依が心配そうに、こちらを覗いてくる。
「何かあった?大丈夫?」
楽依は望の前に立ち、宥めるように肩に手を置く。
「あ…あぁ、いや。大丈夫だ…。」
「本当に…?…大丈夫ならいいんだけど…。あ、そうそう。さっきスマホが鳴ってたよ。一応伝えとく。」
「ん、あぁ。ありがと。」
楽依が教えてくれたので、スマホの画面を見てみると華からレインが来ていた。
《伝え忘れてたけど明日数学の小テストがあるよ。大丈夫そう?》
(…やべ。完全に忘れてた。どうしよう…。あ、教科書学校だわ…。)
「《教科書学校に忘れた。取りに行こうかな…》っと…。」
そう華にレインを送ると、すぐに返信が来る。
《私も行こっかな。取りに行きたい教材あるし。暗くなりそうだから行くのなら今すぐ行こう。》
「ま、そうなるわな…流石に勉強しないとだめかー…。楽依ー!ちょっと学校に忘れ物したから、取りに行ってくるね。華も行くらしい。」
ソファに寝っ転がっていた体を起こし、外へ出る支度を始める。
「あ、そう?いってらっしゃ~い。」
楽依は冷蔵庫を開け、今日の夜ご飯を考えていたのだろう。
あまり気のこもっていない返事が返ってくる。
「気をつけてね〜。」
そう言いながら楽依は、冷蔵庫から顔を覗かせながら手を振ってくる。
「あぁ。行ってきます。」
外へ出ると、家の前で華が待っていた。
(はやっ…まぁ隣の家だから当たり前なんだけど…。)
「ごめん、待った?」
そう言い、少し駆け足で華のもとへ向かう。
「ん。別にいいよ。……本当に忘れたの、教科書?」
華がそんな事を聞いてくる。
望からすれば、その質問に少し違和感を感じた。
(いつもの華なら、何も気にせず「じゃ、行こっか。」とでも言うかなと思ってたけど…ま、いっか。)
「うん。鞄の中探したけどなかった。」
そう言うと、何故か華は俯き、少し悲しそうな表情をする。
「…そっか。…じゃ、いかなきゃね…。」
「う、うん…。なんか怖いのか?」
「…え?」
「いや、ほら。華って昔から、なんか霊感ちょっと強めって言ってたからさ。暗くなると、何か怖いのかなって。」
「…あ、あぁ。…うん、大丈夫だよ。行こう。」
「そう…ならいいけど。」
いつもとは違う華の様子に違和感を感じながらも、望達は日が落ちて暗くなり始めている道を歩き、学校へ向かうのであった。
ガラガラガラッ。
「…お、健太じゃん。」
教室の扉を開けると、健太が一人座って勉強をしていた。
「うわ、偉いね〜。居残り勉強だなんて。もしかして健太くんって真面目くんなの?」
僕の後から入ってきた華が、背中から顔を出しながらそう言った。
「真面目くんってわけでもねぇよ…。ただ気になったから勉強してただけだ。」
「へぇ…てかお前、バスケとかの部活動見学に行くんじゃなかったのか?」
「あぁー…行ったは行ったんだがな、なんか思ってたのと違ったからやめといた。」
「あ、そうなん?」
「なんかねー、顧問の先生がヤバそうな先生でさ。俺ら新入生が見学に来てるのに、普通に部員にブチギレて怒鳴り散らかしてたからさ。そういうのは俺嫌なんだよね。」
「あーね。」
「…なんか、その先生度胸がすごいね。新入生いるのに怒鳴るって…。」
華は手を口に当てて、驚いたような仕草をする。
「ま、だから帰ろっかなーって思ってたら、小テストあるの思い出してさ。」
それを聞いて、華と顔を見合わせて笑う。
「え、何!?なんか笑うとこあった?」
「いやー、ちょうど望も小テストあること思い出して帰ってきたんだよね!」
「そうそう!」
そう言うと健太も笑い出す。
「まじで?奇遇やな!アハハハ!」
そんな事を言い合いながら、取りに来た忘れ物をカバンに入れる。
「ま、俺もそろそろ帰ろうかな。」
健太も荷物をまとめながら、そう言った。
「じゃあ帰るか。勉強は家に帰ってからでいいや。…って、あれ。華は何も持って帰らないのか?」
華の方をちらりと見ると、手ぶらの状態で教室の入口近くに立っていた。
「う〜ん、今日はやっぱいいかなって。なんかそんな気分じゃなくなった。」
華は、あっけらかんとそんな事を言ってくる。
「…あ、そう。じゃあ何のために付いてきたんだよ…。」
「まぁまぁ。そんな事があってもいいじゃない。」
「はいはーい、そんなイチャついてないで帰りましょ〜。」
帰る準備ができた健太が、そう会話に割り込んでくる。
「イチャついてねぇよ。」
「イチャついてないよ。」
「はっ。やっぱ仲ええな、お前ら。」
そんな事をしながらも僕達は教室を後にし、靴を取るために廊下を歩いて玄関へ向かっていた。
廊下を歩いていると、曲がり角の手前で華がピタリと歩くのを止める。
「…ん、どうした華?」
「え、体調でも悪くなった?」
そう心配していると、華の顔がみるみるうちに青ざめていく。
「え、もしかして本当に何か出たのか…?」
「え、何かって何…?もしかして心霊系?」
「あーそっか、健太は知らないか。…なんか華って昔から霊感があるっていうか…そういうのにちょっと敏感なんだよね。」
「あ、そうなん?へ〜…。」
そんな事を健太と話していると、華がその曲がり角の先を指差す。
「…そこの、角…なにか、何かがいる…。ねぇ、二人とも。今からでもいいから、あっちに引き返そうよ…。」
華は今にも泣きそうな顔をしながら、そう訴えかけてくる。
僕と健太には何も感じられていなかったが、華は、華だけは確実に何を感じ取っていた。
「この先か?」
そう言うと、健太が曲がり角に向かって歩き出す。
「ほーら、なんもないぞ。別にそんな怖がる必要ないって。行こうぜ二人とも。」
健太は、そう呑気に曲がり角の先でくるくると回りながら言っていた。
「大丈夫か、華?」
健太が角に近づけば近づくほど、僕の袖を摘んでいた華の手が震えだしていた。
そして、その摘む手の力も段々と強くなっていった。
「…華?」
「…行っちゃだめ、そっちには!!!」
「…………え?」
気付いたときには、健太の声は聞こえなくなっていた。
振り返ると、健太は体を壁に強く打ち付け血を流し倒れていた。
「…健…太?」
ひび割れた壁が、その力の強さを物語っている。
すると、その角から”人形のなにか”が出てくる。
「……えっ…」
思わず乾いた声で、そう漏れ出てしまう。
「…あ…あぁ…。」
華はそう嗚咽交じりの声で、開いた口が閉じていなかった。
「…。」
そいつは無言のまま、煙を上げながら立っていた。
悍ましい、人間とは思えないなにかが。
「逃げて、望!!!逃げよう!!!」
華が僕の腕にしがみつき、震える声でそう訴える。
「…何だ、こいつ…。」
望はそのバケモノの姿に、ただただ立ち竦んでいた。
「ねぇ!逃げようって!!」
「……逃げたら健太はどうなるんだよ…。健太はあそこで倒れてるじゃねぇか!!…と、とりあえず健太を連れて逃げよう…。け、健太は生きてるよな…。」
そうして健太の方へ動こうとした。
(足が…震えて動かない…!!)
そのバケモノの顔らしきものがこちらを向く。
「ひっ!!…ねぇ、逃げようよ望!ねぇ…ねぇってば!!」
華は泣きそうな、震えた声でそう腕を揺さぶりながら言ってくる。
「…。」
(なんで、こうなったんだ…?健太は…華は…みんな…)
そのバケモノは、一歩一歩こちらに歩み寄ってくる。
(健太は生きているのか…?このままだったら、僕も、華も、ああなるんじゃ…。こいつは…こいつは何者なんだ…)
「くっ…!!!」
その時、望のなかで”なにか”が動く。
望の中にある”なにか”が、黒い、ドス黒い”なにか”が反応する。
「…手、放して。」
「え…うん…。」
華が望の腕を放す。
そして、望は一息ついてそいつに向かっていく。
「!!だめ、望!!!」
望に向かって一発の拳が飛んでくるが、望はそれを危なげなく避ける。
「えっ…望?」
「死ねよバケモノ!!!」
そう言って、望はそのバケモノの顔と思わしきものを思いっきり殴りつける。
その瞬間、望の拳に真っ黒な何かがのる。
それが当たるとそのバケモノは後ろへのけぞる。
「!!当たった!!!」
望の拳が当たったそのバケモノの顔は、えぐれていた。
「え、なにこれグロっ…。」
「ねぇ望!もういいでしょ!!早く逃げよう!」
あのバケモノを見る。
そのバケモノは、その場で固まっていた。
「…そうだな、今のうちに…!」
するとその時。声が聞こえる。
「お前…何者だ?」
その瞬間、そのバケモノは望の目の前に立っていた。
一瞬のうちに、えぐれていた顔まで修復していた。
「のぞ…み…!」
そのバケモノの顔を見ると、そいつは不敵に笑う。
歪な笑みで。
その瞬間、望は地面に叩きつけられた。
そしてそのバケモノは、望に馬乗りに鳴って顔面を殴りつける。
生々しい音が廊下中に響き渡る。
バケモノの拳に、血がべったりとつく。
殴るたびに血が飛び散り、骨が砕ける音がする。
「のぞ…み…。」
華の頬に涙がつたう。
(望が…。)
華は力なく、その場に膝から崩れ落ちる。
「…。」
華はただただ、その光景を眺めることしかできなかった。
ふと、そのバケモノがなにかに気を取られるように顔を上げる。
次の瞬間、そのバケモノは壁に吹き飛んで打ち付けられていた。
(…牛?)
そこには牛がいた。
すると、誰かが曲がり角の奥から歩いてくる音が聞こえる。
「やっと見つけたと思ったら…。このザマかよ。」
その角から一人の青年が出てくる。
その青年は、オレンジ色の髪をしている学ランを着た男だった。
「…誰?」
彼の紫色の瞳が、あたりを見渡す。
「またかよ…俺は何度失敗すれば気が済むんだ。…はぁ。昼の連中がいなければこんなことには…。…牛は戻して…白虎、行け。」
すると、彼の背後から白い虎が現れ、あのバケモノへ一目散に向かっていく。
「…白虎、もういいぞ。戻れ。」
そう彼が言うと、その白い虎の姿が消える。
あの白い虎が襲っていたあのバケモノは、いつの間にか煙を出して消えていた。
するとその青年が、煙を上げて消えていっているバケモノの下へ向かっていく。
「お、あったあった。やっぱりか。でもなんでこんな普通の怨霊が、これを取り込んだんだ…?」
そう言いながら、彼は謎の文様が入った綺麗な丸い石を拾い上げる。
「…あー、ごめんね君。いきなりで何がなんだかわからないのに…。怪我してない、大丈夫?一応学長呼んでおいたから、多少治療はしてくれるとは思うけど。」
こんな状況の中、彼はとても冷静にそう話す。
「…ねぇ、その石って何?」
「ん、この石?いや〜、だめだめ。この石、こう見えてめちゃくちゃ危険なものだから。自分の身体を乗っ取られかねない、危険なものだから気にしない方がいいよ。…でもなんで?」
「…それがあれば、あいつみたいに体を元に戻せるんじゃ…。」
「?…あー…確かにね。うまく行けばできなくも……って、何近づいてきてるの?…っておい!!」
華はその青年に近づいて、石を奪い取る。
「おい、待て!!それさわんな!!!ん、え?触れてる…え…?いや、でもそれ返せ!!!」
そう引き止める彼を無視して、華は殴られ続け、顔を見ても誰なのかもわからなくなった望の下まで走る。
「まさか…おい、やめろ!!!!」
「少しでも、ほんの少しでも可能性があるなら!!お願い神様!!!望を生き返らせて!!!」
そう叫び、その石を望に触れさせる。
次の瞬間、望の体とその石が光りだす。
波動のようななにかが、あたりに響き渡る。
華は少し飛ばされ、後ろへ尻餅をつく。
風が、望に向かって吹き渡る。
「まぶ…しい…!!」
「まじかよ…!!やべぇ、終わった…。やばい!!」
その波動のようななにかが、日本全体、いや、世界全体に響き渡る。
しばらくすると、風と光、そして波動も治まる。
すると、二人の声が聞こえてくる。
「何がどうなって…健太は…華はどうなった…?」
「とりあえず…今回は大人しく、かな。」
「…え?」
「…は?」
その二人とも、声がした方を振り向く。
そして、今この現状に気づく。
「何が…どうなって…なんで俺の体から人が生えてきてるんだ…?」
深怨望の体から、人の上半身が生えてきていた。
「え、だ、誰…?何がどういう…。」
「…まじか。」
望から生えてきた人は黒髪で、光が見えないほど真っ黒に染まった瞳をしている。
そいつの左頬には黒い痣があり、生えてきている体全体が半透明で透けて見えた。
「こんなことあるんだな。体を乗っ取れないとこうなるのか。知らなかった。」
それは、そう淡々と話す。
「…誰だお前。」
「俺か?俺は…」
パリィィィン!
付近にある廊下の窓ガラスが、音を立てて何枚も割れる。
「「「!!!」」」
「この感じ…」
望の体に布らしきものが巻き付く。
その布らしきものの出どころを見てみると、二人の人間が望の前に立っていた。
「望!!」
「学長、先生!!!」
それは、女性と男性だった。
布らしきものを出していると思われる男性は、長髪気味の髪に黒い瞳。
右頬に傷のある人だった。
もう一方の女性は長身で、長い銀髪がなびいている。
そして、その空みたいに綺麗な瞳でこちらを睨んでいる。
すると、その女性はオレンジ色の髪の青年の方をちらりと見る。
「大丈夫だったか、瞭。…無事そうだな。」
そう言うと、彼女は再びこちらを睨みつける。
「けが人の治療は後でするとして…なぁ、お前だよ。」
怒りのこもった声で、そう威嚇してくる。
「!!」
あまりの威圧に、望は恐怖する。
(息が…苦しい…!!)
望がそう呼吸を荒くしていると、一緒に縛られていたそいつが口を開く。
「また会ったな。閻滝九愚未!!」
「うちの生徒に何回手出せば気が済むんだ、六道零。」
(何だ、何が起こってるんだ…。)
そう思っていると何かに気づいたのか、彼女が望の目の前まで来て目線を合わせるように屈む。
「学長、危ないっすよ…まあ縛ってるし大丈夫でしょうけど…。」
黒髪の男がそう言う。
彼も、僕をずっと睨みつけている。
「私を誰だと思っている、束縛。」
学長と呼ばれた彼女は、先程からじっと僕の顔を見つめている。
「………何ですか…?」
「…。」
すると、彼女はフッと笑う。
「面白いな、お前。魔術師になれ!」
「…え?」
僕の記憶はここで途絶える。
俺の人生はどこから狂っていたのだろうか。
だが、間違いなくここは俺の人生の転換点となっただろう。
やりなおせるなら、ここからやりなおすのだろうか。
だから、いま一度言う。
これは、俺の魔術師のやりなおしだ。