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1: Suspicious Greeting Part B

 中に入った途端に彼は誰かに後頭部を殴られて気絶、知らぬところへと運ばれた。目が覚めれば、そこは快晴の真昼のように眩しい場所であった。カスプは辺りを見回すが、彼が全く知らない建築様式の建物が陳列していた。彼は、自分の状況を完全には把握できなかった。無理もない、自宅から遥々来たケノーシャの街から、いきなりどこかも知らないところへ拉致されたのだ。彼がこの状況から予測できたことは、このまま自宅に帰ることはできないこと、そして下手をしたらその時が彼の最期であることしかなかった。

 彼は起き上がり、道なりに進む。しかし、そこには一人、正面に女性が立っていた。彼は同年代の女性に良い思い出を持っていたわけではなかったため、踵を返す。そこでこう女性の叫声(おらびごえ)が聞こえた。

「見なかったことにしないでこっち向けってば。」

この文句は、振り向いてもらえるという目的にとっては、助長だった。女性に虐められたトラウマがよみがえった。そもそも彼という名の新人に対する対応として不可である。彼は慎重に女性の方向へと顔を向けた、さすがに初対面の者に対して偏見は良くない思ったのであろう。内心では全く落ち着けてはいなかった。

「あなたは誰ですか。」

「私はアレックス。まあ言ってしまえばスカウトのパシリよ。」

確かに彼女の態度の悪さは、誰かからの命令であることから出てきていた。スカウト先を拉致などというあまりにも無礼な行為走ったのも、きっと彼女のオーバーワークの憂さ晴らしだろうと、カスプはふと思った。

「私がスカウトしたやつの家に連れて行く役目よ。ついてきて。」

 ついてこなかったとしてもここから出られる保証はないのだ。ついてくるしかあるまい。


 いくらか歩くと屋敷にたどり着いた。ヘンテコな園芸に、東亜の建造物を想起させる外壁、何もかも目新しいものであった。

 彼女はインターホンを鳴らす。門が開くとそこには、いかにも一度濡れたティッシュが乾いてシワクチャになったような体つきのアジア人の老人がいた。いや、改めて見れば、そこまでシワが激しいわけではなかったが、雰囲気からして、まるで100年は生きているのではないかとも思えた、と付け足すべきか。

「少々迷惑を働いてしまったな、それについては謝ろう。申し訳なかった。」

背を前に曲げて開口イの一番この言葉である。カスプは頭を掻いた。一体全体、彼らは俺に何をしたいのだ。

「中で待っていてくれ。『仕事』の話はそこでしよう。」

カスプはされるがままであった。まるで拒絶を封じているかのような、そんな気迫をも感じてしまったのだ。

 中に入れば、そこはやはり、まるで日本の家屋を見ているかのような景色だった。カスプ自身は日本に訪れることは無かったが、日本の話は祖父から聞いていたのだ。戦後の日本の『処理』で一度だけ訪れたらしい。清涼とした、小さな世界という祖父の形容が、今カスプの眼球と共鳴する。ここは日本なのだろうか。

 ただ、同時に眠い世界史の授業で散々言われ続けた事実も、カスプを駆けていた。

 日本は、5年に及ぶ太平洋戦争で1947年に滅亡した。

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