1: Suspicious Greeting Part A
何も変哲のない人生。ただ定職につかず、賃の廉く狭いマンションの一室で、幼少の頃から好んで食べていたシリアルを、ボウルに入れて牛乳を注ぐ、あの手紙が届くまではそんなありふれた人生だった。手紙はウィスコンシン州のケノーシャとかいう場所からのものであった。
送り主は、どうやら俺を雇用してくれるとのことであったが、なぜわざわざ俺なのだ。運動能力は平均程度しかなく、学業も一番高くてB+の成績しか取れなかったのにだ。そもそも距離の問題もある。私が住んでいるのはイリノイ州南部で、仕事場に行くとしてもイリノイ州を縦断することになるのだ。そもそも私以上にヘンテコな名前をしているやつが送り主だ。カスピエルですら珍しいこと甚だしいのに、トラマルなんて、おそろしくも感じる。
しかし、仕事が欲しい、ただ近所のファストフード店のパートのまま人生が終わるのを危惧しないほど、私は脳無しではない。やはり安定した生活を求めるならここしか無いのだろうか。
さて、いつものまっずいのにそれ以外がそれ未満の呆れたシリアルを食べ終え、残りの牛乳を洗面台に捨てて、俺は外に出た。車に乗車し、俺はイリノイ州の南北を縦断し、シカゴを経てケノーシャに行く。五大湖はさぞ美しいのだろうが、幼い頃から実物のナイアガラを仰ぎ見ることが夢であった俺は、その正反対と呼んでも良いところに行ってしまうのだ、口惜しい。
以上のことを考えながら、彼は車を走らす。停車している時にふと、彼が好んで聞いていたCDを家に置いてきてしまったことを気がついた。仕方がないのでFMラジオを起動させるが、好みの曲を流すチャンネルを見つけることができず、ついに彼は諦めてラジオを消した。
実はこのようなことは最近毎日のように起こる。ただでさえ忘れっぽい、いや、さまざまな嫌なこと忘れたい気持ちで満タンな彼の気持ちを和らげるはずの娯楽を、なぜ忘れることがあろうか。そんなことを考えているうちにいつの間にかシカゴにいた。
斜陽が彼を照らす。
ケノーシャに到着した時点では、もうすでに日暮の時間帯だ。マッケンジーレクリエーションセンターが集合場所らしいが、この薄い陽の光を感じれば、もう一日待たねばならないことは分かっていた。しかし、見たところなぜか営業中なのだ。ラベンダーの快晴の空が、逆にカスピエルの恐怖を増長させた。
入るべきか、入らないべきか、彼にとってはそれは容易な選択では無かった。ただ、彼は何か、自分でもしっかりと容態のつかむことのできないできない何かを感じた。それに、心が奪われるような、心臓を繰り寄せられるような気分にさせられて、彼は警戒心を振り、中に入って行った。
この土地アメリカではなんとも愚かな行為といえよう。強盗に金品を奪われるか、拉致されて当然だ。実際、これにより彼は罠にかかったと言うべきだろう。彼のその蛮勇な行為さえなければ、この物語は成立しない。ただ彼が交通事故や病で死ぬ並の人生を送ることだろう。それが彼にとって良いものか悪いものかの判断は君たちに任せるが、とりあえずつまらないだろう、それだけは断言できる。彼がこの先に立ち向かう逆境が、我らの娯楽だ。