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第9夜 月


 年が変わってから7回目の満月の夜は月が落ちてくる。正確には、水鏡に映った月が実体を持ってしまうのだ。

 この月はそのままにしておくと周りの生態系や環境を乱すので人々は月を空に返さなければならなかった。

 今ではこれを“月送り”や“月狩り”と呼んで一種の祭りのようになっている。

 とはいえ、1つでも残ってしまうとそこから1年、その近くの環境がおかしくなってしまうので街の騎士団など公的機関の上層部は必死だった。


「今年の月の発生ペースは?」

「1時間に1つ程度のようです」

「そうか。15分間隔だったという24年前の悪夢からすれば今年は当たり年だな」


 月が現れ始めるのは日が暮れてから。そして月はもちろん、輝いているので捜索と返送は容易だった。

 人の住んでいる地域に限れば。


「あとは森の中の泉とか湖とかか」

「そちらは冒険者や探索者に一任しています。取りこぼしがあったら都度両ギルドの持ち出しで人員の手配が義務付けられているので手抜きはないでしょう。ですが、資料を見るとただの水たまりでも発生したという例があるので気が抜けませんね」

「本当にな……! 幸い、月が発生する地域は限られているから何とかなっているが」


 このままいけば今年は何とか月残りなんていう悲劇は避けられそうだと一息つく。

 

「よし、息抜きに俺達も月狩りに向かうか」

「いや、団長は決裁書類が待っていますよ」

「いやいや、月狩りの方が大事だろ? 月残りが起こるか起こらないかで俺達の仕事量も仕事内容もかなり変わるぞ」


 毎年大なり小なり発生している月残り。これを最低限に抑え込めればイレギュラーな魔獣発生や異常気象が減り、余計な出費を減らせる。

 それを考えれば決裁書類の遅れ程度は目を瞑ってもらえるだろう。というか、目を瞑らせる。


 ということで、彼らが向かったのは街から程々に近い森。騎士団へ上がってくる報告の中で一番苦戦しているのがこの地域だった。


「よし、やるか」


 月狩りに技術は必要ない。ただ落ちている(もしくは、水に浮かんでいる)月を拾って空へ投げるだけだからだ。月自体は手のひら大くらいから最大で3歳くらいの子どもの背丈ほど。見つからない大きさではない。

 月狩りに必要なのは網だ。投網よりも柄の付いた網が良い。


「元長槍兵の実力、見せてやるぜ」


 くるくると回し、ビシッとポーズを決める団長。槍兵だったというので、確かに長物の扱いは上手いようだった。


「……団長。私は何をすれば?」


 手持ち無沙汰な副官がそう呟くと団長を横目で見る。


「あ? そんなの決まってるだろ。よってくる魔獣の排除だよ。お前、地味に血を見るの好きだろ」

「誤解を招く言い方はしないでいただきたいですね。とはいえ……魔獣の排除、拝命いたしました」


 副官はそう言うと自分の手に爪を装着する。彼が得意なのは返り血を浴びるほどの超接近戦だった。


「よっしゃ、月狩りマラソンだー!」


 かくして、騎士団長とその副官が仕事をほっぽり出して月狩りに勤しんだことが功を奏したか、その年の月残りはなんとゼロとなったのだった。




◆◇――――――――――◇◆


前話から引き継いだ要素:ムーン(月)


月送り/月狩り

年が変わってから7回目の満月の夜、水鏡に映った月が実体を持つという異常現象が起こる。ここで発生する月は手で掴むことができ、少し上へ放ってやれば空に溶けて消えてしまう。街の人は見つけた月を空へ投げるのだが、ストレスを抱えているものほど勢いが良いという何とも言えない調査報告があったりする。

そもそも月が発生するようになったのはブラックな仕事に嫌気が差した魔女の呪いのせいだった。



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