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第4夜 トレジャー


 ソポリス海域。

 ここは、海の男たちの激戦区だった。


「艦長! 東前方沖に不審な船影が一つあるとのことです!」

「向きは?」

「船首は西、このままでは衝突するかと!」

「この航路を横切るようなルートを取る大型船はないはずだ。十中八九、海賊だろうな」


 上がってきた報告に対してそう呟くと踵を返しデッキに出る。


「総員、砲撃ヨォーイ!」


 船内がにわかに騒がしくなる。

 けれど、船員の誰もが生き生きとしている。

 戦いになると思えば、血が騒ぐからだろう。


「海賊だと確定できたら連絡しろ」

「ハッ!」


 そして、程なくして確認できた船影は海賊だと判定される。

 その頃にはもう互いに臨戦態勢となっており、どちらが先に手を出すかといった具合になっていた。


「撃てェー!!」


 ドン、と空気が震える。

 爆音を追いかけるようにして火球や雷球も海賊船に襲いかかった。

 先手を打たれた形になった海賊船も大砲を使って来るが、こちらに控えていた風の魔法や水の魔法がそれらを撃ち落とす。

 ならず者が船を持って集まっているだけの海賊と訓練を重ねた船員では地力が違うのだ。

 こちらの攻撃に押し負けた海賊船が傾き始めた。もう幾ばくもしないうちに沈み始めることだろう。


「乗り込めェー!!」


 沈む船に乗り込む理由は何か?

 海賊共を助けようとかいう聖人めいた話ではない。


「さぁて、どれだけ溜め込んでいることかねぇ」

「くそっ! よりによって商戝かよ!」

「運がなかったな。お前たちの溜め込んだ宝はありがたく頂いてくよ」

「くそっ……ぐ、ぁっ……!」


 海賊達は乗り込んできた船員達に次々と無力化され、斬り捨てられていく。


 商戝。

 それは、海賊など後ろ暗いところのある相手から金目のものを奪い商売をするアウトロー達を指す。

 海賊とは違って一般の船を襲わないことから、海軍に目をつけられることはない。


「海賊を海賊する――このソポリス海域で上手くハマったもんだ」


 あらかたの海賊を始末し終え、船内から金目のものが運び出されてきたのを合図に艦長含む海賊襲撃組は自分達の船へと戻った。


「今日の戦果はどうだった?」

「艦長! すごいですよこれ、あの有名なエルフがドワーフに頼んで加工したという『深き森に眠る泉』です」


 そう言って指に引っ掛けるようにして持ち上げられたのは貴族でもお目にかかれないような豪奢なネックレス。

 エルフという種族とドワーフという種族はどうも互いにそりが合わないようで不仲であることは有名な話だが、その歴史の中でたった一度だけエルフが折れたという出来事があった。それが、このネックレスに使われている宝石の加工だ。

 しかも、そのネックレスは70年前に今はない国の政変で行方不明になっていた。


「本物か……?」

「特徴は間違いないです。それに、もう一つ、この『王妃の輝きに勝るものなし』も帝都オークションにでも出品すれば天井知らずの金額になるんじゃないでしょうか」

「ははっ……これは、すごいな……」

「はい。あの海賊を殲滅してしまったのは惜しかったかもしれませんね」

「いや、確かにこの出処を探れば他にも有名な宝飾品があるかもしれないが、それは皮算用というものだ。我々はトレジャーハンターではなく、商人だからな」


 やがて商戝の船が航路を調整しその場を立ち去るとき、その波に煽られてついに海賊船は水底へと沈んでゆく。

 このようにして沈められた船がこの海域には何隻もあるという。




◆◇――――――――――◇◆


前話から引き継いだ要素:朽ちた船(朽ちてない)


商戝

海賊を海賊する商人。

結局のところ盗品を商品として取り扱っているので普通の人からの心象としては良くない。が、被害を受けるのは主に海賊なので目こぼししてもらっている。というか、処罰のしようがない。


『深き森に眠る泉』

エルフの宝玉の破片から出来たネックレス。エルフの技術では加工ができず、ドワーフに頼むことになった。

これを管理保存していた村が人間の襲撃に遭い、行方が分からなくなっていた。


朽ちた船

ソポリス海域は数百年後、大きな地殻変動が起きて湖となり、やがて干上がった。そして、かつて水底に沈んだ船の残骸が見られるようになる。



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