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第24夜 宝石の街


 ガラスシティは宝石の街だ。この街では不思議な力を持つ宝石が忽然と現れる。

 見た目は普通の宝石だ。原石のこともあるが、基本的には綺麗にカットされた宝石。

 現れた宝石を最初に手にした者が所有者となる。

 宝石は所有者の何かの感情によって磨かれ、所有者が苦痛を感じると曇ってしまう。輝く宝石は周囲に幸運を運ぶ一方で、曇った宝石は不幸を呼び込んだ。

 だからこの街で底辺からのし上がりたいならまず宝石を手にする必要がある。


「何するんだ! この……クソガキが!」

「返してよ! あたしのパンだ!」

「これはうちの商品だ! 金もねぇ汚いお前のじゃない!」


 奪われる拍子に殴られ蹴り飛ばされたあたしはチッと血混じりの唾を吐き捨てる。

 金なんてあるわけがない。あたしは親なしだ。あたしの記憶の始まりは飢えてどうしようもなくなった空腹感を抱えて彷徨っているところ。おきれいなガラスシティのごみ溜で水を飲んで飢えを満たしたり、露店の食べ物を盗んだりして何とかここまで生きてきた。

 宝石の街だなんて言っちゃいるけど、きれいなばかりじゃない。

 でも、あたしはこの街から離れるつもりはない。

 だって、確実に現状が好転する手があるのだから。


「宝石さえ手に入れば……!」


 そう、宝石だ。持ち主に運を授ける不思議な石。その石が現れるのは必ずこの街の中だという。だから宝石を狙っている者はなんとしてでもこの街にしがみつく。

 街でよく聞く話も宝石一色だ。


「キャローラ侯爵の娘がトルマリンを手にしたそうだぞ」

「じゃあ、また別荘が増えるな」

「ああ。貴族サマだから宝石持ち用の別荘じゃ不服なんだろうさ」

「贅沢な話だ」

「とはいえ、それで仕事も増えっから助かると言えば助かるがな」

「確かに。ああ、そういえばクズ溜まりの子どもの一人が猫目石を拾ったとか言っていたな」

「へぇ、続くもんだな。でも、赤色じゃなければ良いけどな」

「色までは情報がなかったなぁ」


 大通りへ行けばどこそこで宝石持ちが現れたという話題を仕入れられる。今年は当たり年と言うらしくて宝石も良く現れているようだ。


「何で赤だとだめなの?」

「あ? 何でってそりゃあ……ガキか。何盗み聞きしてんだ」

「ねぇ、教えてよ。赤だとダメなの?」

「……はぁ、聞いたらとっとと離れろよ。猫目石の赤は悪事の達成が宝石を磨く感情に関わっているんだと。だからその石だけは持っても良いことにはならないんだよ。分かったらさっさとどっか行くんだな」

「ふん!」


 残飯をあさり、飢えない程度に腹を満たしたあたしはいつもの寝床に戻って来た。

 辺りはもう暗い。それにここは星の光も降りてこない奥まった場所だ。大人はなかなか来られない狭さだから“クズ溜まり”でも比較的安全だった。

 あたしは毛布代わりにしている布を広げ、横になる。

 と、何かが足にあたった。

 あたしがいないときに誰かがここへ来たのか、石が入り込んでいたらしい。

 そう思ってどこかへ放ろうと掴み、ふと思う。

 誰かが来たにしてはあまりにも“荒らされていなかった”。むしろ、朝離れた時そのままなくらいだ。

 そんなところに、忽然と現れたような石。

 もしかして、もしかするのだろうか。


「……だったら、いいなぁ……」


 あたしは温かくもなんともない石を握り込んで丸まった。幸せな夢くらい見たっていいだろう。



◆◇――――――――――◇◆


前話から引き継いだ要素:宝石


不思議な宝石

所有者の何かの感情によって磨かれ、所有者が苦痛を感じると曇ってしまう。輝く宝石は周囲に幸運を運ぶ一方で、曇った宝石は不幸を呼び込む。


例えば、

トルマリンは健康的な生活に磨かれ、身体疲労に曇りやすい。

猫目石は他者へ影響することに磨かれ、自分の不幸感に曇りやすい。

ガーネットは情熱的な恋の幸せに磨かれ、失恋に曇りやすい。

アメジストは正義にかなう行動の達成感に磨かれ、不誠実さに曇りやすい。

アクアマリンは平穏な日常の喜びに磨かれ、非日常的なトラブルに曇りやすい。

コーラルは健康的な生活に磨かれ、病の際に曇りやすい。

モルガナイトは自由さに磨かれ、強制・拘束に曇りやすい。

ダイヤモンドは穏やかな愛に磨かれ、孤独に曇りやすい。


宝石の種類や色合いによっても変わる効果。

猫目石は最も多様性があり、危険性も高い。

他者への影響……それは、悪意のある行動すら含まれるのだから。


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