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第23夜 天つ風


 ここは天高くそびえるエイルクリプト山の一部。外界に晒された山肌はところどころキラキラと煌めいている。

 人も獣も未だ踏み込むことが出来ずにいる高山の鉱床。その一角だった。

 美しい鉱石は人が競って手に入れようとするが、もちろん人以外にとっても魅力的なものだったりする。


 この鉱石に惹かれて住み始めたのは鉱石類を主食とする特殊な生き物。鉱山烏だった。この烏は不思議なもので、食べた鉱石や宝石によってその体の性質を変えられる。ルビーの原石を食べれば赤く、サファイアを食べれば青く、ダイヤモンドを食べれば固く透き通るようになるのだ。

 美しく煌めいた体であればあるほど、この烏は異性に求められる。


 そんな鉱山烏の番がエイルクリプト山に棲み着いた。雄は虹走るオパールの体をしており、雌はピンクダイヤモンドの体をしている。

 鉱山烏界隈では美男美女のカップルと言えよう。


 この鉱山烏の主食は鉱石類だが、月に1回は普通の烏と同じように肉を摂らなければならない。

 その日、雄の烏が狩りに出かけた。雌の烏は巣に留まり卵を守る。

 鉱山烏の卵は何にも染まらぬとでも宣言しているかのような漆黒をしている。しかしこの漆黒、夜はともかく日のあるうちはとても目立つ。特に鉱山烏の習性により、巣を作る場所が決まってキラキラと派手な場所なので余計に分かりやすかった。だからこそ、この烏は必ず番のどちらかが巣の守りにつく。


 狩りにでた雄の烏は森の上空を同じように飛ぶ姿を捉えた。

 それは烏よりも一回りほど小さいが、下降速度は比べものにならないほど速いスカイシーフと呼ばれる鳥だった。他が弱らせた獲物を空から急降下して掻っ攫う性質を持つ。その名の通り、盗賊的な鳥である。

 スカイシーフはあらゆる鳥に嫌われている。鉱山烏にしても同じく嫌っており、雄烏はギャアギャアと威嚇し追いやろうとした。この鳥が近くに居るとせっかくの獲物を取られてしまうからだ。

 しかし、シーフも嫌われ威嚇されることに慣れており、雄烏を威嚇し返した。

 威嚇合戦では勝敗はつかず、雄烏は直接的な攻撃に出る。

 ギリギリまで近づき、上を取ると脚を器用に使って叩き落とそうとしたのだ。


 ギャアッギャアッ


 しかしスカイシーフも負けてない。烏の攻撃に怯まずさらに高みを取る。

 どちらも引かず、上を取ろうとしているうちに今までに到達したことのない高さまでやって来てしまった。本能的が、それ以上高く飛んではいけないと叫んでいる。


 ッ、ギャア……


 スカイシーフは落ちるようにその場を離れていく。残した鳴き声はどこか悔しげに響いた。


 烏は勝ち誇ったように翼を広げる。


 その時だった。


 身も凍るような恐怖が襲ってきたかと思ったら強い風にさらわれてしまったのだ。

 一瞬のうちに今までにない速度で空を移動する烏。恐怖に羽ばたくことすらできないのに空を舞っている。すべてはこの天つ風の持つ力によるものだった。

 風は気まぐれで時折楽しげに葉擦れの音から雑談まで囁いてくる。しかし、天つ風は何かが違うのだ。常に吹くのは天に届きそうな大空。その強さは人すらも舞わせるほど。そして絶えず世界を巡っている。

 烏は何とか体勢を整え、天つ風から逃げるタイミングをはかる。

 風が高く高く上ったところで、一瞬の緩みがあった。烏はそこを見逃さず、一気に風の道から飛び出した。

 あとは、あの山へ戻るだけ……そのはずだったのだが、烏は不思議な場所へ迷い込んでしまっていた。

 そこは、霞がかった白い空間。飛んでいたはずなのに今いるのは地面のようだ。


 そして、目の前には――こちらをじっと見つめる龍がいた。

 龍は白く大きく、そして何を考えているのかわからない凪いだ瞳をしている。


 烏からすると、龍はその存在だけで恐ろしいものだった。ブルブルと恐怖に体を震わせながら必死になって命乞いをする。自分にはまだ守るべき家族がいる、だからここで食べられるわけにはいかないのだと。


 そうして、這々の体で龍の世界を辞すときにふと思う。あの龍は特に烏を害するような様子はなかった。怯えに怯えた烏の態度は良くなかったのではないかと。むしろ、烏の話をあの龍は興味深げに聞いていた節さえもある。

 いつかまた、あの龍の世界を訪ねてみようか。

 烏は自分の身の欠片をこっそりと世界の出入り口に仕込むのだった。



◆◇――――――――――◇◆


前話から引き継いだ要素:天つ風


鉱山烏

体が宝石でできているかのような見た目のものが多い。烏が感じる恐怖が大きければ大きいほどその体は硬くなり価値が高くなる。


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