第22夜 龍の琴
文字数は無念の952字。
龍の世は年永く飽く事多かれど
忘れ得ぬ我が妻の懐かしき箏音
この手にて爪弾けども音鳴らず
ただ切れる弦に心乱されるのみ
悠久の時を過ごすいと高き天涯
訪るは天つ風に吹き煽られし烏
命乞いて鳴いては話す家族の情
時経ようとも変わらぬは愛なり
雄風に乗り天涯へ辿り着きし男
龍前に在りて寛ぐこと大胆不敵
地を這う人如何にして天翔るや
男この身魂のみなればと答ふる
天涯龍の世なりて彼岸にあらず
身体なくとも己あらば生者なり
命ある人大地に育ち生きるべし
男己が身で必ず参らんと約する
いつしか星を数える夜にも慣れ
我が心また過去へ馳せ耳澄ます
あの懐かしき箏の音奏でる細指
命止むその時までただ愛伝へし
星眠り陽光射すこれ世の常なり
新しき日に首もたげ花嵐に遭ふ
天涯になき薄紅色をまとうは男
風乗りて鳥の導辿り来しと笑む
風知れば違う世なれど訪ね得る
その男確かに魂ともに身体あり
悠々自適に寛ぐ豪胆相変わらず
呆れども通う言葉に飽く事なき
三度帰りまた参りて男抱く幼子
子とはかくも小さく愛いなりや
己が子見る目愛しさ溢し親なり
宝と呼ぶ声に懐かしき音重なる
我が身長く天涯孤独の龍なれど
かつて生涯誓う愛しき伴侶あり
忘れ得ぬ箏の音に入り浸る日々
我が宝なぜ人の一生かくも短し
男度々参りては手土産に花持つ
人は花めづ故龍もまた心適うと
言葉なく知りて寄添う我が悲哀
天涯の一角四季折々の花溢れん
幾度か男は子連れて天涯来たり
幼子成長著しければ時また過ぐ
子離れ孫あり憂く物なしと笑む
人生夢の如しと白き髪髭に思ふ
孫支え翁と呼ばれし男天涯訪る
長からずと笑い伸ばす手落つ泪
龍向けて寂しがりなどのたまう
言葉なくもこの縁いわば友なり
星数える夜増し訪人の足遠のく
天涯より人の世知る術数はなく
喪うことかくも悲しく恐ろしや
出逢うこと幸なれど別れは辛し
天命覆す事世持つ龍も許されず
ただ世に流れる時を伸ばすのみ
翁この天涯にて過ごすこと長し
友穏やかなる時長くあれと願う
満天の星眺むれば友の指星辿り
指し示すは夏宵輝く小さな琴座
琴には種類ありて翁知るは和琴
奇しくも我が妻の箏も知るなり
翁の孫天涯参りて見るや我が箏
龍の爪に千切れし弦白く張られ
翁箏前に座して爪弾けば音鳴り
その懐かしき響き我が胸満たす
龍の世は年永く飽く事多かれど
友の手奏でる箏の調べ心に刻み
いつか我が手で奏でむと夢見る
別れ越え箏の音永遠に共に在れ
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前話から引き継いだ要素:琴(箏)
龍
一つの世界を支える柱。かつて人間の妻がいた。妻は天寿を全うし没した。その妻が龍の世界に来るときに持ち込んだ箏は龍の力に守られて劣化はしなかったが、箏の音を懐かしんだ龍が弾こうとして弦が切れてしまった。
なんちゃって古語
本文見て察せると思いますが、14文字に収めるというマイルールのため、意味はわからなくもないけど一部無理やりな単語になっています。