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第21夜 ネオン街


 ――しまった。最終バスに乗り遅れた


 今日は大学の新歓パーティがあったのだ。明日は休みだし遅くまで騒いでいてもいいやと思っていたからうっかりしていた。

 腕時計を見れば、時刻はもう零時を回っている。


 私の前にはバス停がある。

 オレンジの街頭の光に照らされてそこだけ浮かび上がっているかのようなバス停だ。

 いつもなら何人かが中のベンチに座ってバスを待っているが、最終バスがすでに通過してしまった後では人っ子一人いない。

 私は頭を抱えて、ハァ、とため息を吐いた。


「でもまぁ……久しぶりに使いますか」


 幸いなことに、私はタクシーを呼ばなくても何とかなる手段を持っている。鞄を探り、目当てのものを取り出した。

 それの見た目は鍵の形をしたルービックキューブとでも言えばいいだろうか。おもちゃみたいな見た目だが、その機能はおもちゃを飛び越している。

 私はおもむろにその鍵を何もない空間にさして回す。そしてかちりと手応えがあったところで手を離した。

 鍵はそのまま宙に浮かんだようになり、次の瞬間、サイコロが展開するかのように光が広がる。そして、ぽっかり空いた扉が出来上がった。その先は光が線状になって奥へと続いている。


 これは異空間への扉だ。

 私はよし、と意気込むと扉の向こうへ踏み込む。

 その途端、私は風になった。

 そんな勢いで移動している。


 すぐに、光の線以外のものが視界の端を流れていくようになった。ネオンサインだ。そろそろ目的地が近い。

 私は流れる景色に目を凝らしてその時を待つ。


「来た!」


 +81の日本カラーなネオンサイン。それが見えたところで、右足を軸に反転し軽くジャンプする。そしてトン、と降りれば周りはもうネオンの輝く繁華街のような空間だ。

 道行く人たちの姿形は良くわからない。ネオンの光に霞んでいるような、そんな不思議な見え方をしている。ただ、全員が全員同じような色合いというわけではないから区別はつく。


「そこの紫の子、ちょっとどう?」

「悪いけど私、そろそろ帰るの」


 紫、と言われて自分を見下ろしながらそう返した。私はたいてい紫がかった色合いになる。だから、このネオン街ではユカリと名乗っていたりする。


「それは残念。これあげるから次に来たときに寄っていってよ」


 そう言って投げられたものをパシッと受け取ると軽く振って見せてその場を離れた。


「危ないところじゃなければねぇ」


 この街ではお金のやり取りはない。ただ、この街で飲み食いした代金は現実の口座や手持ちの金品から差っ引かれる。迂闊に店に入ってしまうと気づいたら貯金がゼロ、なんて悪夢もあり得るのだ。

 声をかけてきた男の店は人の懐を軽くする、そういうたぐいのところだと思う。


 ポン、ポン、ポン……

 空から聞こえるのは琴のような音。

 どこかたどたどしさを感じるその音は、+81ネオン街でしか聞けない音だ。時間の境目で気まぐれに鳴らされるという。


「ふわぁ……そろそろ帰り道探さないと」


 あくびを噛み殺しながら私は“+81摩天楼”へと向かう。ここから離れる時、確実に現実世界の目的地へと戻りたいのならこの摩天楼から目的地までのロードを設定しなければならない。これを間違えると地球の反対側の国に出てしまうこともあるので要注意だ。


「ようこそ、+81摩天楼へ。ご要件をどうぞ」

「帰りたい」

「かしこまりました。826号室が空いていますのでそちらをご利用ください」

「わかった。ありがとう」


 案内に従って8階までエレベーターで上がり、26号室を探す。


「あったあった」


 帰るための道を設定するだけの部屋なので、ただ端末がぽつんとあるシンプルな部屋だ。

 私は端末に住所を入れて到着地点を設定する。諸々の確認事項に同意したら、部屋の奥の方にあの扉が現れるのだ。


「すぅ……よし、行くぞ」


 気合を入れてから扉をくぐる。

 行きと違って帰りは目印がはっきりしていないことがある。これを見逃すとやっぱり地球の反対側の国に出てしまうことがあるのだ。他国に行ってしまうと本当に大変なことになる。ネオン街へ入る条件に夜であること、一晩で一回だけしか使えないというものがあるからだ。前に一度やらかして結局戻れたのは1週間後。あのときは捜索願が出される寸前だった。


「ええと、確か……連なる光の滑り台的なやつ……」


 帰りの道は雪山を滑り降りるような感覚がある。距離が長ければ長いほど景色は速く後ろに流れていくので見逃さないか毎回不安だ。


「ここ、かな」


 右足を軸にブレーキをかけてトンッと跳ぶ。

 降りればネオンの光はかけらもなく、私は現実世界に戻ってきていた。


「あ、ラッキー。次の角を右に曲がればいいだけじゃん」


 ネオン街への鍵はいつの間にやら再び私の鞄の中に収まっていた。



◆◇――――――――――◇◆


前話から引き継いだ要素:光


ネオン街

限られた人だけが訪れることができる不思議な街。ネオンの光が街を楽しげに彩る。

ここでの消費・生産・取引行動は現実の資産に連動する。カジノ・ハウスなどで大勝ちすればその分資産も増えるのだ


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