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第18夜 運勢


 今日の自分は運がいい。

 彼は自身のバーチャル空間に届いた通知を見てニヤリと笑った。

 見ているのはもちろん、本日の運勢だ。

 そこには『牡牛座×O型の運勢』とあり、細かくジャンル分けされた運勢欄が続いていた。恋愛運、仕事運、対人運、金運、健康運、自然運の6つが確認できる。


 恋愛運:幸 運

 仕事運:好調運

 対人運:安定運

 金 運:安定運

 健康運:好調運

 自然運:平凡運


 ちなみに仕事運については学生の間は勉強運という表記になる。

 そしてもちろん、ラッキー要素・アンラッキー要素も出ていた。


 ラッキー☆要素:車

 アンラッキー★要素:戦争


 たかが占い、インチキだろうなんて意見はもう古い。

 今や国民の多くがこの占いによって毎日の行動に優先順位をつけていると言ってもいい。


『本日の国民全体の総合運としては安定運、悪いことが起こったとしてもリカバリーが可能な状態に収まるでしょう。ただし、パーソナル運勢で低調運や不運となっている場合、個人の力では対応しきれないこともありますので、幸運や好調運の方の助けを得るようにしてください』


 占いはもはや予言に近いのだ。

 好調運であるならば、本当に運が回ってきている。低運調であるならば、慎重に行動しないと痛い目を見る。


「アドバイスは……なるほど、企画自体は問題ないが実行者をよく選ぶべし、か。とすると……」


 彼自身の運勢は好調運なので、本日中に企画の実行者を決める場合は仕事運が幸運と出ている者を選ぶのが吉というわけだ。

 パーソナライズされた占い結果を見ながらブツブツと呟き、本日の仕事のチャートを頭の中で完成させる。そうして、本日のラッキー要素に従い、自分の車で出勤した。


「おはようございます」

「おはようございます、課長」


 自分のデスクに来たら、まず最初にバーチャル背景をラッキー要素の車に関するデザインへと切り替え、企画案の修正を行う。同時に、社内に公開されている社員それぞれのパーソナル運勢を見ていった。もちろん、今回の企画の実行を任せられる人を探すためだ。誰も居なければ該当者無しとして後日に回すか、自分が担当するか決める。運勢の良い他の人に任せた方が吉とはいえ、彼自身も仕事運は好調運なので大きな問題は起こらないと考えられるからだ。


「お……礼宮さんが幸運みたいだな。彼女に任せてみようか」


 早速、今日の仕事運が幸運とある礼宮望代に時間の調整を依頼し、自分の仕事に取り掛かる。

 そして会議の時間の30分前になって、彼は資料を手に礼宮と簡単なミーティングを行った。


「よろしくお願いします。以前に課のミーティングでも少し話したけど、この企画を正式に上へ提案することになったんですよ」

「そうなんですね。ええと、青い鳥プロジェクト? ああ、最大幸福理論の……」

「そう。一日限りの幸福派遣。このご時世、低運調とか不運だと本当に厳しくなるからね。それの緩和策としてあえて打って出てみても良いんじゃないかと」

「そうですね。確かに低運調だと誰かに頼む必要があったりしますけど、ただでさえ運が悪くなっているところにベストな助けの手ってあまりありませんし……」

「物凄く実感がこもっているね」

「はい。最近はないんですけど、大学時代は大変でした。低運調どころか不運が1週間続いたこともあるんですよ!」

「おっと、それは……」


 ふとよぎる不安。

 しかし、今は幸運のようだし、問題ないだろうと判断して彼は予定通り、彼女に企画が通ったら実行者になってもらえないか聞いてみる。


「実行者ですか! 責任重大ですね……私に務まるでしょうか」

「君の幸運なら適うと思うけど、どうかな?」

「そうですね、確かに躊躇わずに引き受けるのが吉ってありましたし。ぜひ、やらせてください」

「うん、快い返事をもらえてよかったよ。ああ、このあと会議があるんだ。君も聞くだけでいいから同席してくれ」

「分かりました!」


 会議では特に問題なく企画が通った。好調運だから当然ではある。


「経過報告は僕のところにお願いします」

「かしこまりました!」


 それからしばらくして派遣企画が無事にスタートした。最初は登録者の確保と増加なので順調な滑り出しではあった。

 そして、やはり低運調や不運になるとなかなかリカバリーができないという現実もはっきりした。

 そのため、このサービスを利用した人からは好評をもらっている。

 彼自身の運勢もしばらく好調の状態で安定していた。


 しかし――


 今日の自分は運が悪い。

 彼は自身のバーチャル空間に届いた通知を前に、眉をひそめた。


 恋愛運:平凡運

 仕事運:不 運

 対人運:安定運

 金 運:低調運

 健康運:低調運

 自然運:凶 運


 すこぶる運がない。

 特に自然運。それは、今までに見たことがない運勢だった。詳細を確認してみると、何やら大災害に巻き込まれる可能性があるらしい。アドバイスは自分が安心していられる場所にいること。避難の必要はないようだった。

 とりあえず、いつものように全国規模の占い結果も確認してみる。


『本日の国民全体の総合運としては不運、何らかの異常事態が起こる可能性があります。個人の力では対応しきれないこともありますので、幸運調や好調運の方の助けを得るようにしてください。各予報についてはそれぞれの担当省庁で随時案内しています。落ち着いて行動してください。――繰り返します――』


 未曾有の災害でも起こるのか? そう不安を掻き立てられるような状態だった。


 ピロン


 通知音がして、彼はその通知を開く。


「在宅勤務承諾書……出勤はするなということか」


 だが……と彼は別のメールソフトを睨む。

 それは幸福派遣依頼のメールを受送信しているソフトだった。受信箱には次々とメールが舞い込んでくる。全国規模の不運が発生している状態では、基本的に不要不急の外出を避けるよう通達されるものだ。しかし、そうはいかない業種だってもちろんある。そういったところからの依頼が止まない状況だった。

 仕事運の“不運”をひしひしと感じる。


「とにかく、幸運派遣の手配ができるかどうかだ――」


 派遣登録をしている人達の運勢を確認していく。会社から在宅勤務承諾書が来ていて良かった。これに記載のあるパスワードが分からないと社のデータにアクセスできないのだ。


「チッ……マジか……幸運がゼロだって!?」


 プルルル……

 今度は電話がかかってきた。彼は苛立ち、前髪をかき上げながら電話に出る。


「もしもし、渡会です」

『あ、渡会さん! すみません、仕事の方、どうなっているんでしょうか?』

「……依頼は多いんだが、幸運持ちの登録者がいなくて派遣ができない状態だ。今は勤務時間のはずだが、君はどこにいる?」


 受信箱に溜まっていく一方の依頼メールを見ていないのか。


『あ、今日は私、自然運が凶運なんて出ているせいなのか、家の方ではネットワーク系が全滅でして。ここまで来てなんとか電話だけはつながるみたいで』

「自然運の凶運は僕も同じだ」

『そ、そうなんですね……』

「まぁ、どんな不幸に見舞われるかは人それぞれだからな。それより、今日は幸運派遣の仕事はできないから、他のタスクを消化するようにしてくれ」

『はい! ……あれ? 何か、昼間なのに流れ星が……』


 通話を切ろうとしたとき、礼宮の呟きが聞こえ、彼は手を止めた。


「何を言っている?」

『星じゃない? え、火球……? ちが、これって、いんせ――』

「おい、礼宮? おい……」


 何が起こったのか分からず動揺したまま、とりあえずバーチャル空間からのログアウトを進める。その瞬間、彼の意識はなくなった。



◆◇――――――――――◇◆


前話から引き継いだ要素:宇宙の力


運勢

星座と血液型にその他のパーソナルデータを登録しておけばその人だけの運勢を割り出せる。このパーソナル運勢は精度が良く、そのアドバイスに従って行動すれば良い日になるという。


宇宙からのエネルギー

落下地点から離れていれば衝撃のタイムラグがある。逆に、近ければ衝撃の大きさは……。

もちろん、落ちてきたものの大きさにもよるけれど。


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