第17夜 鳥獣戯画
※フィクションです。
「今週もやってきました“うちのカワズ能力”! 今日はどんなびっくり情報が飛び出すのでしょうか?」
ここは録音スタジオだ。歌やラジオ、映像のナレーションなど音声の収録に使われる。テレビ局とかではないのだが、本格的な機材があるのでメディア系の仕事をしている人はよく利用している。
僕は相棒のもっぷさんと一緒に運営している『カワズちゃんねる』の収録に来ていた。
「今日はなかなか面白いところからのお手紙をもらっていますよ」
「おお! 時々くるファンレター。私、毎回楽しみにしているんですよね。ちなみに今日の手紙のジャンルはどっちなんですか?」
「もちろん、カワズの方ですよ」
「チッチッチ。音だけだとリスナーも判断できないんですよねぇ。だから分かりやすい言い方でズバリ! どうぞ!」
「はい、蛙関係のお手紙ですよ」
カワズちゃんねるでは全くジャンルの違う2つのテーマのどちらかを話している。
1つは“買わず”。
生活の知恵だとか、家にあるものだけで代用する家事のお助けスキルや情報を伝えている。
もう1つが、蛙だ。カエルともいう。
これは完全に僕の趣味だった。
ちょっとしたフリートークで蛙の種類だったり、起源だったり、蛙にまつわる豆知識だったりと色々話してみたところ、反響が良かったので正式にテーマに加えた形だ。概ね好評をいただいている。
「蛙ですかー。私、実のところ蛙って好きじゃなかったんですけど、がまさんのせいでどんどん詳しくなっているんですよねー。まぁ、時代的にも大事な情報ではあるので良いんですけども」
「僕ももっぷさんのおかげで家事スキルが上がってきました。ありがとうございます」
「それはどういたしまして……っと、そろそろ本題を進めません?」
「そうですね。それでは、手紙を読んでみたいと思います。えー……?」
「どうしましたか、がまさん」
声はどこか心配そうにしているが、その実、さっさと進めろと視線でもっぷさんが圧をかけてくる。
後で編集するとはいえ、流れの途中でカットするのは不自然になりがちだ。だから言葉を続けるべきなのは間違いない。しかし、それにしてもこれは……。
「手紙の差出人は蛙研究者の疋田博士です。……いいですか、もっぷさん。覚悟して聞いてください」
「ええ、何その前置き。こわ……」
もっぷさんが素を漏らしたところで僕は手紙に目を落とした。
“
がまさん、もっぷさんへ
お久しぶりです、カワズ博士こと疋田です。
本州はそろそろ桜も終わる頃でしょうか。
私のいる継種大島はなんと雨季と乾季が早いサイクルで繰り返しています。流石は宇宙の力、イヴォ・センスのもたらす影響は計り知れないですね。
本題ですが、今回はがまさんがびっくりし過ぎて声も出せなくなってしまうくらいの大・大・大ニャースのご連絡になります。
蛙、兎、猿、狐といった生き物が人間社会に進出するようになって久しいですが、この度なんと、超能力を持ったモリアオガエルさん(仮称)と遭うことができました!
蛙の学校への入学と卒業が叶えば晴れて新種・新職種としての登録になるかと思います!
種名としてはこんな感じになりそうですよ。
種:Z.arboreus.teleport
和名:モリアオヒガエル
ポカポカ陽気に包まれたうららかな春、どうぞ穏やかにお過ごしください。
追伸
近く学会もありますし、がまさんには会うこともできそうです。当家の蛙コーラス隊の歌を聞きながら一杯どうですか?
”
手紙の内容を読み終えたところで今度はもっぷさんがフリーズしてしまった。
「もっぷさん? おーい、もっぷさ〜ん」
「……がまさん、とりあえず一ついいでしょうか」
「はい」
「噛みました?」
「いえ、原文そのままです」
◆◇――――――――――◇◆
前話から引き継いだ要素:超能力
蛙の時代
蛙を筆頭に兎、猿、狐といった生き物が人間社会に進出するようになった時代。特定の学校を卒業することで正式な身分と職を得られる。兎はプログラマー、猿は高所作業、狐は交渉事など、様々な仕事につくようになった。ちなみに蛙はアナウンサーなど声のお仕事が多い。
継種大島
静岡県の御前崎から南に50マイルほどの沖合に突如現れた巨大な島。ガラパゴスを超えた生物の超進化の場となっている。
イヴォ・センス
継種大島の生き物たちが超進化を遂げた原因。隕石によってもたらされた宇宙のエネルギー。
モリアオヒガエル
Z.arboreus.teleport
疋田博士によって世に出された超能力を持つカエル。
“モリアオ日帰る”ということで、遠方日帰りツアーコンダクターという新しい職種が生まれる可能性がある。
青森県が誘致に動きそう。
大ニャース
勢い良くュをャと書く抜群のセンス。