第13夜 サンダーバード
{ねぇねぇ、今日の天気予報見た?}
{見た。晴れ時々雷でしょ?}
{そうそう! 久しぶりかも}
{確かに。お陰で今日は何度も空を確認する日になりそう。あ、アラートはオンにしてあるよね?}
{もち! でも本当に来るのかなぁ}
――サンダーバードなんて
友人のルナとメッセージのやり取りをしながら私は窓から外を見上げた。
今は雲ひとつない晴天だ。風に温度が乗り始めていて、そのうちに新緑の季節になる。
だけど、今日は本当に久しぶりにサンダーバードの予報が出てしまった。この予報が出ると、基本的に屋外での活動はなくなる。急な雷、急な嵐が起こるという予報だからだ。もし屋外での活動中にサンダーバードがやって来て嵐を振りまかれてしまったら、すぐさま近くの建物に避難しなければならない。サンダーバードの雷は生き物を狙うからだ。
「おはよう! ルナ!」
「おはよう、ノア」
駅で友人と合流して学校へと向かう。サンダーバード予報が出ているからか、いつもより空いている気がした。
私はルナと並んで座ると彼女にもたれかかるようにしながら聞く。
「ルナはサンダーバードに遭遇したことある?」
「あるよ」
「えっ! いつ!?」
「8年前」
「えっ、それじゃあ……『豊地の悪夢』の当事者だったの!?」
豊地の悪夢。
8年前のサンダーバード襲来で壊滅的な被害を受けた事件のことだ。当時、サンダーバード予報がされたのが40年ぶりということもあってその危険度が軽視されてしまったことが原因だった。豊地では野外フェスが行われていて来場者数もかなりの数が見込まれていたからか、主催者はフェスの決行を決めてしまう。その結果がサンダーバードによる、優に300人を超える死傷者だ。
「けが人のうちの一人が、私」
「うわぁ……ごめんね、辛いこと思い出させちゃったよね」
「ううん。私は幸運だったから。両親も無事だし」
大陸から程々に離れたここ青峰列島は天気が急変しやすいという特徴がある。この列島にはサンダーバードにまつわるこんな伝説があった。
青峰列島には空に届きそうなほど高くそびえる大樹がある。その大樹の樹冠の部分には、その大樹にしか住まない鳥の番がいた。鳥の番にはやがて卵ができて、雛達が生まれた。
ある日、大樹の麓の城主が兵を率いてやって来る。大樹にしか住まない鳥の雛を食べると長寿になれるという噂があったからだ。
兵たちはえっちらおっちら樹を登り、鳥の巣まで辿り着く。彼らにとっては運のいいことに、巣には雛を守る母鳥しかいなかった。兵たちが弓引けば、母鳥はあっさりと斃れた。
彼らは雛を確保し、ついでに母鳥も持って樹を下りる。
大樹の下でまず1羽の雛を捌き、宴会に流れ込んだその時、突然1羽の鳥が現れるとその場の空を覆うほど大きくなり城主と兵たちを睨みつけた。
『おお、何ということだ。吾子の悲鳴を聞いて飛んできてみれば賤しき人間が来ているとは。許さぬ、許さぬぞ……』
すると、その場にもくもくと雲がわき、激しい雷雨となってしまった。
『未来永劫、許すものか』
その場にいた者達はひとり、またひとりと雷に打たれ死んでしまう。命からがら逃げ出した数人が事の顛末を伝えたところ、残った鳥の討伐隊が組まれることになった。
しかし、討伐隊もまた雷雨には太刀打ちできず敗走することになる。
それからは毎月のようにあの鳥が人里に現れては雷雨を振りまき、残虐に人を殺しては去っていくようになった。
年月が過ぎても鳥の怒りは収まらなかったようで、現代でも時折やって来るのだ。雷雨をもたらす、サンダーバードが。
「あれ、なんか雨が強くなった?」
「っ! ノア、急ぐよ」
曇天の空を見上げたとき、その色がより濃くなったら要注意だ。その瞬間、雲の上には雷をまとうサンダーバードがいて、誰かを仕留めようと狙っているのだから。
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前話から引き継いだ要素:サンダーバード
サンダーバード
未確認飛行鳥類。雷鳥ではない。
雷を操る巨大な怪鳥で、かつて番と雛が受けた仕打ちを今でもなお恨みに思っている。雷雲とともに現れ、雷を撒き散らしては去っていく天災。