第12夜 手紙
国を越え、海を越えるような、遠い空の下にいる相手へのメッセージにはレターバードがよく使われている。
レターバードとは、書いた手紙が鳥の姿になって相手の元へと飛んでいく魔法具の鳥だ。見た目には本物の鳥と遜色ない。特殊な加工がされた紙を使って手紙を書き、その手紙をくるくると巻いて小さくくしゃりと潰すと鳥の姿になるのだ。そして届ける相手を伝えて放せば飛んでいく。
“
愛するソフィーラへ
元気にしているかい? 君が元気であれば、僕も嬉しい。君の笑顔を思い浮かべながら毎日を過ごしているよ。
こちらでは連日雨が降っていて暗いんだ。だけど、君が雨の音は音楽なんだと言ってくれたから例え酷い雨の日でも僕は挫けないでいられる。
いつかの君のひとつひとつの言葉が僕を作り替えて、同時に形作っている気がするな。
君の傍に居られないことがすごく残念だ。
そちらでは酷い雨は降らないだろうけど、どうか気をつけて。
僕の愛はあなたとともに
セイラス
”
ときおり考え込むように動いていた羽根ペンが止まった。
無骨な男性の手がその紙をくるくると巻いて机に立てると、すかさず潰す。
すると、ポンッと軽快な音がしてその場にハヤブサが現れ、軽く首を傾げて男性を見上げていた。
「クウィッシンス国カラカズ通り412、ソフィーラの元へ」
クルルルゥ
レターバードが了承の返事をしたのを確認すると、彼は窓を細く開き、その隙間から鳥を放した。ハヤブサは曇天の空を悠々と飛び、見る間にその姿は小さくなっていく。
それを見送った彼は近くのソファに横たわると腕で自分の目元を押さえ、呻くように呟いた。
「ハヤブサ型で助かったかもしれんな……これがスズメ型だったら届かない可能性が20%ほどあった」
レターバードには種類がある。鳥の種類だ。ハヤブサなどの猛禽類であれば安全性が高く、速く着きやすい。これがスズメなどの小型の鳥だと距離に応じてリスクが変わる。街中程度の距離であればほとんど問題ないが、街を超えると本物の猛禽類に食われたりすることがあるのだ。小型でもハチドリやカワセミなどは特殊な防衛手段を持っているので未着にはなりにくい。また、変わり種としてフェニックス(不死鳥)、サンダーバード、ブルーバード(幸運の鳥)などもいるが、これらは防御魔法がかかっているので間違いなく届く。が、その分高価で派手だったりする。
数日後、彼のもとに1羽の鳥がやって来た。隻眼のハヤブサだ。
“
セイラスへ
心ばかりではありますが、あなたのために贈り物を、届けようと思います。
例え酷い雨となったとしても、音楽の楽しさは変わりません。
それに、じきにあなたの好きな太陽は必ず姿を現すでしょう。
また会う日を願って
ソフィーラ
”
◆◇――――――――――◇◆
前話から引き継いだ要素:手紙
セイラスとソフィーラ
どこか違和感のある手紙のやり取り。恋人なのか、夫婦なのか、それとも別の関係なのか。
ただ、この手紙のやり取りがあったのは“戦時中”だった。
レターバードの鳥種の判別
基本的にレターバード用の特殊用紙に鳥の羽が描かれており、それによってどの鳥になるのか判断できる。
闇市ではこの部分を隠したランダムバードが売られていることもある。
ランダムバードでしか見たことがないという伝説のレターバードは、まさかのダチョウ型。
――どうやって飛ぶの?
――もちろん、走って届けるんです。