第11夜 ポスト
一人一バーチャル空間。そんな時代になった現代、アナログの情報伝達手段は終焉を迎えようとしていた。
バーチャル空間とは、仮想現実のことを言う。コンピュータなどのデバイスを通してアクセスできる個人的空間だ。そこでは様々な情報のやり取りをすることができる。日々のニュースや新聞などもこのバーチャル空間に届くようになっている。
もちろん、これが可能になったのは国が強く推進してきたからだった。
2X42年 紙媒体の電磁的提供義務化へ
2X43年 電子新聞法策定
2X45年 電子書籍法策定
2X48年 紙新聞の完全撤廃
2X50年 書籍の完全バーチャル移行
2X50年 ペーパーレス推進
2X52年 一般郵便のバーチャル移行
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(報道番組の音声)
『2X52年4月より移行開始予定の一般郵便ですが、都内では抗議のオンラインデモが行われました』
「あら、とうとう普通の手紙までバーチャル化するのねぇ」
「いや、まだだからね。ほら、抗議してるとこじゃん」
「ああ、そうね。でも、電子書籍だっていろいろ騒ぎになったのに結局、決行されちゃったじゃない」
今では書籍は電子書籍のみとなっている。電子書籍法施行以前に刊行されていた紙書籍については個人の間での取引のみ可能となっていた。もっとも、運送料の大幅な値上げが続いたことにより、売るにしても利が薄く、滅多に見られない。
紙書籍については本という形が良いのだという意見もあったのだがバーチャル空間の中であれば本という形でも見られるということで抗議が封じられていた。
「だからこそ、最後の紙媒体である郵便はせめてアナログ手段が残っていてほしいってことでしょ?」
「そうねぇ……ラブレターとかはやっぱりデジタルよりも手書きの紙のほうが心がこもっている気がするものね」
「なっ、そっ、それはそうね!」
「あなたも渡していたものねぇ。ほら、〇〇くんだっけ?」
「何で知ってるのお母さん!?」
「ほほほ」
しかしながら、これまでの例に漏れず、一般郵便についてもバーチャル化が決定してしまった。それに伴い、各地に設置されていたポストも撤去が決まる。
有形郵便取り扱い終了日までに郵便社は一つのキャンペーンを実施した。
それは、“未来への配達キャンペーン”。宛先の個人番号の明記を条件に、50年後までの未来の配達日を選べるキャンペーンだ。
このキャンペーンには多くの人が参加し、ここ数年の有形郵便取り扱い量を上回っただけでなく、有形郵便廃止が惜しまれるまでになった。
2X55年 一般郵便廃止
結局、有形郵便の廃止は免れなかったが、最後のキャンペーンによりそこから50年間、手紙やはがきといった郵便物が存在感を示し、過去のものになることはなかった。
ちなみに、この未来配達キャンペーンに投函された手紙のおよそ2割は拝啓“から始まっている可能性が高いという。
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前話から引き継いだ要素:ポスト
なぜ”拝啓“?
手紙の書き出しと言ったらやっぱりコレ!
合唱曲でよく見たあの曲は不朽の名曲となり、この時代でも親しまれている。
バーチャル時代のラブレター
やっぱり紙がいい。
紙のほうがドキドキする。
そんな意見が占められる告白ツールのこと。
あらゆる情報が仮想空間でやり取りされるようになったことで、外に出なくても学校に通うシステムを取れるようになった。しかし、学校とは社会性・協調性を育む場所でもあり、メタバースでは実質的にそれを叶えられないとして、7割の学校は実際に通う場所を用意している。そこではアナログなやり取りが見られ、ラブレターもその一つとなっていた。
タップ(クリック)して書いて読むデジタル手紙よりも自分の手で書いて相手に開いてもらう有形手紙の方がドキドキする・ワクワクすると評判。