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第1夜 沈丁花

短編集です。

思いつくままに書いているので物語の舞台は様々。

一話一話は夜寝る前にさっと読める程度の長さ(1000〜3000文字)。

ただし、夢見が悪くなりそうな終わり方が多数なので、自己責任でご覧ください。


 何だろう。この花は。

 私は腕の中にある植木鉢をまじまじと見つめる。これは朝顔……いや、違う。紫陽花みたいだ。小さい花が集まって咲いている。けれど、紫陽花にしては葉が細い。


 それに、ここはどこだろう。

 不思議なことに、見回してみれば、景色がはっきりしていく。まるで私の視線が景色を作り出しているかのようだった。

 そうして一周してみれば、カチリと景色が固まったような感じがした。パズルのピースをはめ込んでいって、完成と同時に描かれた絵が滑らかに動き出したかのような、そんな感じだ。


 私が今いる場所はどうやら公園のようだった。薄暗い、夕方の公園。夕方ならばまだ遊んでいる子どもや学校帰りの高校生、買い物に忙しなく移動している主婦、仕事帰りのサラリーマンもいそうなものだが、誰も居なかった。人の気配もない。


 私は途方に暮れていた。

 何もかもがわからない。

 なぜ、紫陽花みたいな花が咲いている植木鉢を抱えているのか。

 なぜ、誰も居ないし、車さえ通りかからないのか。

 なぜ、私はここに居るのか。


「あのー、スミマセン」


 ふっと声を掛けられて私は振り向いた。

 今の今まで人っ子一人いなかったこの公園に誰かがやって来たのか。


「何か困っていることはありませんか?」


 そう話しかけてきたのは、服がくたびれている男だった。燕尾服と白衣を掛け合わせたような不思議な上着を着て、シルクハットと言うのだったか、あんな形の帽子を被っている。そのシルクハットにはなぜかゴーグルを引っ掛けてあり、全体的に怪しい風貌だった。


「ありませんか? 困っていること」


 男は私の返事を待っているようだった。


「あ……コホン、私は、なぜ自分がここにいるのか分からないのです」


 声を出そうとして、思いの外音にならずに驚き、一度咳払いしてから男に不安を訴える。


「そうでしたか。それはご不安でしょう。ですが、大丈夫ですよ。あなたがここに居る理由は初めからあなたの手の中にあるんです」

「手の中……そうだ、この植木鉢も関係あるのでしょうか」

「植木鉢というより、花の方だと思います。その花は沈丁花ですね。何かお祝い事でもあったのでしょう」

「沈丁花? でも大きさが……それに祝い事……あっ……ああ! そうだ。あの日は、昇進と、結婚記念日で……私は――ここで刺されて、そのまま……」


 あの日の出来事の記憶が私の中で弾けた。

 通り魔だったのだと思う。私は彼を知らなかった。見知らぬ男がこの公園で、この場所で、たまたま歩いていた私を刺したのだ。

 最期の記憶は熱いような、鈍い痛みと自分の中から何かが流れ出ていく不快感……。

 腕の中から植木鉢が落ちる。


「おっと、この沈丁花はいただいていきますね。代わりに種を預けます。それが育った頃にまた会いましょう」


 シルクハットの男がビー玉のようなものを取り出すと、沈丁花はそれに吸い込まれるようにして消えてしまった。

 そんな不思議な出来事を目にする人間はこの場所には誰もいない。

 男はそのまま軽い足取りで去って行った。


◆◇――――――――――◇◆


沈丁花

春先に咲く花らしいです。

不意に浮かんだのと、調べてみたら(作成)時期的にぴったりな感じだったのでそのまま採用。

ただ、サイズ感は実物と話の中では全然違います。腕に抱えられるサイズってあるのかな……。

そこのところは魔法的なアレソレということで……。

花言葉は「栄光」「不死」「不滅」

物語の中では怖い意味になってしまっています。

種を渡された男性はいつまで苗床となるのでしょうか。


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