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第041話『4月10日』


 一週間以上経つのに、何の成果も無いというのは地味に心にくる。

 ただ一晩じっくりと考えて、己なりの推理というものを組み立てた。探偵からしたら推理と呼ぶのも烏滸がましいものかもしれない。しかし、ここに探偵がいないのだから己がやるしかなかった。

 そう、前回までは探偵役がいた。そして管理人がイマイチ覚えてないトリックで見事に真犯人を暴いたのだ。

 この際、どういうトリックだったのかはいい。大事なのは探偵役が小難しいことを言っていた、という方だ。

 仮に分かりやすい奴が犯人だったとする。例えば、今回ならば冒険者か管理人だ。それならば、相手を追い詰めるのも難しくはない。もっと簡単に自白させられただろう。

 それなのに探偵はそうしなかった。つまり、それだけ難しいトリックか何かを使ったのだ。

 だとしたら、犯人は意外な人物でなければならない。


「シスターか、商人か、兵士ってことになるよな」


 自室でそう呟く。私物こそ増えないものの、もう一週間以上ここで寝泊まりしているのだ。いい加減、自分の部屋のように思えてきた。

 聖女を見つけるという目的がなければ、あるいはここで生活して良かったかもしれない。


「とにかく、犯人を見つけないと」


 この三人は一緒に屋敷に入り、動機も全く無い。疑惑からも遠かった。ここが犯人だったなら、己は間違いなく驚くだろう。

 だからこそ、今はこの三人を疑うべきではないか。

 勿論、今回は特別にシンプルな人物が犯人でしたというパターンもある。何が面白いのかは知らないが、相手は不思議現象。こちらの感情や理屈は通用しない。

 それでも過去二回がそうであったのなら、今回もそうである確率は高い。


「とりあえずはシスターかな」











 まず容疑者の中で女性が一人だけというのは怪しい。具体的に何が怪しいのかは説明できないが、まあ怪しい。

 部屋の中に入ると、彼女はベッドの上に腰掛けていた。


「もしかして東雲さんも犯人探しをしているのでしょうか?」

「はい。その、また事件が起きるというわけじゃないんでしょうけど。それにしたって、見つけておいた方がいいんじゃないかと思って」


 数日経って何も無いのだから、連続殺人ではないだろう。ミステリなら、もう三人目か下手したら解決してもおかしくないペースだ。


「その言い方だと、シスターも探しているんですか?」

「はい。罪を犯したのなら、それは懺悔しなくてはなりません。ですが犯人は隠匿を続け、自らの過ちを隠そうとしている。それは許されることではありませんから」


 動機はどうあれ、真実を見つけようとしているのは事実。いや、あるいはそれも偽装工作なのか。犯人が犯人探しをするケースも、結構あると聞く。自分が疑われない為だったり、必死に探している人を間近で観察する為だったり。

 理由は様々だが、絶対に無いとは言い切れない。


「ちなみにシスターは誰が犯人だと思いますか?」


 このままでは、らちが明かない。踏み込んだ質問もしなくては。

 シスターは一瞬驚いたような表情で固まり、すぐに困ったように微笑んだ。


「分かりません。生憎と私の適性は人様を探るものではないので。色々と考えてはみているのですけど、結局分からないという結論に至りました。勿論、諦めるつもりはありませんよ」


 それが一般人の回答だろう。色々と可能性は口に出せるものの、じゃあどれが真実なのかと言われたら口を閉ざす。誰が見ても明らかな状況じゃない限り、せいぜい場の空気に流されることしか出来ない。


「それなら、何か気づいたことは? 何でもいいんです」


 だが、こっちは諦めるわけにはいかないのだ。ルールは分かっている。ならば、後はゴールを目指すだけなのだから。


「……正直、誰がやっても不思議じゃないと思います。冒険者の方は怪しいですし、管理人さんも持ち主ですから。色々とやりようはあります。あなたも……その、一人でこの屋敷にいたわけですから」


 その点に関しては何の言い訳もできない。


「それに私達も、殺した後でこっそりと屋敷を出てまた入ろうとした。そう言われたら何も言えません。ここに来たのが初めてじゃないと証明することはできませんから」


 誰もが疑わしく、誰もが決定的ではない。

 己と同じ結論に至ったというわけか。


「ご期待に応えられず、申し訳ありません」


 そう言って、シスターは悲しそうに俯いた。











「正直、私はもう犯人は誰でもいいと思っているんですよ」


 食堂にいた兵士はそう答えた。

 何とも衝撃的な発言だ。管理人あたりが聞いたら、じゃあお前が犯人じゃないかと疑い始めそうな気もする。いや、管理人ならそれでも冒険者を疑うかもしれない。


「というと?」

「最初は身構えていました。誰が犯人か分かりませんし、次に誰を殺すかも分からない。あるいは自分が殺されてしまうかもしれないとね」


 コップの水を飲み干し、一息つく。


「だけど、どうやら犯人は次の殺人を犯すつもりはなさそうで。おそらく、あの被害者に対して怨みか何かがあったんでしょう。それで突発的に殺してしまったと。そして今はこの屋敷の中で普通に暮らしている。もう、それでいいんじゃないですか」

「…………」


 兵士の言いたいことも理解できた。

 犯人探しは、あくまで次の蛮行を防ぐ為のもの。連続殺人鬼を野放しにしたまま生活するなど、正気の沙汰ではない。どこかの部屋に閉じ込めなければ、安心して寝ることすらできないだろう。

 だから犯人を見つけなくてはならない。

 しかし、犯人にとってもう殺人が終わりだとしたら。無理をしてまで見つける理由もないのではないか。このまま放置して、吹雪が止まるのを待てばいい。

 国や民を守る兵士の発言とは思えない。思えないのだが、こんな状況では仕方がないともいえる。


「吹雪が止んで、それで皆は解散。私は閉じ込められていたことを報告して、それで終わりですよ。こんな閉鎖された空間の中で、無理をしてまで犯人探しをする必要はない。それが私の意見です」

「手柄を立てれば戻れるかもしれませんよ?」


 兵士は皮肉げに笑みを零した。


「これは私の自粛期間みたいなものですから。手柄を立てたところで、すぐ戻してやろうという事にはなりませんよ。解決しようとしまいと、しばらくここで職務を全うしなければならない。だったら、まあ良い休暇みたいなものだと思わないと」


 既に彼は色々と諦めてしまっているようだ。説得しても無駄だろう。

 こんな無気力兵士が人を殺せるものか。

 いや、あの陰陽師がターゲットだった。それを殺したことでやる事がなくなり無気力になった。そう解釈することもできる。


「聖女様がいたら話は別でしょうけどね。私も全力で護衛対象をお守りしていましたから。殺人犯を野放しになどしていなかった」

「そもそも、聖女様がいたら復活していたのでは?」


 己をそうしたように、あの陰陽師も蘇生すればいいだけだ。

 まあ、かなり嫌っていたようなので。血を与えるかどうかは謎ではある。


「ハハハ、それはありえませんよ。確かに聖女様にそういう力があるのは事実です。しかし、無暗に血を与えるような真似はされません」

「ど、どうしてですか?」


 不思議そうな顔で兵士は答えた。


「血を与えれば蘇生だって可能かもしれません。しかし聖女様の血を吸収してしまったら、その力の一部も吸収してしまうのですよ。そんな真似、軽率にやるような御方ではありません」


 ふと己の適性を思い出す。健康魔術。

 いやまさか、あれは聖女の力の一旦だったのか? 確かに人を癒すというか、予防するような魔術ではあるけれど。

 だとしたら、元々の己の適性はあの意味不明な二つだけだったということになる。


「それに、聖女様がいたら守るも何もありませんよ。彼女は我々には見えない、不思議なものも見えるとのことでしたから。きっと犯人も初日で言い当てていたでしょうね」


 兵士は何かを言っているようだが、己の頭には入ってこなかった。

 混乱している。非常に混乱している。

 見えないものが見える。なるほど。窓の外の白い女は、まさにその代表例だろう。

 あれも血を与えられたことによる弊害なのか。

 だとしたら、犯人もついでに見えて欲しかった。そうすれば速攻で解決できたというのに。


「あの、大丈夫ですか?」

「え、ええ。ちょっと気分が悪くなっただけで。お気になさらず」


 己だけが、あの白い女を見ている。その疑問は解消された。

 まあ、これは事件とは無関係の現象だろうが。

 少なくとも、この屋敷で己にしか見えていないものは他に無い。


「そうもいきませんよ。あなたがいなかったら、誰が食事をつくるというんですか」


 不思議な事を言う兵士だ。誰も何も、そもそも己は作ってなどいない。

 今日も昨日も、そして明日も。

 料理を作っているのはシスターじゃないか。


「私は倒れても問題ありませんよ。料理はシスターの担当ですから」

「……シスター?」


 何故、そこで首を傾げるのかが分からない。

 シスターはシスターだ。

 そう、何故か一人だけ名前を知っている。

 あのエクレシア。


「でもシスターと挨拶とかしてましたよね!」

「え? した記憶はありませんけど」

「商人さんと一緒に来たじゃないですか。ほら、三人で!」

「いえ、あの、私が屋敷に来た時には商人と二人だけでしたよ?」


 己にしか見えていないものは、どうやらもう一つだけあったらしい。


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