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第040話『4月09日』


 探偵役がいないのなら、己が探偵をやるしかない。一晩経てば、そう開き直ることもできる。

 ショックで若干寝不足にはなったが、いないのだから仕方ない。

 とにかく真犯人に自白させればいいのだ。

 容疑者は五人。管理人、冒険者、シスター、商人、兵士。さすがにここで己が犯人でした、という展開は絶対に無いので除外する。

 自殺という線も考えたものの、じゃあどうやって解決しろという話だ。自白すれば吹雪は止むのに、自殺なら誰も自白できない。それに陰陽師に探偵役と被害者と犯人を押し付けるのは、さすがに担わせ過ぎだ。

 あくまで自殺は最後の可能性、ぐらいに思った方がいいだろう。


「となると、五人のうちの誰かってことになるけど。まあ、一番怪しいのは冒険者の彼だろうな」


 犯行現場に血まみれの包丁を持って立っていた、レベルの怪しさだ。己が警察官ならば、速攻で逮捕していただろう。

 ただ、あくまで疑わしい止まりなのが難点だ。どれだけ疑わしかろうと、それだけで自白するわけではない。実際管理人が何を言おうと、彼はこれまで罪を認める素振りすら見せてこなかった。


「とりあえず……死体でも調べてみるか」


 生理的に診たくはなかったが、そうも言っていられない。

 己は陰陽師の死体のある部屋へと足を向けた。











 何も分からなかった。

 そもそも己に検死や医学の知識は無い。どれだけ死体を見た所で、死亡推定時刻が分かるはずもなかった。

 それにあまり直視もできない。腐敗こそしていないものの、死体は死体。誰が好き好んで、こんなものを見たがるものか。

 ただ本当に死んでいる、というのを確認できただけだった。


「やっぱり誰も返り血を浴びていないのが気になるんだよなあ。魔術的な何かを使えば出来るのか? うーん」


 それならそれで、床に不自然な飛び散り方をしそうなものだ。

 飛び散ったけど着替えました、というのが一番自然ではある。ただ冒険者の彼に、そこまでの余裕はあるまい。死体の側に立っていたところを管理人に発見されたのだ。

 殺して着替えて、わざわざ戻ってきたのだとしたら意味不明すぎる。

 勿論、何らかの理由があって戻ってきたところを目撃されたというパターンもあった。ただ、それはシスターたちが陰陽師を殺した後、なんか戻ってきたというのと同じようなもの。


「鍵を握ってるのは、冒険者だと思うんだけど。仮にそうだとしたら素直に話してくれるか?」


 いや、駄目で元々だ。

 永遠に閉じ込められるよりも遥かに良い。多少ギスギスしたところで、どうせ吹雪が止めば全部終わってしまうのだから。下手な配慮は捨てて、真犯人を見つけることに専念しよう。

 己は冒険者の部屋の扉を叩いた。今日はまだ管理人とやりあっていないらしい。


「お? どうした? 言っておくけど、今日はもう俺は外に出ないからな。あのジジイがいる限りは、絶対に!」


 どうやら泥棒であることを告白し、それはもう盛大に疑惑が深まったらしい。

 無理もない。管理人は最初から彼にロックオンしているのだ。そこで犯罪者ですと告白してきたのだから、それみたことかと鬼の首をとったかのように騒ぐだろう。


「いえ、もう少し詳しい話を聞かせて貰えないものかと。疑ってるわけじゃありませんけど、誰が殺したのか分からないと管理人さんも納得しないでしょう?」

「納得ねえ。犯人が分かっても俺を疑いそうな勢いだけどな」


 それに関しては何とも言えない。閉じ込められて一貫して、冒険者を問い詰めてきたのだ。今更別に犯人はいますよと言われても、素直に信じてくれるかどうか。

 さすがにこの吹雪が止めば、信じるしかないだろうが。


「それに話って言っても、全部話しちゃったから。これ以上何か喋れって言われても、何も話せるようなことは無いって」


 屋敷に入る前も、入ってからも、入った後も。何をしていたかは全て聞いている。

 それ以外は大体、管理人と言い争いをしていたぐらいだ。

 目的にしたところで、泥棒するつもりだったと言っているし。


「あ、じゃあ管理人さんに見つかった後については? 兵士の方々が来ましたよね? その時の事について話して貰えませんか」

「ああ、つっても俺さ、あのジジイとやりあってたから。あんまよく覚えてないんだよねえ。誰か来た事は知ってるけど、別にそんな怪しい連中でもなかったし」


 それよりも目の前の管理人とどう説得するか。そこだけに集中していたらしい。

 彼の立場からしてみれば、よく分からない三人組よりも自分を問い詰める管理人だ。そこに全力投球するのも当たり前の話である。


「んで、なんか誰かやってきて倒れて。そこでさすがにジジイも慌てて、一旦お開きになったわけよ。そういう意味ではあんたには感謝してるよ。五月蠅いのを引きはがしてくれたからな」

「ハハハ、それはどうも」


 乾いた笑いを返す。我ながら、情けないのであまり思い出したくはない。


「ただ、不思議なんですよね。ずっと管理人さんと言い争いをしていたんですよね?」

「ああ。お互いお前が犯人だろ、でヒートアップしてたからな」

「だとしたら、どうして兵士の方々はその声を聞いていなかったんでしょうか。いえ、正確には途中から聞こえたので部屋に入ったそうなんですけど。ずっとヒートアップしていたんでしょう?」


 兵士たちの話を信じるのなら、二人は一旦黙っていたが途中から言い争いを始めた事になる。結託していなければ、到底不可能な話だ。

 冒険者は不思議そうな顔をして、首を捻る。


「はあ? 俺達は普通に言い争いしてただけだから……まあ、確かに屋敷に入ったならすぐに気づくはずだよな。別に声を潜めてたわけでもねえし」


 彼の様子を見る限り、言い争いをしていたのは事実らしい。となると嘘を吐いていたのはあの三人ということになる。

 だが、そんな嘘を吐いて何の意味があるのか。

 自分たちは怪しいですと、わざわざ宣伝しているようなものだ。


「…………あ」

「何か思い当たる節でも?」


 両手をポンと合わせる冒険者。


「そうだ、そうだ。俺、これ持ってたんだ」


 そう言って取り出したのは、変な猿の置物だった。両手で耳を塞ぐようにしていて、どこかの観光地で見た記憶がある。


「なんですか、これ?」

「盗みに入った先で手に入れたんだよ。こいつの頭を叩いてやると、しばらく外に音が漏れないから重宝してるんだ」


 なるほど。泥棒にとっては垂涎のアイテムだ。


「あの日。忍び込む時にコレ使ってたわけよ。だから俺とジジイの怒鳴り声が聞こえなかったんだろ。んで、効果が切れたから聞こえて、部屋に入ってきたっつーわけよ」


 それならば確かに筋は通る。

 黙っていたのではなく、怒鳴っていたけど声が消されていた。だから三人は気づかなかったのだ。

 それを使えば、殺しても外に声が漏れることはない。と管理人なら叱責の材料にしそうだ。


「大体、ここはジジイが管理する屋敷なんだから。俺がうっかり殺したっていうより、ジジイが計画的に殺したって方が納得できんだろ。それで俺に全部罪を擦り付けようとしてる。それで決まりだろ」


 苛立たし気に冒険者はそう吐き捨てた。本当に彼が潔白ならば、執拗に問い詰めようとする管理人の存在は鬱陶しい。いやむしろ、疑わしいまである。

 それに確かに、管理人ならば犯行は容易い。自分が管理する屋敷だ。細工も自由だし、誰にも見られなければ事件そのものを無かったことに出来るかもしれない。

 問題は、管理人が不思議現象について知っていたこと。無論、あれも嘘かもしれない。二度あった殺人事件だって、この状況では調べることなど出来ない。だから嘘を吐いた可能性もある。


 だが現実に、こうして己たちは屋敷に閉じ込められていた。いくらなんでも、こうも何日も途切れず吹き続ける吹雪があるだろうか。南極じゃあるまいし。

 仮に管理人が犯人ならば、わざわざこの不可思議現象を起こしたことになる。あるいは知らずに起こしたのか。それならば、どうして気づくことができたのか。

 やはり、管理人がここで事件を起こしたと考えるのも無理があった。


「まあ、なんにせよ外に出られるようになったら全部解決だろ。ちゃんと調べたら、俺がやってないってのは明白だからな」

「そうですね」


 一番良いのは、吹雪が晴れることだ。こんな事件、国が正式に調べればいいだけのこと。

 乏しい材料を頼りに、犯人を当てるなど探偵にしか出来ないのだから。

 唯一、探偵っぽい動きをしている己の出した結論は、全員犯人っぽくないという。モブの一般人が考えそうなものだった。


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