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第037話『4月06日』


 吹雪は止まない。真犯人が自白しないのだから仕方なかった。

 管理人は今日も必死で冒険者を問い詰めている。ただ、さすがに疲れも溜まって来たのか。今日はお互いとも覇気がない。

 そして己も、さすがにこのままというわけにもいかなかった。これが人為的な現象だとしたら、おそらく根負けはないだろう。本当に真犯人を見つけなければ、永遠にこのままという事もありえる。

 自力で犯人を見つけなくてはならない。


「おはようございます」

「ああ、おはよう」


 シスターと挨拶を交わしながら、こちらに兵士がやってくる。

 まずは一人ずつ話を聞かなくてはならない。商人は相変わらず部屋に籠っているし、冒険者の疑心暗鬼は増していくばかりだ。話しやすい兵士に色々と質問しておくべきか。

 まあ、彼はシスターや商人と共に屋敷を訪れたわけで。犯人とは到底思えない。


「おはようございます」

「……ああ。おはよう」


 怪訝そうな顔で挨拶を返された。はて、何か変わったことを言っただろうか。

 少なくとも外見におかしな所はないはずだ。鼻毛でも出ていたかもしれない。


「あの、気を悪くされたら謝りますけど。この屋敷に来た時の話を聞かせて貰えませんか?」

「ん、君も犯人探しかな? 気持ちは分かるけどね。無視しようとしても、なかなかアレは無視できるようなものじゃない」


 実際は外に出る為だが、素直に説明する必要もなかった。どうせ信じない。


「とはいえ、私達の話はあまり参考にならないと思うよ。来た時には、もう管理人さんと冒険者の彼がやりあっていたからね。ああ、当然屋敷の中に他の人はいなかったよ」


 シスターの証言とも一致している。

 ただ、どうにも引っ掛かる部分もあった。


「ええと、二人の言い争いは気にならなかったんですか?」

「どういう意味かな?」

「いえ、もしも屋敷に入った時からやり合っていたのなら、かなり大声だったんじゃないかと。それなら、まずその部屋に入りませんか?」


 小声で言い争いをしていたとは思えない。だったら、屋敷中に響き渡るような口喧嘩だったはずだ。実際、あの二人が争うと部屋にまで微かに届くぐらい大声で罵り合っていた。

 それならば、真っ先にそこの部屋へ行こうと思うはず。とりあえず屋敷中を探索してみようか、とはならない。


「ふむ、正確に説明していなかったこちらも悪いんだけど。屋敷に入った時には、まだ言い争うな声は聞こえてこなかったんだよ。だから、私達もまず探索しようという事になった。最悪、ここで寝泊まりする事になるだろうから」


 外は猛吹雪。そちらに出ていくという選択肢は無い。寝泊まりする場所を調べようというのは、なんらおかしな事ではなかった。


「じゃあ、探索が終わった時に言い争いを始めたと。そういうことなんですか?」

「まあね。おかしな話だとは思うけど、そうなのだから仕方ない」


 管理人は冒険者を見つけ、そこで問い詰めた。だとしたら、二人して黙っていたとは思えない。ましてや調査を終えた瞬間み、言い争いを始めたなど。まるで二人が見計らっていたかのようだ。

 あるいは、兵士たちが嘘を吐いているのか。そんな嘘を吐く理由は思い浮かばないが。


「いずれにせよ、一番怪しいのは冒険者の彼ですよ。犯罪者であることは、間違いないでしょうから。問題はどういう犯罪を犯したのか、さすがにそこまでは思い出せないんですよねえ」

「犯罪者とかではなく、他の場所で見た事があるとか。そういう可能性はありませんか?」


 兵士の記憶に残っているのだから、犯罪者に違いない。そう言われると否定では出来なかった。

 ただ記憶は曖昧なもの。あまり信用するものではない。

 勘違いということもあるのだ。


「そうですね、無いと思います。知り合いならば覚えていますし、少なくとも直接会ったという経験はありません。どこかで顔をちょっと見た程度なのですから、やはり犯罪者なのでしょう。軽い犯罪なら、そこまで必死に覚えたりはしませんから」


 微かに記憶に残っていた、ということか。

 残念ながら、彼を擁護するだけの証拠も根拠も無い。それに管理人の話を信じるのなら、最も怪しいのは彼なのだから。


「大変なお仕事だったんですね」


 適当に励ましの言葉を送ると、途端に兵士の表情が曇った。

 悔しそうに床板に視線を送っている。


「ええと、何か失礼な発言をしてしまったようで」

「あ、いえいえ。実はその、この屋敷に訪れた理由に繋がるんですけど。私、僻地に飛ばされてしまいまして」


 転勤ということだろうか。口調から察するに、厄介払いともとれる。


「こうして、あちこちの使われていない屋敷などをチェックしていたんです。盗賊や野生生物の住処になっていないかどうかを」

「それは……大変ですね」


 何と言っていいか分からず、適当に励ます言葉しか出てこなかった。

 苦笑を浮かべながら、兵士は続ける。


「これでも剣術と護衛の適性を持っていましてね。元は結構な役職を貰っていたんです。しかし失態というか、ちょっと満足に仕事をこなせなくて。それで僻地で頑張ってくれと、そういう感じでして」


 まさに誰かを守る為に生まれてきたような兵士だ。

 そんな彼が仕事をこなせなかったとは。よほど難しい仕事だったのだろう。


「参考までに、どういう仕事だったんですか? 勿論、言えないのなら構いませんけど」

「……聖女様の護衛ですよ」


 思わぬ単語に言葉を呑む。

 まさか、こんな所で聖女の関係者に出会うとは。

 帝国に来ているという話はあったが、あくまで噂。どこまで信じられるか疑問ではあった。


「勿論、正式な護衛というわけではありません。あの御方はどこの国にも属さない、自由な方ですから。あくまで帝国に訪れた際に、その身を守る為の一時的な護衛です」


 どこにも属さないということは、後ろ盾がないにも等しい。中立だからといって、誰からも狙われないわけではなかった。むしろ、だからこそ狙ってくる奴は大勢いるのだろう。

 帝国で何かあったとなれば、世界各地から責められるのは帝国だ。なんとしても聖女を守れ、というのは理解できる。


「そうなると、彼女を守れなかったということになりますけど。何かあったのですか?」


 これから会おうとしているのに。いや、それ以前に彼女に何かあったというのか。


「いえ、何も起こりませんでした。なにしろ、私は彼女がどこにいたのかも把握できなかったのですから」

「え?」


 自嘲的な笑いを浮かべ、窓の外を見る。

 彼の心境を表すように、外の吹雪は勢いを増していた。


「確かに一時的な護衛に過ぎません。しかし、護衛対象を見失うなど失格の烙印を押されても文句は言えない。私は一度や二度ではなく、何度もあの御方を見失ってしまったのですから」


 仮に聖女が己の考えている彼女だとしたら、それは仕方のないことだ。なにしろ彼女は転移の魔術を使える。どこまで自由自在に使えるのかは、正直よく分からない。

 だが、少なくとも遠く離れた浮島に出入りできる程度の力は持っている。

 そんな彼女が本気を出せば、護衛の兵士をまくぐらい、どうという事はないだろう。

 励ましの言葉を贈ろうとして口を閉じる。何と言えばいいのか、分からなかった。

 こんな辺境の男から、聖女は転移できるんだから気にする必要はありませんよ、と言われて立ち直る兵士がどこにいるのか。むしろ疑惑を深めるばかりだ。こんな殺人事件が起きている屋敷で、迂闊な発言をするわけにもいかない。


「それは……」

「いいんです。私にも、どこか慢心のようなものがあったのでしょう。素晴らしい適性が二つもあるのだから、誰にも負ける気はしないとね。あるいは、聖女様は私のそんな油断を見抜いていたのかもしれません」


 それはないだろう。どう見ても、彼女は普段の生活から逃げる為に浮島まで転移していた。

 訓戒を与える為とは思えない。


「上司からも、いずれは戻してやると言われていますから。これはあくまで私を諫める為の転属なのでしょう。ですが、護衛として失格だったのは事実。これからは心を改めて、与えられた仕事をこなして……と思った所でコレですよ」

「な、なるほど」


 転属先での殺人事件。さすがに責任問題にはならないだろうけど。

 気分が良いものではなかった。


「でしたら、犯人を暴いて捕まえてやろうという気持ちはないんですか? 手柄を立てたら、もっと早く戻して貰えるかもしれませんよ」

「血まみれのナイフを持って立っていたら、捕まえてやろうと飛び掛かったかもしれません。しかし、誰がやったのか分からない状況ですからね。犯人が見つかるまでは、特にこれといって何もできませんよ」


 どれだけ疑わしい相手でも、疑惑は疑惑。確定したわけではない。

 無実の人間を捕まえるのが兵士の役割ではなかった。

 彼らはあくまで、犯人を捕まえるのが仕事なのである。


「そうですか。あ、ちなみにお知り合いの方とかは?」

「いません。転属して日が浅いもので。こちらで知っているのは同じ兵士ぐらいなものです」


 となると、無関係な人々が集められたと見るべきか。あるいは集まったから始まったと考えるべきか。

 ルール無用で説明も無し。

 不思議物体にも困ったものである。


「……それにしても外は荒れていますね」

「ええ。早く止んで欲しいものです」


 お互いに外を見る。

 どうやら、兵士にあの白い女性は見えていないようだ。

 心なしか、昨日よりも少し近づいているようにも見える。

 まさかタイムリミットではあるまい。そして仮にそうだとしたら、彼女が窓を乗り越えた時。一体何が起きるのか。

 想像するのも恐ろしかった。


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