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僕が特別な人間になった日

作者: 飛鳥湊

あれは、小学生のある冬の日だった。

毎日、何てこともない日常を過ごしていた。

とても平凡な日々でした。


毎朝同じ時間に起床し、ご飯を食べる。

そして、使い古したランドセルを背負って

同じ道、同じ通学路を歩いて学校に通う。

とても平凡な日々だ。


学校では理科や算数などを習い、

4時間目が終わると給食を食べる。

そして、昼休みには友達とサッカーで遊び、

楽しい時間を過ごした。


5時間目の授業が終わり、時間割を見る。

6時間目は国語の授業か。

少し憂鬱になりながら、次の授業の準備をする。


授業開始のチャイムが鳴り終わると、先生が言った。

「今日は物語を読みたいと思います。」

「教科書の204ページを開いてください。」

僕はページを開く。


全員がページを開き終わった後

先生が物語を朗読し始める。


物語を聞いていると、この物語は中々面白く、

興味を惹かれる内容だった。


先生が物語を読み終える。

そして、先生が言った。

「皆さん、物語の感想は書き終わりましたね。」

「今日の国語の授業は宿題を出します。」


僕は最後まで聞かずに

宿題か、面倒くさいな。

などと思っていた。


先生が言った。

「今日の皆さんが読んだ物語を、自分のお母さん、お父さんに朗読してあげてください。」


その言葉を聞いて、僕はピンと来た。


この物語は僕も面白いと思ったんだから

お母さんとお父さんに読んであげたら

喜んでくれるだろうと、そう思った。


帰りの会を終え、帰路に就く。

帰宅している最中も、お母さんとお父さん

どんな顔して喜んでくれるかな。

などと想像し、顔が自然ににやけてしまう。


あの日は雪が降っていて、地面の雪が凍っていた。

足が軽くなる。今なら何処へでも飛べそうだ。


無意識にスキップしている最中に

氷を踏んで転びそうになりながらも、

家の玄関に到着した。


今日はまだ午後4時だし、

お父さんはまだ仕事から帰ってきていない。

だから、一緒にご飯を食べる時にでも

読もうとそう思っていた。


そして僕は家のドアノブを回し

家の中に入った。


「ただいま~」と僕は言った。

返事はない。


返事がない…?


僕はその時気づいてしまった。

自分の両親は「耳が聞こえない」ということに。


僕はリビングへ向かった。

テレビを見ている母親に帰ったことを伝えてから

僕は自分の部屋に引きこもった。


なぜ、母親と会った時に

宿題があると伝えなかったのだろう。


それは、耳の聞こえない母親に

今日は朗読の宿題があるんだ。

だから、僕の朗読を聞いてほしいと、

そう伝えたところで

気を使わせてしまうだけだと思ったからだ。


そして、夕食の時間が来た。

椅子に座ると、テーブルに次々と食事が出され

それを家族と一緒に食べた。


夕食の時、母親と一緒に父親もいた。


三十分ぐらい食べていただろうか

食事の中で、会話は一言もない。

夕食を食べ終わり、食器を片付ける。


結局、父親にも宿題の話はできなかった。


夕食も終わり、本格的に外が暗くなって

窓の外からも光が入ってこなくなった。

部屋の電気を付ける気分にもならず

布団に横になった。


今頃、クラスのみんなは

母親や父親に物語を朗読して、

宿題を終わらせているのだろうか。


なぜ僕はまだ宿題を終わらせられていないのか。

なぜ帰ったあの時、母親に言えなかったのだろうか。

なぜ夕食の時、父親に言えなかったのだろうか。

必死に考え続ける。


ふと思った。

僕は特別な人間なのだろうか…?と

なぜみんなが出来ることが僕には出来ないのか。

それは、僕が特別な人間だからだ。


僕の家は他の人と違う。

親の耳が聞こえない。

だから、宿題をしなくていいんだ。

そう自分に言い聞かせながら、僕は眠りについた。


朝、目が覚める。

毎日の何てこともない瞬間

リビングに行くと母親がいた。

そして、思い出した。


まだ、宿題を終わらせてないことに。

でも母親には言う事はできない。

父親も今の時間はもう仕事に行っているだろうと

そう思い、母親が作ってくれた朝ご飯を食べた。


使い古したランドセルを背負い、通学路に就く。

学校に着き、時間割を見る。

今日も国語があるのか、と思った。


朝の会が終わり

一、ニ時間目が終わる。

僕にとっては一瞬だった。


三時間目は国語か。

そう思って、次の時間の準備をする。


授業の開始のチャイムが鳴り終わり

先生が言った。

「皆さん、昨日出した宿題は終わらせましたか〜?」

「終わらせた人は手を挙げてくださいね〜」


先生は右から順番に

手を挙げているかを確認していく。


そして、左側にある後ろの席まで

見終わった先生はこう言った。

「皆さん、ちゃんと宿題を終わらせてて偉いですね。」

「お父さんとお母さんは喜んでいましたか〜?」


先生の問いに、みんなは元気に返事する。

その返事の中には僕もいた。


僕は宿題を終わらせていなかった。

だが、宿題を終わらせたか?

という先生の問いに、僕は「はい」と答えている


それはなぜか?


「僕が特別な人間だからだ。」

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