第97話.ホリー
リアの完全再生をホリーに施して、3時間ほどが経過した。ホリーが目を覚ましたという一報が遥斗たちに入ると、6人はすぐにホリーの下へと駆けつける。
病室に到着すると、ホリーの仲間たち(兄妹はテレビで見かけていたため、すぐに分かった)が既に来ていた。
こちらに気付いたホリーが声をかけてくる。
『強靭な刃の皆、特にリア。この傷……にまとめてもいいかは分からないが、治療してくれて本当にありがとう』
「いえいえ、同じ冒険者なのですから。助け合うのは当然のことですよ」
『それにしても、すごい魔法だ……傷一つ残ってないし、違和感も無い……』
「ふふ、それはよかったです」
一通り会話をすると、次は無名の兄妹に視線を向ける。
『君らはもしかして例の──?』
「そうだよホリー。彼らが本当のストラ攻略者だよ。あの兄妹がいなければ、僕ら強靭な刃は今生きていない」
一瞬、スーザに正体をバラされたかと思ったが、とても上位の冒険者には知らされているのかもしれない。
とはいえ、後で千里に言及するものが増えたことに変わりないが。
『ダンジョンの中じゃないから詳しくは分からないが、よくても俺と同じくらいに感じるが……』
「あーそれはもしかしたら……っと、これ以上はだめかな?」
「ですです。ホリーさんには申し訳ないですが、プライバシーですので」
『ああ、俺も強要してまで聞くつもりはないぜ。ストラを攻略した、って事実には変わりないからな』
冒険者上位の人は、実力だけでなく、人間性としても素晴らしいものである。
おそらくホリーが感じた違和感は職業によるものだろう。今、兄弟の職業は『剣士』と『魔法使い』。ある程度なら、職業レベルを上げているが、当然『剣聖』と『魔道士』のレベルの方が高い。
ただ、このことを公表すれば、自分たちのペースでダンジョン攻略を行うことが不可能になると考えられる。教えるわけにはいかないのだ。
『……お前たちも、アナスターシャに挑むのか?』
雑談は終わり、真面目な口調でそう聞いてくる。
「まあ、その予定だよ」
『……別に強靭な刃をナメているわけじゃないが1つ言わせてくれ』
「大丈夫。ホリーがそんな事するような人じゃないのは、みんな分かってるよ」
『……無理だ』
「え」
『強靭な刃では、《《ヤツ》》には勝てない』
「え、もしかしてホリーは、ボスと会ってるの?!」
アナスターシャは、謎が多いことでも有名だ。他の主要ダンジョンも謎は多いが、アナスターシャは意味が違う。
かなり初期の段階で、ストラで言う黄金のファイトブル的な存在が見つかり、攻略が進むと思われたが、討伐しても何も起こらなかった。
その後、似たような存在がもう数体見つかったが、結果は変わらず。
しかし、ホリーがボスと戦ったとなると、一気に状況は変わる。消耗品であるアイテムをボス戦に多く持ち込めるからだ。
しかし、気になるのはあの言葉。
「なんでホリーはそう思うの?」
『……空を、飛ぶんだ』
「……なるほどねぇ」
強靭な刃の内、スーザとガルムは近接攻撃専門だ。リアは回復役であり、ミュウだけが唯一攻撃できる、といったところだ。
それならば、ホリーの言い分もよく分かる。
「うーん、たしかに厳しいなぁ……」
『ほんとだよな。俺らも空飛べたらいいんだがな……』
「ですねぇ……俺と紬は飛べますけど……」
「まぁ、そうだよねぇ……って、ん!?」
その場の全員の視線が兄弟に集まる。
「え、だって、スーザさんたちは見たでしょう? 紬が空飛んでるところ」
「……あ〜」
「俺も飛べますって」
実際は飛ぶとは少し違うが、そこまで伝える必要はないだろう。
「……ホリー、これならもしかして……?」
『……あぁ、ストラを攻略した実力者なんだ。これはいけるかもしれねぇ!!!』
そこから始まった、兄弟を中心とした作戦会議は夜まで続いたという──。




