第95話.福原千里
「…………」
兄弟とギルマス、そして強靭な刃の4人は会長室に集まっていた。
ただ、遥斗は正座をし、机を挟んで千里が腕を組んで立っている。その横では、強靭な刃の4人と紬が笑いをこらえながらソファに座っている、という構図だが。
「何か弁明はあるかい?」
「……ガルムさんがああしろって」
「おい?! 巻き込むな?!」
閑話休題。
「さて、君たちを呼んだ理由についてだが……」
モデルスタイルという言葉がここまで似合う人はそうそういないだろうとも考えられるほどに、美しいスタイルである。
その身体を黒いスーツで包み、その上から長い黒髪のストレートがかぶさっている。
顔立ちも整っており、モデル業一筋でもやっていけそうな見た目である。が、今からではもう遅い。
そこらの動画投稿サイトで少し調べれば、『日本のギルマス、そこらの人の10倍以上の怪力?!』的なタイトルがすぐに見つかる。
怪力美人がモデル業でやっていけるわけがない。新しいジャンルでかろうじて、といったところだろう。
椅子に座り、千里は腕を組んでハイドと強靭な刃に視線を巡らせる。
「……知っての通り、あのホリーが大怪我を負ってしまった。っと、上位ランカーにしか知られてない情報だったね。ハイドの君たちは知らなかったかい?」
「いえ、スーザさんに知らされてしまったので大丈夫ですよ」
「ま、Fランクパーティー(笑)だからね」
「Fランクパーティーですが?」
「いやいや、遥斗くん。さすがにギルマスには突き通せ──」
「Fランクパーティー、ですが???」
先程の千里を彷彿とさせるような、笑ってない笑みを遥斗は浮かべる。
「ま、そういうことにしておいてあげるよ。それで君たちを呼んだのは他でもない。あのストラの初の攻略者だからだ」
「俺たちハイドは公には発表されてないはずですけど……」
遥斗はそう言ってスーザに視線を送る。すると、スーザは恥ずかしそうに頭を少しかく。
「ギルド上層部にはさすがに伝えないといけなくてね…」
「いえ。ガルムさんならともかく、スーザさんなら大丈夫ですよ」
「そこ俺弄る必要あったか……?」
そんなガルムの声を無視して、遥斗は小さく1つ、咳払いを挟む。
「強靭な刃だけではなく、ハイドもエジプトに行け、と?」
「話が早くて助かるよ!」
千里は勢いよく立ち上がり、遥斗に手を差し向ける。
「いや誰も行くとは言ってませんが?」
もちろん、遥斗は冷静にツッコミ返す。
「あー……遥斗くん? ギルマスに立ち向かうのは……」
「ほーお? 私に反論しますかぁー」
嫌な予感を感じ、すぐに訂正しようと試みるが、それよりも先に千里の言葉が続く。
「いやね、実は近々ダンジョン法が改正されるんだよね」
「…………と、言いますと?」
「『ギルマスからの直接の命令の場合で、その内容が不当でない限り、冒険者は従う必要がある』というのがあるんだよね」
「……………………ほう」
「主要ダンジョンを攻略した人に頼むのは、果たして『不当』な理由なのかなぁ、って思っただけだよ」
「……い、いやでも。まだ改正されてないじゃないんですか?」
遥斗は必死に逃れようとする。
「そうだよ? ただ、断った前科があったら、こちらとしてはどうとでも操れるだけだからね」
遥斗はすぐに思い知る。自分に逃げ場などなかったと。電話に応じた時点で負けていたと。
「……数日準備する時間をください……」
「うん! 引き受けてくれてありがとう!」
(カクヨムで散々指摘コメントを頂いた回。はたしてなろうでは……あ、めちゃめちゃ否定的でも次話を読まれますと、鬼千里さんの意図がわかるかと……)
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