第94話.日本ギルド会
「「わーお……」」
兄妹は高層ビルを見上げていた。午後3時ということで、太陽の光を強く反射しているガラス張りの建物に思わず目を細める。
あの大地震のあと、以前のように頻繁に地震が起こることはなくなったが、高層ビルに住みたいと思う人は格段に減少した。
そんな中でも空高くそびえ立っているこのビル。名を、【日本ギルド会本部】という。
未だにFランクのままである兄妹にとってはなんの関係もない建物。そんな場所に訪れている理由は、この日の朝まで遡る──。
★
「昨日のは流石に驚いたが……Fランク冒険者が手出しする問題じゃないよなぁ」
紬が起きてくる前に朝食を作っているときのこと。
あのホリーが大怪我を負ったとなると、遥斗はテレビが騒がしくなるかと思っていた。ホリーはそれほどの冒険者なのだ。
しかし、そういった報道は一切なし。スーザからしか情報を聞かない辺り、かなり上の方の冒険者しか知らない情報なのだろう。
「なら俺に伝えちゃいけないでしょ」
今目の前にいない人物にツッコんだって何も変わらないが、遥斗はつい口にしてしまう。
しかし、ホリーが大怪我を負ったとなると、おそらくそれはエジプトにある7大主要ダンジョンの1つ、アナスターシャが原因なのだろう。
──7大主要ダンジョン、アナスターシャ。主要ダンジョンの中ではオーストラリアにあるストラの次に簡単と言われているダンジョンだ。
簡単、といっても主要ダンジョン。並の冒険者が挑めばすぐに死んでしまうだろう。
しかし──。
「ホリーでもあんな姿になるのか……。まだ2つ目の主要ダンジョンなんだろ……」
遥斗は改めて絶望を噛みしめる。
だが、今回は兄妹には関係ない話。スーザさんたち強靭な刃が向かってくれることだろう。
前回のストラだって、記念受験みたいな感じで行っただけなのだから。今回のアナスターシャは行く理由が無い。
そう考えた遥斗は、ホリーについてを頭から追い払い、朝食作りに専念する。
と、そのとき。リビングに置きっぱなしにしていたスマホが電話を知らせてくる。
遥斗は料理をする手を一旦止め、すぐに電話を取りに行く。どうやら知り合いからの電話ではないらしく、電話番号だけが表示されていた。
疑問を感じつつも遥斗は電話に出る。
「もしもし、どちら様でしょうか?」
『あ、こちらは日本ギルド会本部です。今お時間よろしいでしょうか?』
☆
「くっ、知らない電話番号の時点ででなければよかった……!」
ここまで来てもう後戻りできないことは遥斗が一番わかっているが、思わず愚痴を口にする。
「でも、ほんとになんの用事なのかな? なんにもやらかしてないと思うけど……」
「……」
紬のその言葉を聞いて、遥斗は事情を何も説明していなかったことを思い出す。
そして、それと同時に。ずる賢い遥斗はそれを逆手に取る。遥斗は本部を見上げていた状態から、紬の方へと向き直る。
「そうだよな。なんも思い当たることないよな! よし、帰るか! どうせギルマスのミス──」
「──誰のミス、ですって?」
顔が青ざめる、というのはこういうときに使うのだろう。後ろから聞こえてきた、テレビでよく聞くその声には、そんなことを想像させるものがあった。
……遥斗の失言も関係あるだろうが。
恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは、笑みを浮かべつつも全く笑っていない、日本ギルド会マスターの福原千里、本人であった。
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