第9話.地上
光が収まり2人が目を開けると、今まで仕事帰りに何回も見てきた風景が広がっていた。
しかしその後ろには、明らかに人の手で作れる域を超えてる巨大な建築物があった。おそらくこれがアストラルなのだろう。
(……いやほんとにでかいな!? 横幅だけでも1kmはあるんじゃないか……?)
だが、もともと周りに家が少なかったこともあり、ダンジョン発生の範囲内に巻き込まれたのは遥斗たちの家だけだった。
おそらく、ダンジョンを作った誰かは無差別に人を殺す意思はなかったのだろう。だからこそ、なるべく人が住んでいない地域にダンジョンを作ったが、ギリギリ遥斗たちの家だけ巻き込まれ、その範囲の端過ぎたから隠し部屋の座標と被ってしまった、ということなのだろう。
遥斗たちが地上に戻ってこれたことに感動していたその時、こちらに向かって歩いてくる人影が見えた。
自衛隊だった。
ダンジョン出現から1時間近く。この周辺に危険がないことが分かり、調査が入り始めたのだろう。
だんだんと遥斗たちのもとに近づいてくる。
出現直後でダンジョン前に立っている2人。傍から見たら明らかに怪しい2人になってしまう。
しかし、周りに隠れる場所などないため、2人にはどうすることもできない。
そんなことを考えてる間にも自衛隊の人たちはこちらにも近づいてきていて、2人が視界に入る位置まで来ていた。
──そしてそのまま2人の横を通り過ぎていった。
どうやら透明化というのは本当だったらしい。
ダンジョンに向かった自衛隊の方へ視線を向けると、慎重にダンジョンを覗いていた。
『いやー、まさかこんなすぐに透明化の効果を実感させることができるとは思いませんでしたねー!』
すると突然、頭の中にサラの声が響いた。
『あ、遥斗さんは頭の中で話しかけるようにイメージしていただければ、サラと思念会話をすることができると思いますよ! 技術はいりますけど、亜空間収納もすぐに習得できた遥斗さんならきっとできると信じています!』
突然そんなこと言われても、と思いつつも遥斗は試してみる。
(頭の中で話しかける……。頭の中で話しかける……。頭の中)『で話しかける……。頭の中で』
『そうです! できてますよ、遥斗さん!』
遥斗ほどの頭の柔軟力がないと普通はこんなすぐに習得はできない。
『おっ、これでいいのか。それで、なんでサラは俺と思念会話できるんだよ。あんなに「これでしばらくお別れですね……」感出してたのに』
『いやいや、ちゃんと言ったじゃないですか! サラがダンジョン内にいる限りはいろいろできるって! お二人がダンジョンから出ても、サラは中にいるままですから! ちなみに、悲しい感じを出したのはいじりたかったからです』
『おい』
『あ、あと地上の様子とかは遥斗さんの五感を共有させてもらってますので、サラにリアルタイムで伝わりますよ!』
そうやってサラと会話していると。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「あれ、紬はサラと話せないのか?」
「サラちゃんと? 無理でしょ、さっき一旦別れたんだもん!」
『偉そうなこと言っておきながら、サラのイメージ力では1人と思念会話するのが限界なんですよね』
「あー、実はな、俺は今サラと思念会話できるようになったんだよ。だから紬も話せるのかなーって思ったんだが、どうやらサラは1人とするのが限界らしい」
「そういうことね! サラちゃーん! わたしも早くまたお話したいから待っててねー!」
『はい! サラも楽しみに待っておくのです!』
「楽しみに待っとくってよ」
こうして話していると、さらに分かったことがある。
どうやら透明化の状態だと話していても気づかれないらしい。その証拠に、たった今自衛隊の人たちがダンジョンに入っていった。
だが、さすがにそろそろ1分が経ちそうになってきたため、2人はダンジョンから離れていった。