第83話.正しい(?)使い方
次はどう攻めるかを2人が考えていると、ゴブリンジェネラルは立ち上がり、剣を構える。2人との距離は50m近く。
届くわけのない距離だが、その攻撃は安易に予想できるため、遥斗は2人の前方に防護結界を展開する。
すると、その予想通り斬撃を飛ばしてきた。一瞬で2人のもとまで辿り着くが防護結界にぶつかり霧散する。
しかしこの斬撃、ゴブリンジェネラルが剣を振ればふるほど飛んでくるため、防護結界を消すことができない。言い換えると、遥斗が動けない。対人戦ならば体力切れを期待するのも一手だが、相手は魔物。それもSランク級と来た。
「……これは面倒くさいですね……」
「50mだから距離は詰めれないことはないけど……剣を振り回してるんだし、近づいたところで、って感じだね」
「このままでは埒が明かないですね……アイツが無闇に凸ってこないあたり、学習能力は他の魔物よりありそうなので、飛ぶ斬撃は効かないんだぞ、ってところを見せれたらいいんですけど……」
遥斗はゴブリンジェネラルのように飛ぶ斬撃を放つことはできないし、防護結界を発動しながらなら魔法は撃てるが、どうせ盾で弾かれる。
(スーザさんが防護結界を張ってくれたらやりようはあるんだがなぁ……)
「っていうか、遥斗くん魔力切れは大丈夫なの?」
「それはまぁ大丈──」
「僕が張っててもいいけど」
「夫……え、スーザさん、魔法使えるんですか?」
「え? まぁ防護結界は無色魔法だし、一応使えるけど……」
「……魔法の練習、全くしたことなかったのでは?」
「誰も言ってないよ? 火属性ーとか水属性ーとかは使えないけど、防護結界はいざというときに役立つしね」
「……お願いします」
「え、いいけど……」
そうして、防護結界の展開をスーザに頼んだ。
そして遥斗はというと、一旦剣を地面に置き、手に魔力を集中させ始めた。
「え、えーっと、遥斗くん? なんか魔法撃とうとしてない……?」
「さすがです」
「いや、なんでそんな自信満々?! 魔法効かないんだよね?」
「えぇ。だからこれは、アイツを倒すためのものではないので」
「へ?」
「上級魔法・竜巻ッ!」
そう言って遥斗が前方に魔法を放つと、小さな竜巻が発生する。小さいと言っても、今いるのは四方が石で覆われたダンジョン。塞ぐのには十分だった。
「いや、何個上級魔法撃てるの……って、なんか遅くない?」
「遅くしましたので」
「……あーっ! そういうことか! 風で斬撃を巻き上げるんだね!」
「そういうことです。なのであの竜巻に当たってもかすり傷がつくくらいの威力にしたかわりに、風がものすごく強いです」
「ちなみに、人間が触っても大丈夫なの?」
「えぇ、傷は同じくかすり傷程度ですよ」
「へぇ。魔法、一回触ってみたかったんだよねー!」
「あ、でも、あれに1ミリでも触ったら魔法消すまで抜け出せないと思いますが」
「……絶対今、一瞬期待させたよね?」
「さぁ、なんのことだか……」
そんな会話をしている間にも斬撃が飛んでこないことから、巻き上げる作戦の勝ちだったのだろう。
「そろそろ諦めてくれた頃でしょう」
「……この魔法さ、めちゃくちゃ微調整してると思うんだけど、魔力大丈夫なの?」
「はっはっは」
「……ん?」
「はっはっは」
「えーっと……もしかして?」
「……まぁ1/4くらいは使ったかもですね」
「遥斗くんでそれって多くない?!」
「ま、まぁ……これしか手が思いつかなかったし……と、とにかく! スーザさん、そろそろ構えて!」
「え、もう? あのスピードならまだ10秒……いや15秒はまだ持ちそうだけど」
「あ、大体の速さ分かっちゃう系の人ですか?」
「まぁあの速さならさすがにね……1秒で大体1mでしょ?」
「さすがです。そしてあと10mほど……。いやぁ10mってどっかで聞いたような距離ですよねー!」
「あ、まさか──」
スーザが気づいた頃には、2人は既にゴブリンジェネラルの真上にいた。
特殊すぎる特殊スキル、短距離転移。使ったあとは20秒も動けないが、それを補った手法。
予めスキルを発動させ、剣を地面に平行になるようスレスレの位置で構える。その状態で魔物の真上に転移したらどうなるだろうか。
当然、動くことができないのだからそのまま落下する。
普通なら即バレ。相打ちにあうが、ゴブリンジェネラルは今、斬撃をかき消してきた未知数の魔法を警戒している。盾は魔法を防ぐのに使うし、剣ですぐに対応するのも難しい。
スーザの攻撃がまたもやもろで入り、ゴブリンジェネラルが吹き飛ぶ。
2人にはその後も硬直があるが、転移前に防護結界を張っており、遠距離対策はバッチリ、近距離もダメということを学習させていたため、なんの問題もない。
──が、今度は片膝もつくことなくゴブリンジェネラルは立っていた。
少し遅れました…!
ローファンタジー週間4位ありがとうございます(≧▽≦)




