第82話.結界壊し
スーザの二刀流スキルの制限時間はあと20分はある。おそらくそれまでには決着はつくだろう。
が、もし途中で効果が切れたときのことを考慮し、遥斗は剣聖職へ切り替え──ようとした時、ちょうどスーザが声を上げる。
「あ、遥斗くん。今はまだ剣聖のヤツ、使わなくていいよ」
「え、いいんですか?」
「うん。ま、45分も剣聖状態になれるし使ってもいいんだけど、念には念をだね。もし10階層とかまであったら多分たどり着けないし」
「うーん……でも危なくなったらすぐに使いますからね?」
「りょーかい!」
そこまで話した時。会話に夢中になっていたところをついて、ゴブリンジェネラルが距離を詰めてくる。50mほど離れていたはずだが、そんな距離などまるでなかったかのごとき速さだ。
そして、その勢いのまま遥斗目掛けて剣を振り下ろす。
──当然、戦場で遥斗が会話だけに夢中になるはずがなかった。
遥斗は振り下ろされる剣を受け流すように剣を振るい、ゴブリンジェネラルに一瞬だが硬直を入れさせる。
他の冒険者にとっては硬直とも取れないほどの時間。だが、今戦っているのは日本最強の冒険者と世界初の主要ダンジョンの攻略者。この2人にとっては十分すぎる時間だった。
遥斗は絵を描くかのごとく剣を走らせ、ゴブリンジェネラルの正面から3連発の刺突を加える。それとほぼ同時にスーザはゴブリンジェネラルの背後に回り、二刀流スキルで斬りつける。
ゴブリンジェネラルは完全には防げないことと、遥斗の攻撃はまだ防ぐのが間に合うことをすぐに判断する。そして結界のついた盾を遥斗の方へ向ける。
──中級剣術スキル・刺突。一部の冒険者からは『結界壊し』とも呼ばれている。大体の剣術スキルは上や斜めから振り下ろすものや、横から薙ぐものである。刺突はその名のごとく、『刺』すように使うため、その攻撃は1点に集中する。当然、その分力が加わりやすいため、結界が壊れやすいのだ。
事実、スーザたち強靭な刃が黄金のファイトブルと戦った際もスーザは結界を壊すのに刺突を用いていた。
結局のところ、ゴブリンジェネラルの盾が間に合ったのは。
「ありがとな」
遥斗の計算通りである。
硬直がなくなったゴブリンジェネラルはすぐさま2人と距離を取り、片膝をつく。遥斗の刺突は防げても、スーザの攻撃はもろに食らったのだ。片膝をつくだけで済んだのもさすがと言ったところだ。
しかし、2人は無闇に詰めることはしない。今攻めたところで既にある盾の結界とゴブリンジェネラル自身が新たに作るであろう結界ですべて防がれるのが目に見えているからだ。
「今みたいな攻撃はもう刺さらないかな」
「ですね。それにしても結界かなり硬いですよ……オークジェネラル戦から魔導剣発動したままなので、壊せると思ったんですけどね……」
……遥斗はまだ、称号の効果をつけていないが。
中級剣術スキルもちゃんと強いんです。




