第72話.実は
無事、裏のファストから逃げることに成功した遥斗はすぐにスーザにメールを送った。
もう既に少し暗くなってきた時間帯のこともあり、明日また合うことになった。そのため、遥斗は寄り道などを一切せずに自宅アパートに直行した。
☆
午後7時と少し。
帰宅途中にトラックと思われる乗り物に轢かれそうになった女の子を突き飛ばして、自身がはねられたと錯覚してショック死するどこかの素晴らしい世界みたいなことは一切なく、無事に帰宅した。
「ただいまー」
「あ、おかえりお兄ちゃんっ!」
(な、なんだこの! 天使のような甘い笑みと小悪魔のような魅惑的な笑みが合わさったような子は?! そう。何を隠そう、俺の妹です!)
お兄ちゃん専用スキル、『シスコン』の発動により、遥斗の体力が全回復する。
そんな茶番はさておき、遥斗は夕食を作る準備をしながら会話をする。
「そういえば、今日はミュウさんとリアさんと一緒に買い物行ってたんだってな」
「そーだよー! なんで知ってるの?」
「今日俺もスーザさんとガルムさんに会ってきたからな」
「あ、そうなんだ! 何してきたの?」
「あー……」
遥斗は他言無用と言われたことを思い出したが、その後すぐに紬には言っていいことも思い出したので、包み隠さず伝えることに。
「これから話すのは俺たち2人とスーザさんたち4人以外には言っちゃいけないらしいけど、ま、紬が破るわけないか」
「うん! 今日までお兄ちゃんが隠し部屋で──」
「おっとそれ以上は1時間くすぐりの刑だからな?」
「長くない?!」
「それはともかく、ファストってダンジョン覚えてるか?」
「もっちろーん! 初めてちゃんと攻略したダンジョンだからね!」
「そこに隠しダンジョンがあった」
「……え、ほんと?」
紬は本気で困惑する。それもそのはず。
この兄妹が初めてファストを攻略したとき、なにもただ攻略したわけではない。ただ攻略するだけが目的なら2人がかりであの技を打ったほうが効率もいい。
そうしなかった理由はただ1つ。当時2人はどのダンジョンにも隠し部屋があると思っていたからだ。そのため紬がファストを攻略しているとき、遥斗は不自然な場所はないか探していたのだ。
さらに言うと、たしかに遥斗は「こっからはチェンジするか」と言っていた。紬が隠し部屋探し、遥斗が攻略に”チェンジ”という意味である。
ここまで約束守れない作家がいただろうか!
いやいない!!! ごめんなさい!!




