第66話.特異種
Aランクダンジョンとは思えないほど平和な空間に、極秘情報が聞こえてくる。
「その提供主は信頼できる方なんですか?」
「そのあたりは安心できるぜ。なんてったって、初心者のダンジョン攻略法って本を出してるあのニーナさんだからな!」
「おぉ! あの方ともつながりがあるんですね」
「あの人、あんまり目立ってはないけど、一応Bランクの冒険者だからね」
──Bランク冒険者、ニーナ。先程会話に出てきたように、著書には『初心者のためのダンジョン攻略本』や『立ち回り方を徹底解説!』などがある。世界的にも人気で、翻訳版の数は凄まじいほどある。最近ではニュースにも引っ張りだこの有名作家だ。
どうやら今回の情報は『中級者入門〜まずはファストから!〜』という本の情報集めをしている最中に発見したらしい。
「にしても、ファストなんですね。あそこ簡単だからですか?」
「いや、たしか中級者への入り口にちょうどいい、みたいなこと言ってた気がするよ?」
「え、でもあそこって初心者用って言われてませんでしたっけ?」
「それは1年以上も前の話だわ……。今はいろんなところであれよりもっと簡単なダンジョン見つかってるわ……」
「えー……でも中級者への入り口は言い過ぎなんじゃ……」
「そろそろ自分の常識がやばいってことを自覚しようね……」
1年以上前は初心者用とも言われていたファストも時がたつにつれ、そのランクも確定した。あそこはDランクダンジョン。冒険者を始めたばっかりの人が行くようなところではないのだ。
しかし、そんなすぐにその印象を消せといわれても無理な話である。遥斗は内心「えぇー……」と思いながら、そろそろ続きを聞くことにした。
「どうやってファストに隠し部屋があるって発見したんですか?」
「さっきも言ったけど、まだ確定ではないよ」
「ただ、あそこって1階層スライムしか出ねえだろ? 一番効率のいい倒し方を探って倒しまくってたら、急に赤スライムが出たんだとよ」
「赤スライム……? 聞いたことないですけど……」
「うん、僕たちも聞いたことない。その『聞いたことない』から僕たちが思い浮かべたのは、《《ストラの黄金のファイトブル》》だった」
「……なるほど。つまりは、それを倒した後に行った『真のストラ』って場所が、今回でいう《《隠し部屋》》なんじゃないか、ってことですか?」
「話が早いぜ」
たしかに筋は通っている。が、それと同時に確証もない。なんなら、ただ特異種が出ただけ、という可能性の方が高い。
だが、それだけだとしても試す価値は十分にある。遥斗がその考えに至ると同時に、なぜ自分を呼び出したのかも理解する。
「……あぁ、なるほど。Fランクの俺を呼んだのは、俺にしかできないことだからってことなんですね」
「さすが、もうそこまで分かるんだね。そういうこと」
「最近他の冒険者が『初心者用ダンジョンで成長妨害してる』ってプチ炎上してたからなぁ。俺らがファスト行ったりでもしたらもう大炎上よ」
「頼めるかな?」
「そうですね。どうせ今日暇だったし、なにより面白そうなんで、ちょっくら行ってきますよ」
なぜファストなのかという疑問もあるが、さすがに好奇心には勝てなかった。遥斗はスーザたちの依頼を受け、ファストに赴くことにした。




