第64話.特殊すぎる特殊スキル
ちょっとした知り合い程度ならまだしも、親しい関係にある人を見捨てるわけにもいかないので、遥斗は仕方なく助けてあげることに。
人気のない路地裏に行き、亜空間収納からいつもの黒フードを取り出す。とりあえずこれで『遥斗』だとバレる可能性はなくなる。
あとはどうやって助けるか、なのだが──。
「あ、こういうときにあれを使うのか」
遥斗は1度も使ったことのない特殊スキルの名前を思い出し、室内に狙いを合わせそれを口にする。
「──特殊スキル・短距離転移」
半径10m以内の狙った場所にテレポートをできるという一見優秀なスキル。ただ、使用に関する注意がものすごい量ある。
特に厄介なのが、『このスキルを使った後20秒間動けない』と『このスキルを使った後20秒間このスキルが使えない』、そして『このスキルを発動するには、使用者の魔力の1/10を消費する』だ。
使用条件があまりにも厳しく、魔力の消費も激しすぎるのに反し、移動距離が短く、クールタイム中動けないという大きなデメリットしかないというゴミスキル。遥斗は「特殊スキルでテレポートとか最強じゃん!」と思った自分に怒りたいレベルだった。
(それがまさかこんな形で使うとは……)
野次馬の死角になる位置にテレポートする。
「──……こっちを向かず、あと20秒だけ待ってください」
「うえっ?!」
「は、遥斗くん?!」
「……ガルムさん? スーザさんもいるなんて聞いてませんが?」
「そりゃ言ってないし……」
「……スーザさん、もう少し待ってくださいね」
「俺! 俺もいるから! そんな怒る?!」
野次馬で見えなかったが、ガルムとスーザの2人がいた。やたらと女性の野次馬が多いのは、甘いマスクのスーザがいたからのようだ。
そんなことをしているうちに20秒が過ぎた。遥斗とガルムがふざけている間にスーザがテーブルに会計分の金をおいておく。
「それじゃ、テレポートしますよ?」
「ありがてえ!」
「急に消えたら第三者が疑われそうなんで、自分たちのスキルかアイテムって事にしておいてください」
遥斗がそう言うと、スーザは大衆に向けて手を振る。それだけで歓声が起きるのはイケメンの特権だろう。
しゃがんだ状態だったため、2人の足に手を添える。
「特殊スキル・短距離転移」
予め確認しておいた場所をイメージしながらそう口にする。すると、そのイメージ通りに店の裏手にテレポートする。
「いろいろ聞きたいことはあるが、マジで助かったわ……」
「人目に付きやすいところだと、あんなことになるんだね……」
「ストラ攻略からスーザさんはアイドル並に人気があるんですから……」
「それはそうと、そのスキルについて問い詰めたいんだが、さすがに教えてくれねーか……」
「クッソ燃費が悪くて使い勝手の悪い、ただのテレポートスキルですよ?」
「あぁ……そういうことね……」
「え、でもテレポートならダンジョン攻略で結構重宝されそうな気がするんだが?」
「ダンジョン内で使えるなら使ってますよ」
そう。この特殊スキル、遥斗が知っている中でも唯一ダンジョン外でのみ使えるものだ。だからこそ、使い道がないのだが……。
クールタイムが終わり動けるようになった遥斗たちは、人目につかないように裏路地を使いながら、イールまで来ることができた。




