第52話.真のストラ 5
遥斗が剣を構えると同時に覇王が突進してくる。オーラが変わったことを察したのか、突進スキルの溜めなし発動をしてきたのだ。もちろんその分速さは落ちる。
遥斗との距離は約200m。1秒もあれば覇王は遥斗の下までやってくるだろう。
たった1秒。されど1秒。剣を取り出した遥斗にとってその1秒は一般人で言う10秒ほどの時間になる。
その理由はあの称号──”世界初の剣術使い”だ。その効果は剣術に関連するステータス値の上昇。今役に立っているのはその中の、動体視力向上と速度強化である。
(見える……ただの突進ならまだ余裕だな。あとは……)
覇王が遥斗の下にたどり着く頃には、もう既に高く飛び跳ねていた。しかし突進は常に前を見ている。そのため覇王の標的は遥斗の後ろにいた紬へと変わる。
一瞬目標を見失ったため速さは半分以上低下するが、紬への突進を再開する。
「これくらいかな! 初級魔法・水矢」
覇王はSランクを遥かに凌駕する強さだ。初級魔法が通用するはずがないだろう。だがそれは普通の魔法使いの話であって、紬には当てはまらない。
──紬の初級魔法は、普通の魔法使いの中級魔法以上の攻撃力がある。しかし兄妹は自分たち以外の魔法を見たことがないため、この3mを超えるものが普通だと思いこんでいる。
だがそれでも中級魔法。覇王に中級魔法が通用するとも考えにくい。
紬はとても楽しそうな笑みを浮かべる。
「──……40連発♡」
5×8の水矢が紬の前に現れる。すべて覇王に照準を合わせて。
「ファーイアっ!」
遥斗がもともといた位置から100mほど離れてはいたが、それでも覇王が紬のもとに届くまで2秒とかかりはしない。
──つまり、紬はこの一連の動作を僅か1秒ほどでやってのけたのだ。
中級魔法以上の水魔法40発。ダメージはあまり入らないにしても、走っていた方向とは真逆から高速で飛んでくる大量の水を浴びたのだ。
覇王の動きが止まった。
その隙を遥斗が見逃すわけがなかった。遥斗は着地した後、今の覇王と同じくらいの速さで覇王のもとまでたどり着く。
「中級剣術スキル・閃電斬ッ!」
例のごとく、あの称号により攻撃力、鋭利、筋力、速度などが強化されたその一撃は上級剣術スキルに匹敵する。
覇王の硬そうな皮膚を突破して、ポリゴンを撒き散らしながら切り裂いた。
「がああああああああ!!!!」
確実にダメージが入っているのか、覇王が苦悶の絶叫を上げる。
──瞬間、角に集められた魔力が小さな爆発を生み出し、兄妹は飛ばされる。
「ダメージ無しでノックバックのみ……連続で攻撃されることへの回避技ってところか……面倒くさいな」
「だね……それにほら、思った以上にダメージも入ってなさそうだよ」
覇王を見ると、遥斗が切り裂いた場所は既に再生していた。
「再生……? いやあれはもしかして……紬、さっき俺が切ったところを魔力眼で見てくれないか?」
「魔力眼で? 分かった、やってみる」
紬は目に魔力を集中させる。繊細な目に魔力を集めることに加え、込める量が少しでも少なければ普段と変わらず、加えすぎると失明というリスクがある。遥斗にもできないその技を、紬は成功率100%にしている。
魔力眼を使うと空気中の魔素や生物が体内に持っている魔力が紫色に見えるようになる。生物の場合、一定の肉体に占める魔力の量によって色の濃さが変わるのだ。
「……あっ! さっきお兄ちゃんが切った場所、他のところとは比べ物にならないくらい濃い……というか、今までで一番濃い気がするかも」
「やっぱりか……あれは再生したんじゃなくて、魔力を集めて再生したかのように見せてるんだ。概ね、その程度の攻撃は俺には効かないと恐怖心を与えるためにと言ったところか。テクニカルなことしてくんな……。魔力眼使えないやつからしたら絶望だろ」
スーザたちがキングが再生したと言わない辺り、Aランクでもできない技なのだろう。
それはそれとして、結局言いたいことは。
「「俺たちの攻撃は、覇王に通用する……!」」




