第50話.真のストラ 3
『ストラ最終ボス、特異魔物・断世の覇王が現れました』
「断世の……覇王……?」
完全に形が成されるとあの声が頭に響いた。とりあえず遥斗はエンペラーではないことと、名前からわかるくらいには強い敵だと分かった。
「スーザさん。特異魔物って知ってます……?」
「いや、僕たちも聞いたことないね……。ただ、Sランクより強いってのは確実だろうね……」
Sランクに上り詰めたスーザですら聞いたことがないものだった。このことから考えるに、おそらく主要ダンジョンのボスのことを指すのだろう。
断世の覇王からは体の中だけでは保てないのか、大量の魔力がにじみ出ている。しかし、まだ誕生したばかりで思うように体が動かないのか、足を曲げたりと軽く体を動かしている。
──それは遥斗たちにとって好都合だ。
「ガルム! 今のうちに足止めを!」
「お、おう!」
そのことにいち早く気付いたスーザはすぐさまガルムに声をかける。
「断世の覇王だかなんだか知らねえが、お前も同じファイトブルだッ! 行くぜ! 中級斧スキル・振動!」
ガルムは斧を地面に叩きつける。ガルムが震央となって辺り一帯に地震が起きる。
それにいち早く気付いた覇王は角に魔力を貯め始める。
「無属性の魔力……結界魔法で守るつもりか! ハッ、残念だったな! 俺の振動は地面伝いに届くんだ。身を守っても足止めはできるぜぇ!」
そう、これが振動の強いところ。結界魔法で守ることができないのだ。
ガルムの言葉が届くわけもなく覇王は結界魔法を完成させる。角の先にそれを集め──。
──それを自身が立っている地面に向けて放った。
「……は?」
地面の振動は結界に阻まれ、覇王の動きが止まることはなかった。
「ははっ、マジかよ……」
「どうやらあのスピードを消すことはできないみたいだね……」
しかし、そんなことで落ち込む時間など覇王が与えてくれるわけもなかった。他のファイトブルと同じく、覇王は突進の構えをとり、体を低くする。
「突進が来る! どれほどの速さと攻撃力があるかは分からないけど、正面に立っていなければ当たることはない! あいつが向いてる直線上に立たないで!」
すぐにスーザは5人に伝える。何が起こるかわからないため、移動したあと遥斗は紬の近くに寄る。
数秒後、さらに体を低くし足に力を込めたように見える。
「来るよッ!」
──瞬間、覇王の体が消えた。否、突進が早すぎたため、視界に捉えることができなかったのだ。
「この速さでの移動……まさかッ! 応用上級魔法・風皇突嵐、下降軌道!」
その攻撃の意図を予測した遥斗はとっさに魔法を唱える。上級攻撃魔法を応用し自身のまわりに風の結界を作り出す。広範囲に練り上げることはできなかったため、遥斗と紬が囲えるほどの大きさだ。
刹那、遥斗の想像通り、覇王が通った道にできた真空にまわりの空気と突進の際に発生した土煙が凄まじい速さで流れ込む。
流れ込む空気を下降気流で受け流したため兄妹は無事で済んだ。
土煙が晴れるとそこにいたのは、いつもの澄ました顔ではなくなって立っているスーザと膝をついた3人だった。
「これが……覇王……ッ!」




