第111話.アナスターシャ 13
光の粒が散ってからというもの、わずかに、ほんのわずかにだが、今にも死にそうだった熱さが和らいだ気がする。そして、それは勘違いではないと兄妹は確信していた。
紬はフェニックスの動向から一切目を離さずに、1、2秒で遥斗のもとまで飛んでいった。
「やっぱりか?」
「うん……魔力眼でも確かめたけど、間違いないね」
先ほど入れた一撃で舞っていた光の粒は、やはりフェニックスの魔力が漏れ出たものだったようだ。そこから推測するに、あの熱は魔法によるものだと考えられる。
つまり、今のような攻撃を繰り返せば、フェニックスの体力と魔力を削ることができるわけで、いずれ遥斗の攻撃がフェニックスの防御や回避を上回ることができるということだ。
しかし当然のことながら、相手は世界に7つしかない主要ダンジョンのボス。今の遥斗たちの行動がすべて学習されているのは確かだろう。
いろいろな手を使って、少しずつフェニックスの魔力を削る──ただ、もし途中で事故でもおこしてしまえばそれだけで死の危険がある。
だが、それ以外に手は──いや、1つある。とっておきの手が。
そこに気づいた遥斗は紬に視線を送る。
「──……やっぱ、お兄ちゃんもそう思う?」
「あぁ。この状況なら、これが最適解だと俺は思う」
「それならいっちょ、やっちゃいますかぁ!」
──フェニックスすらも予想だにしない、最強兄妹による攻撃が幕を開けた。
―─Side スーザ──
時は遡り、遥斗たちが地面から飛び立つ前のこと。
3体の魔物──Bランクを2体とAランクを1体、ミュウとガルムと協力して倒したところで、テレクリを通じてホリーの声が届く。アナスターシャに入る前に冒険者ショップで買っていたものだ。
遥斗たち兄妹はまわりに集まった人にそわそわしすぎて買えなかったが。
『あ、あーあー。スーザ聞こえるか?』
「うん聞こえてるよ。どうしたの?」
『お前らなら大丈夫かもしれねえが、あんま俺らと離れないように戦ってくれるか?』
「……え、僕たちがいないと怖いってこと?」
ホリーがいつになく深刻そうに伝えてくるものだから、スーザは少しからかいを含みながら聞き返す。
『……あながち、間違ってねえかもな』
しかしホリーから返ってきたのは、同じような声音に少し自嘲を混ぜたような肯定だった。
『──……実は俺が片腕を失ったのには、フェニックス以外にもう一つ、理由があるんだ』
「もう、一つ?」
『あぁ……おそらくそろそろたがら、こっちに戻ってきてくれないか?』
「……了解!」
テレクリでの通信が終わると、3人は襲いかかってきた魔物をわずか数秒で塵とし、敏捷値が許す限りの速さでホリーたちのもとへ行く。
『上だッ!』
7人が合流したのとほぼ同時にホリーが上空を睨みつけながら叫ぶ。3人も上空を見ると豆粒のような兄妹が、残像が見えるほどの速さの赤い鳥の突進を躱していた。
──いやホリーが言いたいのは、それを背景にとてつもない速さで飛んでくる赤い弾丸のようなもののことだろう。
「あれは……羽根……?」
火を纏った羽根はその勢いのまま、7人から数百メートルほど離れた位置に刺さり、大きな地響きを起こす。
それとともに、数メートルの火柱が現れた。
「……ッッッ!!! ミュウ! なんでもいい、あの中に魔法を撃ってくれッ!」
「え、りょ、了解……っ!」
スーザは火柱の中から他の魔物とは比べ物にならないほどの魔力を感じ、反射的に叫ぶ。ミュウは突然のスーザの声に驚きつつも、炎の中にも攻撃が届きそうな水魔法と風魔法を撃ちまくる。
『──やめとけ。魔力の無駄だ』
ホリーにそう言われるとほぼ同時にスーザもその理由に気づく。炎で見えづらいが、魔法が炎で消されるのではなく、明らかに何かに弾かれているように見えたのだ。
あの感じからして、魔力を固めて作られた魔力障壁である。
「ってことは……ウィザード? いやでも……」
魔力障壁を使う魔物といってスーザがすぐに思いついたAランクの魔物ウィザード。上級魔法までも使ってくるくせに、魔力障壁も多用してくる魔法使い殺しである。
しかし、スーザが疑問に感じたのには、ウィザードには勝てるであろうホリーが以前勝てなかったことと、並のウィザードよりも圧倒的に魔力量が多いことの2つの理由にある。
『ただのウィザードならさすがに俺も負けねえよ。ただあいつは──』
だんだんと火柱が小さくなってくると、人のような影が見えてくる。
『──あいつは、アンデッドになった特異種のウィザードなんだ』
骸骨に聖職者のようなローブを纏った魔物が姿を現した。




