第110話.アナスターシャ 12
こちらが何もしないことには本来できたかもしれないことも出来ないままである。そう考えた遥斗は早速魔導剣を作製する。
「創造《魔導剣》、|空斬剣ッ!」
風属性の魔力を練り上げ、それを風皇空斬を放つときの感覚で剣に流し込んでいく。
剣の周りでわずかに揺らいで見える空気は、いくつもの鋭利な刃物を描いていた。
そんな遥斗の様子に気がついたフェニックスは、頭ごと身体を遥斗の方へと向けた。
一方で、実際に見えはしなかったが遥斗の魔力の波長を感じ取った紬もまた、反撃を開始する。
火には水を。紬は水属性の魔力を練る。
「応用中級魔法・魔水光線、乱れ撃ち!」
紬の周りに大きな水玉がいくつかできたかと思うと、一時の間もなく連続で飛んでいきはじめる。一つひとつが1m近い大きさであり、それが目で追えないほどの速さでフェニックスに放たれていく。
しかし、その全てが例外なくフェニックスに届く前に蒸発してしまう。フェニックスは紬の方を一瞬見たかと思うと、またすぐに向き直ってしまう。
その視界にはもう、遥斗の姿は無かった。
しかし、一切焦った様子はなく、フェニックスは冷静に魔力探知を始める。が、紬の魔水光線の圧倒的な数にその探知が吸われてしまう。
より多く、より繊密に──とフェニックスが魔法に精神を集中し始めたことに、遠くから魔法を撃ち続けている紬も気付いた。
──気付いたからこそ、紬は子悪魔のような笑みを浮かべる。
フェニックスの右翼に、2つの小さな穴が空いた。
「むふふー。事前付与魔法の隠密つきの上級混合魔法・光熱線は、さすがのフェニックスちゃんでも見破れなかったかぁ」
その攻撃を食らって、フェニックスはやっと紬の方を見る。その時にはもう穴は塞がっていた。魔力眼で見ても魔力の量が他と変わらないので、覇王のようなニセ再生ではないのだろう。
フェニックスはまた突風を起こしたかと思うと、無数の炎をまとった羽を飛ばしてくる。しかし、1つも漏らすことなく紬の魔法が撃ち落とした。
その最中にも隠密を付与した光熱線を数発混ぜ込ませているが、一度見せたからか結界で防がれてしまう。
しかし、攻撃の命中の有無は紬には関係ない。もう紬の任務は果たしたからだ。
フェニックスの背後に遥斗の姿が見えた。フェニックスも背後にまで迫られてやっと存在の認識に至った。
「もうおせぇよ! 食い千切れ、獅子奮迅ッ!」
万物を喰らいつくすかの如き勢いで振り下ろしたその剣は、安易にフェニックスの身体に侵入した。
遥斗の身体を囲うように作られている真空で熱を遮断しているからこの距離まで近づくことができた。
しかし、遥斗が大技を使う際に大量に酸素を使ってしまったので、この状態を長い時間キープすることはできない。
「はやく……切れやが……!」
れ、と言おうとした瞬間、フェニックスは凄まじい勢いで空を飛び、そのせいで剣も抜けてしまった。
「クッソ……ッ!」
倒しきれるとはさすがに思っていなかったが、大ダメージを与える絶好のチャンスを逃してしまったことに、遥斗は悪態をつく。
しかし、遥斗は見逃してはいなかった。飛び立って逃げると同時にその傷口から光の粒がきらきらと舞っていたことを。




