第109話.アナスターシャ 11
薄暗い赤色の空が、草の生えていない黒い地面を包みこんでいた。ところどころひび割れている場所もあった。
それだけならただの荒野という印象だが、空には神々しい朱色に輝くものがあった。
「あれが……フェニックス……ッ!」
遥斗はフェニックスを睨みつける。というよりも、この間に来た瞬間から一度たりとも目を離していない。
少しでも注意を逸らしたら殺される。そんな威圧をヤツから感じているのだ。
「リア! 全員にバフを頼む!」
『シェルも頼む!』
リアとシェルと呼ばれたブライトのメンバーは、ここにいる全員にさまざまなバフを与える。
その間に地上には、獣系統や虫系統と多種多様な魔物が湧いている。それもただの魔物ではなく、最低でもBランク以上の魔物、さらには特異種らしき魔物までいる。
『んじゃ作戦通り、俺らとスーザ、それにガルムとミュウは地上の魔物を倒すぞ!』
ホリーの号令で、ブライトの残りのメンバーと強靭な刃の3人は駆け出す。しかし、フェニックスは彼らを攻撃することはなかった。
フェニックスもまた、兄妹から視線を逸らさなかった。今この場所で一番危険なのが兄妹だと判断したのだ。
リアとシェルは2人とも動けないことを条件とした防護結界を張っている。縛りをかけることでかなり強度を上げているが、フェニックスの攻撃にどこまで耐えれるかは未知数である。
兄妹はそれぞれ亜空間収納から剣と杖を取り出す。
「さて……行くか」
「うん!」
兄妹は自然な動作で飛び立ち、フェニックスのもとに近づく。段々と強靭な刃とブライトが戦っている音が聞こえなくなる。
フェニックスと同じ高さまで行き、近づけるところまで近づく。いや、近づこうとしたが、それは叶わなかった。
「あの羽……ただ赤いだけじゃねえのか」
「だね。明らかに燃えてる。これ以上近づくのはちょっと厳しいかもね……」
離れて対峙してでも分かるこの存在感。フェニックスの表面はとてつもない熱を持っているのだろう。
「ある程度熱いことは想定していたが、これほどまでなのか……」
「ちょっと作戦考えないとだね」
遠距離からの攻撃、魔法は決定打にならないということはホリーから聞いている。紬レベルが通用するかは分からないが、少なくともブライトは通用しなかったらしい。
もし、紬の攻撃もダメだった場合、遥斗が直接攻撃する必要がある。
遠距離からでも高火力を撃ち込むことができる紬と違い、遥斗は近距離まで行く必要があるが、大量の魔力を消費することで、紬の魔法とは比にならないほどの攻撃ができる。
ただしほとんどの魔力を失うため、一撃必殺の諸刃の剣である。
断世の覇王戦のあとに遥斗が開発した技で、覇王を一撃で葬れるように調整したものなので、火力の心配はないが、その攻撃が通るかどうか──。
「っ! お兄ちゃん来るよ!」
紬が叫ぶ。
はばたくために動かしていたその翼の動きは徐々に激しくなっていき、突風がおこる。それにつられ、遥斗たちは風で体勢を崩される。
どんな攻撃が来るのかと身構えていると、何か炎をまとった鋭利なものが飛んでくる。今までの経験から反射的にそれを避けるが、服がかすれてしまう。
「ッ──ヤバッ……」
しかし燃えることはなく、ただ服を切り裂くだけであった。
炎を伝えないほどの速さの攻撃──まともに受けてはいけないと遥斗は朱炎の鳳凰の脅威を理解する。
「やはり、狙うなら速攻……だが……」
そのことを理解しても、とてつもない熱さの炎をまとったヤツにはどうすることもできない。
(地上で戦ってくれているスーザさんたちのためにも急がないといけないのに……)
しかし、そんなことはフェニックスには関係ない。容赦なく兄妹のもとに襲いかかってくる。
変な小細工もないただの突撃。しかし、自身の熱を保ったまま来るその攻撃は、とんでもない殺意が込められていた。
兄妹はそれぞれ左右に高速で移動し、間一髪でその突撃をかわした。
ヤツが突撃をした道の空気が揺らいで見える。それほどまでの熱を持っている、ということの事実を遥斗は再認識し、冷や汗をかいてしまう。
「近づけないほどの熱さ……素早い攻撃……さて、どう戦うものか……」




