第108話.アナスターシャ 10
「えーっと……紬ちゃんに聞きたいことがいろいろあるけど、遥斗くん大丈夫?」
「えぇ……スターラビット倒したと聞いたから、少し調子のっちゃいました……」
「やーい、遥斗ばーかばーか」
「くっ……ガルムさんに言い返せないの苦痛すぎる……」
「はっ! 最近煽られまくってたからなぁ! ばーかばぁーーーか!」
『ガルムって幼稚だな』
「ホリー、ガルムはこんなもんだよ」
「おい外野うるさいぞ」
アリステラ、デクシアに続きプリンの攻略も終えた彼らは、はじめの石造りの部屋に戻ってきた。この部屋にいた冒険者はまたも騒ぎ始めていたが、彼らは気にすることなく、真面目な話を始める。
「さて……次からは言うよりもやったほうが早いって言ってたやつだよね?」
『さらに言うと、これが終わればボス部屋だ』
「ついに、か……」
『あぁ……あの時のリベンジだ……』
ホリーは目をつむり、静かに拳を握りしめる。以前やられた際の屈辱が頭によぎり、軽い怒りを覚えているのだろう。
少ししてホリーはゆっくりとした動作で目を開く。
『すまないな。それじゃ、ラストの条件を話していくぞ』
「うん、おねがい」
『まず、アナスターシャの構造を思い出して欲しい』
「えっと……凸の字みたいな形だよね?」
スーザはそう言い、空気を指でなぞって示す。
『そうそう。んで、それで言う右上と左上が空いてるだろ? 俺らはそこに目をつけた』
「たしかに歪な形ではあるけど、よく目をつけたね……」
『それ以外の可能性を数時間かけて潰したからな……あれは……辛かった……』
「あ〜……お疲れ様です……」
遥斗たちはアナスターシャの攻略法をどんどんホリーに教えてもらっているが、その裏ではとんでもない時間と努力があったのだろう。
今のホリーの顔はより老けて見えるのも、そんな事実を知ったからだろう。
『ま、それは過ぎたことだからいいんだ。話を戻すが、まずブライトは右上は無理と判断したんだ』
「というと?」
『デクシアはランダム転移の部屋だったから、つながる道はないと思ったんだ』
「でも、プリンからならいけるんじゃない?」
『いや、だめだ』
「そうなの?」
『あぁ……俺たちにもう一回プリンに行く元気はなかったからな……』
「なるほどね……」
『それで、アリステラに行ったんだ。そしたら、3個目の検証であたりを引いた』
「おお!! それはズバリ──!」
『特異種の特異種を倒す、だ』
「「「「……ん?」」」」
聞いたことのない言葉が飛び出してきて、遥斗たちは思わず聞き返してしまう。
『特異種の特異種』。一度も報告されていないし、散々特異種を倒してきた遥斗たちですら出会ったことはない。
一般個体から特異種になるだけでもとてつもないレベルで強くなるのに、それのさらに上のレベルの魔物。そんなヤツをホリーたちは倒した、というのである。
遥斗たちの中でどんどんホリーの株が上がっていく中、ホリーが言葉を続ける。
『あ、ちなみに特に強くはないぞ?』
「「「「え?」」」」
☆
「……ほんとに強くなかったわ……」
目の前で光の粒となって消えていく、虹色に光るスターラビットを眺めながらそう言葉をこぼす。
特異種を10体ほど倒したところで現れたが、虹色に光っていること以外、何も変わりがなかった。
『よし、これで全員倒せたな。あとは、スーザが言ってた凸? ってやつの左上の壁に近づくんだ』
ホリーに言われるがままその壁に近づくと、先程までは確実になかった魔法陣が足下に描かれ、淡く水色に輝き始めた。
「これ、よく見つけましたね……」
『あぁ……俺でもそう思うよ……もう2度としたくない……』
ホリーはそう答えた後、深く息を吸った。
そして細く長く、気持ちを整えるように息を吐く。
『……よし』
ホリーは10人に視線を送る。遥斗たちは、はっきりとした意志をもって強く頷く。
『──んじゃ、ラストバトルといこうじゃねえか!!』
【アナスターシャ最深部、朱炎の鳳凰・フェニックスの間に転移しますか? YES or NO】
「「「「「「「「「「「YES!!!」」」」」」」」」」」
──全員が輝かしい光に包まれた。




