第107話.アナスターシャ 9
遥斗はビーブラッドと正対する。
「剣聖・遥斗、いざ参る……ッ!」
「お兄ちゃんかっこい〜!!」
「かっこいいか……?」
「「はい??」」
「オゥ……すんごい圧を感じるぜ……」
「ほらガルムと紬ちゃん、僕たちはスターラビット行くよ」
スーザに呼ばれ、紬とガルムはスターラビットの討伐に向かった。
10人がスターラビットに向かったことを遥斗は見ることができないので、おそらく向かったというのが正しい。さすがの遥斗でも、今のビーブラッドから目を離すことはできない。
一匹だけなら目を離しても対処できるかもしれないが、クイーンもいるとなると複数体で攻撃される可能性が出てきてしまう。
あの速さで複数体。視線を向けずに対処するのは遥斗でも不可能と判断したためだった。
「さぁ……早速始めようじゃないか」
魔導剣にすることはなく、ただの剣のままで集中を高める。その視線の先には、ただ一匹、クイーン・ビーブラッドのみを見つめる。
その羽が、ジジッと小さく音を立てて揺れた。
刹那、遥斗の視界がビーブラッドで埋め尽くされる。それと同時に、ザクッという音も耳に入ってくる。
その音の原因は、ビーブラッドが両断されるものだった。
「っふぅ……3匹か……スキルなしだとギリだな」
ビーブラッドが行動を開始して切られるまで、約2秒。スキルなしで切るのが常人には不可能だということは、言うまでもないはずだ。
クイーン・ビーブラッドの周りには、残り5匹のビーブラッド。しかし、一度まばたきをしたら、もう視界にはクイーン以外いなかった。
「応用中級剣術スキル・閃電斬・回転斬ッ!」
前方への攻撃だけではなく、体をひねることで全方向に横一閃を放つ。
はさみ撃ちをしてくると予想した遥斗の攻撃は見事に命中し、両断された5匹のビーブラッドが光の粒となって消えていった。
「さぁ、あとはあんただけだぞ」
剣先をクイーン・ビーブラッドに向けながら、遥斗は堂々と告げる。
しかしクイーンは遥斗に向かって攻撃しないどころか、身動き1つしなかった。
「はっ、スターラビットを倒してもらうまでもないな」
そうはいったものの、あくまで油断することはなく、技術である縮地を使い、瞬時にその距離をつめる。
そのままの勢いで胴と頭の接続部と思わしき箇所に剣を振り下ろ──そうとしたが、遥斗はほぼ勘で後ろに大きく飛ぶ。
──先程まで遥斗がいた位置に、数え切れない数のビーブラッドが上空から突撃してくる。
「……っぶねぇ……」
遥斗は額に流れる冷や汗を手で拭いながらそう苦言する。
すべてのビーブラッドが地面に激突して光の粒となって消えていく。そんな動作を繰り返している。
遥斗が無事と気づくと、その突撃も終わった。
そして、もう騙し討ちは通用しないと判断したからか、今度はクイーンの周りにとてつもない量の光の粒が集まってくる。
すべてがビーブラッドとなって顕現すると、ざっと見るだけで50匹はいそうである。
「なるほどね……クイーンにバフがかかっている限り、ビーブラッドは無限に高速で召喚できるってことか……さすがにまいったな……」
剣聖状態でもギリギリ対処できるという速さの魔物を無限に召喚できるとなると、話はかなり変わってきて。
「──創造《魔導剣》、空斬剣」」
遥斗に魔導剣の使用をさせるレベルであった。
ここからは持久戦であった。遥斗は様々な技を試しながらも永遠と倒し続ける。
そして十数分後。
「遥斗くん! たった今スターラビット倒した!」
「了解です!」
遥斗に朗報が入る。スーザの言葉を証明するかのごとく、ビーブラッドの動きが格段と遅くなる。
遥斗は剣を3度振るい、残りの100匹弱のビーブラッドをすべて光の粒へと変える。追加のビーブラッドはなかなか現れない。どうやらバフは生産スピードにも影響があったようだ。
しかし遥斗は一切油断せず、一瞬で距離を詰め剣を振り下ろした。今回は一切邪魔されることはな──。
刹那、遥斗は背後から気配を感じる。
(はっ……? たしかに全員倒しただろ? どういうことだ? いや、でもスターラビットは倒されたんだ。俺がこいつを倒して逃げる時間くらいはあるはずだ!)
突如現れた気配に戸惑いを見せたが、遥斗は状況を冷静に判断し、そのままの勢いで剣を振り下ろす。
しかし、その判断が裏目に出る。
遥斗のすぐ背後に巨大な殺意が迫っていた。それなりに距離があったはずなので、それを一瞬で詰めてきたことになる。
そんな速さ。できるというのならばそれは、《《バフのかかったビーブラッド》》であるだろう。
しかし、そんなことに気づいたところで、もう回避は間に合わない。なんとか急所だけは免れようと身体を捻る。
それにより、剣先から自信が消えた。その隙を見逃すことなくクイーンが逃げ出した。
そしてある程度距離を取ると、《《バフがかかったときの同じ速さ》》でビーブラッドを召喚していく。遥斗にとどめを刺すつもりであろう。
しかし、遥斗はそれをただ眺めることしかできなかった。たとえ縮地を使ったとしても、背後のビーブラッドの攻撃の方が先に遥斗に届く。
「──星炎群・50連発!」
上空から炎の塊が全てを焼き付くす勢いで降ってくる。それはとてつもない速さであり、遥斗の背後に迫っていたビーブラッドを遥斗に怪我を負わせることなく処理した。
残りの炎弾はクイーンの周りに降り注ぎ、ビーブラッドが次々に消えていく。
「お兄ちゃん!! 大丈夫?」
神のイカヅチを落とした紬は、一目散に遥斗のもとに駆け寄ってくる。
「あ、あぁ……マジで助かった……」
紬は遥斗を強く抱きしめる。いくら手加減して戦っているとはいえ、今のは本当に死の危険があったのだ。悲しませたのだろう。
しばらくして紬はクイーンに向き直る。
「お兄ちゃんのことかあああああ!!!」
「いや俺『クリ◯ン』じゃないからな? あと俺まだ死んでないからね?」
紬は指先をクイーンに向ける。
何をしているのかと疑問を浮かべるクイーンの頭に風穴が空いた。
「──上級混合魔法・光熱線」
炎魔法と光魔法、その上級魔法同士の波長を合わせて放ったその魔法は、当たったもの全てを溶かしていった。
こうして紬の最強魔法によって、プリンはあっけなく攻略されたのだった……。




