第100話.アナスターシャ 2
左の部屋の扉に近づくと、ダンジョンに入るときのような魔法陣が全員の足下に出現する。
さらに、ステータスボードのような透明な光の板が現れる。
【アリステラに転移しますか? YES or NO】
『あ、アリステラってのは左の部屋のことだぜ。んで、この「YES」か「NO」のどっちかで、転移するかを選べるぞ』
いくら主要ダンジョンとはいえ、強敵ステージに強制転移はしないでくれるらしい。やはり、ダンジョンは人を殺すために作られたわけではないようにも感じられる。
「えっと……この『YES』を押せば……」
そう言って、スーザがその文字に指を当てると魔法陣か人を包むように一際眩しい光を放つ。
その光が収まるとスーザの姿は消えていた。
『ま、これだけだ。んじゃ、俺らも行こうぜ』
☆
転移し終わると、先程と同じような風景が広がった場所にいた。しかし、先程の場所よりも格段に人が少ないことから転移してきたことが推測できる。
ただ、1人もいないわけではなく、一般的には強い部類の冒険者が数人いる。
ちなみにだが、スーザやホリーといった冒険者は頭がおかしい部類である。
『さっきも言ったが、とりあえずスターラビットを討伐しまくってくれ』
「ん。りょーかい。そしたら特異種が出るんだっけ?」
『あぁ。あとはそいつを倒せばアリステラは一旦終わりだ』
「それじゃ、さっそく始めよっか」
「……なんかホリーさん。ラノベだったら解説役に使われてだな……」
『ん? なんか言ったか?』
「いえ、さっそく行きましょうか」
☆
ブライト、強靭な刃、ハイドの3パーティーに分かれ、さっそくスターラビットの討伐を始めた。
この分かれ方が決まった時、さすがの遥斗も即座に声を上げた。が、『ストラ攻略者だろ?』の1言で何も言い返せなくなってしまった。
「何体くらい倒したらいいんだろうね?」
「うーん……ま、いっても2、30くらいじゃないか?」
「そうだね〜。けど、スターラビットだったら、何体でもいけるか」
向こうでは、ガルムの振動で足止めをしたスターラビットを残り3人が狩ろうとしているのが見える。
しかし、スターラビットはただ足が速いだけでなく、足止め系ギミックからの復帰も速い。そのため、あと一歩のところで逃げられてしまう。
が、それを想定していたかは分からないが、逃げた先に魔法を打っていたミュウが、スターラビットを閉じ込める。
それを、スーザが切り裂いてようやく一匹。もちろん、普通よりかは全然早いが、複数体倒さないといけないとなると、いささか遅いであると言わざるを得ないだろう。
そんな魔物を紬は何体でもいける、と言う。
当然ながら遥斗も倒すことができる。その理由は、2年前に遡る。
「模擬ダンジョンで何回も倒してたし、コツはまだ覚えるもんねっ!」
「コツさえつかめば、ゴキブリホイ◯イと同じだからなぁ」
早速兄妹は準備に取り掛かる。
まずは、遥斗の風籠の一方だけが空いたものを設置する。残りの3方の内、両サイドの2方は風があるのが見えるが、最後の一方は薄く強くして、見えないようにする。
あとは、その空けた一方の正反対に座り、応用上級魔法・風皇突嵐を兄弟の周りを囲うように展開する。
そこへ紬が水玉を数発放つ。
すると、風に水が混ざり、水とその水に反射した光により、兄弟の姿が隠れる。
その後、遥斗が凄まじい技術で風籠がある側のみ風皇突嵐の展開を止める。
その後、兄妹が風籠とは反対側を向くことでこの仕掛けは完成だ。
すると、その周りでは謎の水の壁に疑問を持ったスターラビットが近づいてくる。しかし、近づいたところで中の様子が分からないため周りを移動しながら確かめる。
すると、一箇所だけ隙間があり、人がいるのを見つけたスターラビットが流れ込んでくる。左右の壁を避けるように。
しかし、あとちょっとで兄妹にたどり着く、というところで見えない風に切り裂かれる。
スターラビットは、基本的にお得意の速さを生かした奇襲をしてくる。
それを利用した仕掛けである。
模擬ダンジョンでこの方法を試した時、2度は通用しないと思っていたのだが、どういうわけだか何度でも通用した。そのため、今回もこの方法を使えば何体でも倒せるというわけだ。
──その数十分後。ハイドが一番はやく特異種の出現に成功した。




