8話、カイト印のポーション〜交渉〜
ワタクシ、ルーシィは冒険者ギルドに来ている。応接室に通され、ドキドキとしながら待っている。
カイトさんが作ったポーションの交渉をするためだ。これは本当に画期的だ。ポーションに味を付けるなんて誰が思いつく事だろうか?
「待たせた。俺はギルドマスターのドランだ。それで新商品を持って来たという話だが」
「これです」
コトンと小瓶を二本テーブルに置いた。【鑑定】を使えない者から見ると、一見普通の《低級ポーション》に見える事だろう。
「これは低級ポーションか?」
「【鑑定】をお使いになられたら分かると思います」
一般的な冒険者は、【収納魔法】おろか【鑑定】も使えない者が大多数だ。
だが、ギルドマスター程になると大抵使える。使えないと仕事にならないからだ。
「……………?!これは本当なのか!」
ドランは自らの【鑑定】結果に驚愕している。ギルドマスター程になると【鑑定】レベルは相当高く、よっぽど妨害や偽装のレベルが高くない限り突破出来る。
それに妨害や偽装があれば、痕跡が残るものだ。それもないとすると、【鑑定】結果は紛れもない真実だ。
「はい、本当です」
「飲んでも良いか?」
「そちらはサンプルとして差し上げますので、どうぞ」
ドランは、《低級ポーション+イチゴ味》の小瓶を手に取り、躊躇いもなくゴクンと飲んだ。
「これは?!仄かな甘味と酸味が融合している。こんな飲み物が、この世にあったのか!」
普段のポーションの味を知ってるからこそ、感激雨霰だ。これを飲んでしまったら、もう他のポーションは飲めなくなる。
「うふふふふっ、お気に召されて良かったです」
「これを作ったのは一体誰だ。君ではないだろ?」
ギルドは違うが、長年切磋琢磨してきた間柄だ。これがルーシィが作った物ではない事はお見通しみたいだ。ルーシィは、森精族のため見た目以上に歳上だ。自分のところのギルマスの次にドランとは付き合いが長い。
「ワタクシが作ったかもと思わないのですか?」
「思わんね。作っていたら、とっくの昔に持って来てるだろう。それに、この+は錬金術師の上位職以上じゃないと作れないはずだ」
ギルドマスターの立場になると自然と職業関連の情報が入ってくる。その中に名称の後に+が付く品物が存在するという理があった。
+の有無で、効果の反映が+有の方が最低1.5倍から数倍は違うという。
それらは錬金術師の上位職以上しか作れないという。だが、ここ数百年は錬金術師の上位職は発現していない。
だから、ほとんどの人から忘れ去られ最底辺職という不遇な通り名が、いつの間にか定着していた。
「そうですよ。これはワタクシが作った物ではありませんよ」
「今日は素直に認めるんだな。何か気持ち悪いぞ」
「酷いですね。これを作ったのは我々錬金術師ギルドに舞い降りた期待の新人さんですからね。態々ウソを付いてまでワタクシの手柄にはしませんよ」
コロコロと満面な笑顔でらしくもない事を言い張るルーシィを、珍しい生物でも見た風な視線を向けている。
ルーシィはドランも認める優秀な錬金術師だ。ただし、その反面で平気でウソは付くし他人の手柄を盗もうとする手癖の悪さも合わせ持っている。
「ほぉ、その期待の新人とやらの手柄も頂くと思っていたが?」
「ワタクシを何だと思ってるのですか?!尊敬出来る者でなら、どんなサポートをするまでです」
「お前が言うと寒気がするんだが」
両肘を抱き抱えるように身震いする仕草をするドラン。長い付き合いなだけに、いくら期待の新人とはいえ、そんな事を言う奴とは到底思えないでいる。
「ワタクシだってね、錬金術師なのですよ。錬金術師足るもの知的好奇心を埋めてくれる事なら全力で打ち込みます」
「それが期待の新人とやらか?」
「はい、そうです。ワタクシのセンサーにビビっと引っ掛かりました」
ドランは、その期待の新人が気になるがルーシィに気に入られ気の毒だと感じる方が勝っている。
「はぁ、よし分かった。その期待の新人とやらの顔に免じて取引を行おう。ただし、条件がある」
「はい、何でしょう?」
「その期待の新人とやらに俺にも合わせてくれ」
「カイトに?」
「生産者の顔くらいは見たいもんだろ?」
ずっと発現してなかった錬金術師の上位職に直接見てみたい。筋骨粒々な身体に似合わずにドランは、好奇心旺盛な性格をしており、魔法系職業や錬金術師寄りな考えを持っている。