7話、錬金術師ギルドカード
【素材の次元鞄】から這い出たカイトとギルマスは試験を行った作業場まで戻ってきていた。
「あっ、カイトさん。これカイトさんのギルドカードです」
ルーシィが一枚のカードを手渡してきた。カイトの名前と大きくCと書いてある。冒険者とは段違いの待遇だ。
「これに血を一滴垂らしてください。それでカイトさんにしか使えなくなります」
「わかった」
ナイフで人差し指先を切りつけ血をカードに垂らす。血はカードに吸い込まれるように消え、カイトの認証が完了した。
「失くさないようにしてくださいね。失くしたら再発行に金貨5枚掛かりますから」
「あぁ分かってる」
冒険者ギルドでもそうだった。まぁもう当分、冒険者のギルドカードを使う事はないだろう。
「それとギルドカードに入金されますので、何処のギルドや店で買い物する時にギルドカードを見せれば大丈夫です」
「入金?」
冒険者ギルドでは、そのまま手渡された記憶しかない。いや、今考えると勇者シャインから渡されたような気がする。
「では、ギルド内を案内します」
ルーシィの笑顔が眩しい。何で不遇な職業とされる錬金術師をやってるんだろう。
まぁ【女神の宝珠】によって選ばれるから自分の好きな職業は就けないけど。
「ここは試験の時に来ましたね。自分の工房を持たない錬金術師達が作業をする作業場になります」
「自分の工房を持ってる錬金術師もいるんですか?」
「えぇいますよ。まぁ少ないですけど」
聞いてはいけない事だったか?!ルーシィが俺から見てもドンヨリと凹んでる。
「さぁ次に行きましょう。ここはクエストボードになります。作製して欲しい武器・防具・アイテム類が掲示してありますね。受注したいクエストがあれば、紙を取って受付で受注してくださいね」
色んな作製クエストがある。ランクが上がるに連れ作製も難しくなる。
それに加え素材から入手しなくてはならないクエストもある。だが、俺には関係ない。俺には固有武装:【素材の次元鞄】がある。これで大抵の素材は手に入る。
「ワタクシがオススメなのが、これです」
ルーシィが指を差したのは、『低級ポーション作製』という紙だった。
依頼元は、冒険者ギルドである。常時クエストのようで、作製した分お金が振り込まれる。
「冒険者の新人さんに売れるので、常に発注状態となってます」
新人が中級・高級ポーションなんか先ず買えない。買ったら代金を払えずに借金奴隷になってしまう。
それ程に高い。
「これは売れますかね?」
カイトは、【低級ポーション+】をルーシィに手渡した。試験で作った物とは違うが、劣化しておらず品質も高水準だ。
「そうですね?冒険者ギルドの交渉次第ですが、いけるでしょうね。これ一本だけですか?」
「いえ、これなんかどうですか?」
次に取り出したのは、【低級ポーション+イチゴ味】である。薄ピンク色の液体が入った小瓶を手渡した。
低級に限らず、ポーション類は不味い。慣れないと飲めたものでない。例えると、どぶ水に数ヶ月放置した魚肉を混ぜ合わせたものだろうか?
「イチゴ味?」
「飲んで見てください」
ゴクンとルーシィは何の躊躇いもなく【低級ポーション+イチゴ味】を飲んだ。飲み干した。
「美味しい?!爽やかな甘味と酸味のハーモニー、これがポーションですか?!」
カイトは常々疑問に思っていた。いくらケガを治すためだとはいえ、こんな不味いポーションを飲み続けていたら精神的に参ってしまう。
そこでふと閃いた。無いなら自分で美味しいポーションを作れば良いと。そう閃いた瞬間、職業の声が頭に響いた。
ルーシィに手渡した【低級ポーション+イチゴ味】のレシピが頭に流れてきたのだ。
その他のポーション類のレシピが次から次へと流れて来る。常人ならきっと頭がパンクして気絶するに違いない。
だけど、カイトは常人ではなかった。自分の知らなかったレシピを修得しようと耐え続けた。
それが何度かポーション類とは別に似たような事があった。錬金術師にとって閃きは大切だと思いつつも、あの頭の痛さはトラウマレベルだ。
リスクがあった分、レシピがとんでもない量となっている。全てはカイトの頭の中しかなく、門外不出の財産となっている。