6話、人造人間サクラ
「キッヒヒヒヒ、まさか職業の声を聞いたのか?」
本人しか聞こえない、頭に直接響く声がたまに聞こえる事がある。それが通称:職業の声と俺らが勝手に呼んでる。
技能の修得時、使い方や注意事項等を教えてくれる。ただし、一方通行で職業の声が勝手に話し掛けるだけだ。こっちからの質問は受け付けない。聞き逃したら終わりである。
「あぁそうだ。サクラと出会えて良かったが、その逆で本当に作って良かったのかと思ってる自分がいる」
「御主人様、ワタクシは御主人様と出会えて嬉しいです。御主人様は、ワタクシの事ご迷惑ですか?」
「すまない。嬉しいに決まってるだろ」
サクラの頭を優しく撫でる。本当に人間の女の子と変わらない手触りで、サクラの表情が悲しみから喜びへと、コロコロ変わるところも人間と変わりない。
「ゴホン、イチャイチャするのは構わんが、他でやってくれぬか?」
「あっすみません」
「わ、ワタクシお茶を汲んで来ます」
ピューンとサクラがログハウスの中へ小走りで行ってしまった。
たまにサクラの事を製作者のカイトでさえ、普通の女の子だと思ってしまう時が度々ある。
「テーブルと椅子をご用意しました」
素材として置いてあった丸太にカイトが右手で触ると、あっという間に丸いテーブルと椅子二脚が出来上がった。
「キッヒヒヒヒ、本当に規格外じゃのぉ」
「今まで俺以外の錬金術師と会った事ないので、あんまり自覚はありませんが」
勇者シャイン達には、試験で作製したポーション以外にも色々作っては渡して来たが、驚く様子もなかったので、これが普通の事だと思っていた。
ただし、固有武装やサクラの事は内緒にしていた。後は戦い方か、物質の提供や荷物持ちに武器・防具の手入れ等のサポートだけでカイトは勇者シャイン達がいる場面では一度も戦ってはいない。
パーティーを組んだ際に戦うなと言われていた。それでサポート役に徹していた。
「それで人造人間のレシピは教える気がないのじゃな」
「はい、ありませんね。あれは絶対に世に出してはいけない代物です。破滅しかありません」
職業の声により人造人間の作り方を知り、そして作った。最初カイトも知的好奇心により作ったのだが、問題はその後であった。
サクラが出来上がった後、再び職業の声が頭に響いた。それで人造人間の真実を知り、レシピを燃やした。燃やさないといけなかった。
これで人造人間のレシピを知る人間はカイトのみである。
「その真実とやらも教えては━━━」
「いけません。真実も合わせて、この世には出してはいけない」
いけないと知ると余計に知りたくなるのが人間の性、どうにかカイトから人造人間の真実だけでも聞きだそうかと思案するギルマス。
ブツブツと考えてる内にサクラがお茶を運んで来た。お茶菓子も忘れずに並べる。
「ギルマス、冷めない内にお茶でも」
「キッヒヒヒヒ、そうじゃな」
うん、何時でもルーシィが淹れてくれるお茶は美味しい。それにこのお茶菓子━━━クッキーも美味だ。サクラの手作りで、サクサクと焼き加減も絶妙に良い仕事をしている。
ギルマスもサクラが淹れたお茶を気に入ったようで、ほぼ一気で飲み干した。その様子に俺は、ニヤリとにやけた。
「ぶほっ!何を入れた?!」
俺の笑顔に気付いたようだ。だが、もう遅い。既に効果は発揮している。
「大した事はありません。ここで見て聞いた事を話せなくしただけです。話そうとすると声が出なくなる【無音剤】でね。別に命には異常はありません」
ただ声を発しられなくなるだけの薬と言えば、それまでだが、この薬は通称:魔術師殺しと言われてる薬で、魔術師系職業の者が飲めば詠唱が必要とされる魔術は一生使えなくなり仕事が失くなる。
ただし、カイトが作製した【無音剤】は少し違う。声が出せなくなる条件を付け加える事が出来る。
今回の場合は、『鞄内で見聞きした事』『鞄外で鞄内の質問をする事(ただし、二人切りの時は別)』『鞄外で鞄内の事を話した事』の三つの事が話せなくなる。
「クッカカカカカ、実に面白いのぉ。儂に薬を盛るとは」
「怒ってないのですか?」
「錬金術師足るもの、他人に明かせないレシピや秘密が十個や百個はあるものだ」
「いや、そんなにないんですが…………」
「こんな事で怒り心頭では錬金術師は務まらん」
ギルマスなら何時か【無音剤】の解毒剤を作ってしまうかもしれない。