47話、奴隷を落札するその2
『他にはいませんか?』
バンバン
『109番落札』
よし、どうなら落札出来たようだ。横目で競り合った貴族のご老人を見ると、よほど悔しかったのか?苦虫を潰したようにギリギリと歯軋りを噛んでる。
ちなみにオークションのルールの1つとして、支払いは一括というのがあり、支払いが出来ないと一生出禁の他、拷問に掛けられるというペナルティーが待っている。
「これで終わりましたわ。カイト君は、出品したポーションの料金と奴隷の支払いが待ってますわね」
「ポーションの料金から差し引けば、なんら問題ないだろ。行ってくる」
商品とお金の受け渡しは、ステージ裏にある。俺は、席を立ち案内に従って突き進む。
「109番様」
「俺だ」
「こちらへ」
やっと俺の番が来た。俺が競り落とした商品であるノーアのイレイヤが車椅子に乗せて運ばれて来たが、やはり何度見ても酷い様相だ。
早く治してやりたいが、ここでは人の目があり過ぎる。あんまり目立ちたくない。
「おめでとうございます。ギルドカードはお持ちで?」
「はい」
カード同士を近づけ、先ずはポーションの売値が支払われた。そして、ノーアのイレイヤの支払いを終わらせ、奴隷の手続きに移った。
所有権を俺に移すため、複雑な魔法陣が描かれた《奴隷書》という羊皮紙に手を置くと淡く光った。これで所有権は俺に移った。
「これで所有権は移りました」
「これで終わりなのか?」
ノーアのイレイアは包帯で見れないが、首筋の後ろ側に奴隷紋が刻まれ、同じものがカイトの右手の甲にも表れた。
「お客様のご自宅までお運び出来ますが、どうなさいますか?」
「それじゃぁ頼む。住所はここだ。この宿屋に頼む」
「かしこまりました」
普通の奴隷ならこのまま連れて行っても構わないが、四肢欠損しており、それに加えノーアの奴隷を連れて歩いたら周囲から奇異の視線を向けられて目立ってしまう。
「支払いは終わったかしら?」
「えぇ終わりました」
「本当に買ってしまって、良かったの?あんな…………いえ、何でもないわ」
口に出そうとしたことは分かってる。四肢欠損してて、ノーアの奴隷なんて買うのは、とんだ変態かサイエンティストくらいだろう。
もちろん、俺はそのどちらでもない。
「宿屋まで馬車まで送るわ」
「ありがとございます」
フリュールは何も競り落とさなかった。本当に俺を裏オークションへ案内するだけだったみたいだ。
これで借り1つとなってしまったが、到しかたない。裏オークションに入るには会員の推薦か一緒に来るしか方法がないから。
「着いたわ。ここよね」
「ここです。この度はありがとうございました」
馬車は、俺が泊まってる鷹のクチバシ亭に停車した。俺が馬車から降りると、フリュールはニコニコと手を振りながら馬車は出発した。
「おや、帰ってきたね。お客さんがお目見えだよ。カイトの部屋に通してあるよ」
「ありがとう。テイラーさん」
テイラーさんは、ここ鷹のクチバシ亭の店主。食事は美味しいし、何より安いのが売りの宿屋だ。
「お待たせ致しました」
「いえいえ、こちらこそ落札ありがとうございます」
裏オークションで奴隷の手続きをやってくれたのとは別の人だ。
「こちらでお間違いないでしょうか?」
バサッと袋から取り出したのは、間違いなく落札したノーアのイレイア本人だ。
物扱いして一瞬頭に血が昇ったが、息を吸い込み吐き出し深呼吸して落ち着いた。
法律として表向きは守られていても人権はないのだから。この運び人は仕事でやってるに過ぎない。
「えぇ間違いありません」
「では、こちらにサインを。これで失礼致します」
床に無造作に置かれたノーアのイレイアを自分のベッドへ寝かせる。呼吸による胸の動きしか微動作する様子がない。
「起きてるなら頷いてくれ」
コクン
頭が微かに動いた。どうやら起きてるようだ。だが、なんとも弱々しい。
「今から薬を飲ますから飲んでくれ」
コクン
僅かに口を開けてくれた。今から飲ますのは最高位の頂きにあるポーションである万能薬だ。
万能薬は例外を除き、どんな病気やケガを圧倒いうまに治してしまう。
万能薬の作成が薬師系職業と錬金術系職業の到達点の1つとなる。
到達点を成した者は、例外なく名誉と地位が約束される。それ程に凄い実績だが、指で数える程しかいないという。
錬金術系職業の到達点は、全部で3つあるとされる。1つ目は、人造人間。サクラがそうだ。
2つ目は、万能薬で欲しがる者は後が絶たない。
3つ目は、謎に包まれた物質。賢者の石だ。様々な錬金術の媒体に出来、タダの石っころから金を生み出したり、無機質に命を与える事も可能にする万能物質である。
 




