44話、裏オークション
勇者シャインに修理した聖剣に扮した聖玉を渡してから、あっという間にオークションの開催日となった。
薬師ギルドのギルドマスターであるフリュールが直々にオークション会場を案内してくれるという。
「こっちよ」
「お綺麗でございます」
「そう、ありがとうとお礼を言って置くわ」
露出が激しくとも貴族のパーティで着用されるような真っ赤に燃えるような赤いドレス。
薬師ギルドマスターじゃなかったら声を掛けていたかもしれない。それぐらいに男心を刺激してやまない。
俺も聖玉の修理で得た臨時ボーナスで買ったタキシード紛いの衣服を着ての参加だ。今、貴族の男性の間で外行きの服装として流行ってるらしい。
「着いたわ。ここの地下でオークションをやるわ」
「へっ?ここですか?」
馬車に揺られる事、数分。到着したのは何の変哲もない一軒家。看板もなく、普通の4人家族が住むにはちょうど良い大きさの家屋。
「大胆に開催する訳には行かないのよ。大きい屋敷で開催されるよりは隠れ蓑になる訳ね。さぁ入るわよ。あっ、仮面を着けるのを忘れないでね」
多くの貴族が来てると言っても、それはお忍びとしてだ。堂々と来るはずもない。何故なら、これから向かうのは、どっちかと言うと裏が付く方のオークションである。
「さぁ入るわよ。準備は良いわね」
「えぇ入りましょう」
フリュールに着いて行き、家屋の部屋には椅子が一脚あるのみ。そこ座る人影があり、近寄るとスラムにでも住んでそうな見窄らしい男性が座っている。
「招待状は持ってるいるかね?」
「これで良い?」
隣に俺がいるのにフリュールは、何処から招待状を出してるのか!俺は、すかさず視線を隣に移す。
一瞬クスッとフリュールが笑ったように見えた。絶対に誂ってるだろ!
「して、そちらの方は?」
「ワタクシの連れよ?」
「これは失礼を致しました。どうぞ、こちらへ」
見窄らしいのは外見だけだ。貴族か商人かは不明だが、教養を受けてるのは確かだ。受け答えは出来てるし、招待状を確認したという事は文字は読めてる証拠。
スラムに住んでるような男が、文字は読めるはずがない。中世に近い時代背景のアークランドでは、識字率は高くない。
文字や計算が出来るのは、貴族か商人かそれ相応の立場にある者だけ。
「こちらから地下へ行けます」
「行き止まり?」
いや、見た目はタダの壁だが、俺の職業である黄昏が奥に空間があると呟いて来る。
「少し離れていて下さい」
見窄らしい男が、壁にテンポ良く指先で触れて行くと壁に魔法陣が表れた。
「これは【魔導結界】か」
決まった手順で解除しないと入れない障壁の1種。これを設計から構築・設置までやるのは個人では、まず不可能とされている。
それ程に複雑で、もしやるなら数千枚の金貨が飛ぶ。そんな物を施してあるなんて、オークションではそれ以上の利益が出てるとしか思えない。
「隠し扉に、その向こうは階段か」
「どうぞ、お入り下さい」
階段を降って行くと、そこは上の家屋の下にあるとは思えない程の広大な面積を誇る空間が拡がっていた。
既に俺らと同じく仮面を着用してるオークションの客が席に座って今かと今かと待機している。
「ワタクシの席は、あそこよ」
席は1つ1つ決められており、俺とフリュールの席は中央からやや離れた場所だ。ここからでも商品を紹介するステージは十二分に見える。
キョロキョロ
「そんなにキョロキョロするな。堂々としてれば良い」
「す、すみません」
だが、それは到底無理な話だ。1回は名前を耳にした事のある貴族や大物が、ちらほらといるのだから。
それに少数だが、冒険者らしき者も見受けられる。
「ルールを説明しておく。ここにある札を挙げれば、入札する事が出来る。入札する金額は指先で表現するのだが出来るか?」
「いえ、こういう所初めてで」
「まぁそうだろうな。ここはワタクシが代わりに入札してやるから、お金は払えよ」
「助かります」
「まぁお前のポーションが、どれくらいになるか見物だな」
今回は、俺が作った4種類のポーションをセットでオークションに掛けた。どれも希少なポーションで、材料もそうだが作れる者が少ない。
鑑定費料を差し引いても金貨1万枚は行くと、フリュールは言ってたが、こればかりは自信はない。だって、世間で希少と言われても黄昏である俺だと普通になってしまう。
「ほら、始まるぞ」




