42話、勇者、温泉に入る2
「温泉はこっちだ」
「温泉も探知出来るのかよ」
「硫黄を探知してるだけだ」
温泉に含まれる硫黄を探知すれば温泉も探知出来る。それは考えれば誰だって分かる事。
「ここだな」
『シャァァァ』
「マグマスネーク」
「ファイヤースネークの上位種?!」
流石はBランクと言ったところか。初心者では、先ず倒せず、中級者でようやくパーティ単位で太刀打ち出来る魔物だ。
火山地帯に住み、5mはあるであろう長さで通常の武器ではマグマスネークの皮膚に届くまでには溶けてしまう。
一般的な攻略法は、水属性の魔法で冷やしたところをハンマーで砕くのが一般的である。
「何を驚いてやがる。僕らには楽勝な魔物ではないか」
ギルが言う通り僕らには楽勝だろう。なにせ勇者パーティなのだから。
この前はギリギリだったがAランクどころか、Sランクの魔物を倒せる最高なパーティのはずだ。
だから、こんなところで手間取る訳には行かない。それに僕には聖剣がある。楽勝に決まっている。
「行くぞぉ」
「へっへっ、久し振りに腕がなるぜ」
「仕方ないわね。温泉のために」
「これも神のお導きです」
マグマスネークは既にこちらに気が付いてる。いくら上位種になっても生態はそんなに変化はしないとタカをくぐったのが間違いだった。
『ギャォォォォォ』
「火の玉だと!」
「避けろぉぉぉ!」
「間に合わな」
「護り給え【障壁】」
シャルロットに当たる寸前、ルーフィンが見えない壁を前方へ張った。ドンッと鈍い音と共に火の玉は止まった。
「ルー、助かったわ」
「賢者のあなたに死なれては困りますから」
「おい、大丈夫か?」
「こっちは大丈夫よ。ファイヤースネークの上位種なら水属性が弱いはずよね。渦巻きなさい【水竜巻】」
前に突き出したシャルロットの手の平から螺旋状に大量の水が勢い良く噴出した。賢者なだけはあって、命中精度も悪くないようでクリーンヒットした。
だが、水属性が弱点でも明らかに火力が足りてない。本来なら複数人の魔法使いで水属性魔法で一斉に攻撃するのが鉄則。
魔法使いの最上位職業である賢者でも1人だけでは、その内に魔力が足らなくなるのがオチだ。
『ギャォォォォォ』
「良いぞ、シャルロット効いてる」
「ハァハァ、どうよ。アタシの水属性魔法は」
「おりぁぁぁぁぁ行くぞぉぉぉぉ【クラッシュアックス】」
水の竜巻が命中した箇所は硬化しており、そこをギルが斧で叩き割る。ギルの腕力でマグマが硬化した岩が崩れ、マグマスネークが倒れた。
「やったぞ」
「どんなもんだい」
「ふぅ、殺ったのね」
「尊い命が神の元へ帰らんことを」
4人共、マグマスネークを倒したと思った。そう勘違いした。何故なら、冷えて固まった岩と化した部分を破壊し、胴体が真っ二つに別れたからである。
だが、忘れては行けない。魔物の心臓部である魔石が無事なら常識では考えられない程の再生能力により回復してしまう。
「…………!シャイン様、後ろ!」
「何っ!こいつ倒れたはずじゃないのかよ」
シャイン達は知らなかった。魔物は、魔石が壊れる事により絶命する事を。
魔石を壊すには大きく分けて二通りある。1つ目は、一定数のダメージを与え続け魔石に蓄積させる方法。ほとんどこの方法で魔物は討伐される。
もう1つの方法は、魔石を直接破壊する方法。この方法だと魔石が何処にあるか探知出来ないと不可能に近い。
だが、熊や鹿等の動物型の魔物は心臓の近くに魔石がある事が多く、その事を知ってる冒険者の多くは心臓付近を狙う事が多い。
「心臓を狙うんだ。心臓さえ破壊出来れば、倒れるはずだ」
「おうよ。喰らいやがれぇ【グランドクラッシュ】」
「貫きたまえ【閃光線】」
「今度は貫通力を上げて【水切断】」
知識は間違ってるが、勘が鋭いシャイン。3人の集中攻撃によりマグマスネークの心臓付近を貫いた。
パリンと割れる音が響くが、魔石の知識がない4人にとっては何か鉱石が割れる音程度としか認識がなかった。
「これで温泉に入れるわね」
「たくよぉ。これだから女はいけねぇぜ。そこら辺の泉で水浴びでもしてれば良いのによ」
「それじゃぁ、ギルは入らないのね」
「誰も入らないとは言ってないだろ」
4人共、温泉初体験。それも一層に引いてる温泉の源泉を貸し切りで入る。これを贅沢だとは、4人全員思っていないのである。
 




